第43話:エアー・ウォーリアーズ
俺は、王城の大広間にいる貴族たち全員から拍手と黄色い声を浴びた。
「俺が・・・こ、公爵様。」
現代日本で生きてきた俺でもわかる。公爵は爵位の中でも一番位の高い奴だ。
「ハロルド公爵よ。」
「は、ハイ!」
「君には、サプライズをしたくてあえて詳しい内容を隠したんだ。気に入ってくれたかね。」
「ハイ!わたくしのような男にこのような地位をくださって感謝に堪えません。」
「そんなにかしこまらなくともよい。ともかく、今回の晩餐会の主役は君だ。ここにいる者たちに挨拶をしてやったらどうかね。」
スピーチなんて何年ぶりだろうか・・・でも、やるしかない!
「みなさん、此度は私のためにお集まりいただきありがとうございます。今回、めでたく公爵という地位につかせていただきましたがそれに甘んじず、法国のため、我が領地のために身を粉にして働くことをここで誓います!」
滑っていないか心配だったので、横目でちらりと法王の方を見たがとても満足そうだった。
「うむ、よく言ったハロルド君!さすがは、法国の英雄だ。フレー、グラスを持ってまいれ!」
「ハイ、法王猊下。」
フレーは恭しく頭を下げると、ワインレッドの飲み物を注いだグラスを俺と法王、ソーニャ、ガリー、モーナ、そして自分の分を乗せた盆を持ってきた。
全員にグラスがいきわたったところで法王が立ち上がる。
「それでは諸君!乾杯と行こうではないか!!」
それを合図に俺を含めた全員が乾杯した。
隣にいたモーナが何をしていいかわからない俺にこっそり教えてくれた。
「乾杯の後は、このグラスの飲み物を一気飲みするのが習わしです。」
そう言って、モーナは一気に飲み干した。
「そ、そうか。」
俺もそれに倣ってワインレッドの液体を飲み干した。
熱いものが喉を駆け巡る。
「うまい、これはワインか。」
・・・・・・
しばらくすると、みんな出来上がった。かくいう俺もそのクチだ。
酒は飲めなくはないのだが、アルコール度数9%のビール1本で前後不覚になるほどお酒に弱い。
このままだと、酔いつぶれた勢いでとんでもないことを口走ると思った俺は、王城のメイドから水をもらい、二階にある大広間の近くのバルコニーで夜風に当たることにした。
事実、際どいドレスを着た貴族の女子たちから言い寄られたときは、肯定の返事を何度もしそうになった。
夜空を見上げると月が二つ輝いていた。1つは、地球のそれより大きく、もう1つはとても小さかった。今更だが、俺が生きている世界が異世界であることを改めて実感する。
「主役がこんなところで何しているんですか。ハロルド様。」
いつの間にかそばにフレーがいた。
「気持ち悪くなっただけだ。酒に弱いもんでな。」
フレーもお酒で顔が赤くなっていて、フリルが付いた紫色のドレスから覗く白い素肌が美しい。
「んー?どうしたんですか。ハロルド様ー?」
「な、なんでもない。それよりフレー、イザベラの姿が見えないが・・・。」
「えー?私よりイザベラさんの方がいいというんですかい。」
顔が近い!
「い、いえ、そう言うわけじゃ・・・。」
「フフッ、冗談ですよ。彼女は、辞退したそうです。こういう催しは苦手だそうで・・・。」
「そうか・・・。」
「ここにおりましたか、ハロルド公爵様!」
「あ、オーエス伯爵様。」
「オーエスで構いませんよ。今では、もう私よりも地位が上なんです。そんな人が、あのような演説をしたらいけませんよ。もっと、威厳たっぷりに言いませんと、なめてかかる輩もいるんですから。」
「善処・・・する。ところで、あれから魔素はどうなった?」
オーエスの代わりにそばにいたミネーラが教えてくれた。
「大分薄くなりましたよ。やはり、あの4つのダンジョンで魔素の異常発生が起きたのが原因だったのでしょう。数十年に1度ですが、こういう事例はあるらしいんです。」
「なるほど・・・。」
「あ!いましたいました!!ハロルド様ー!」「ご主人様ー!」
「モーナ、ソーニャ。」
「ひどいですよハロルド様、急にいなくなっちゃうものですから、ほかの男たちに言い寄られて説得に時間がかかったのですから・・・。」
「ああ、すまん。」
「モーナ君、着てくれたんだな。その衣装・・・なかなか、似合っているぞ。」
オーエスは興奮した様子でモーナに話しかけた。
「あなたのために来たわけではありませんわ。」
「お、おいモーナ!」
「はっはっは!構わんよハロルドさん。ゴスロリ少女を拝めただけでも私は満足です!」
隠す気ゼロかよ。
「こーのー・・・ケダモノ親父!」
オーエスは、横にいた娘に思いっきり膝の裏を蹴られて悶絶した。
「おうふっ!・・・きくねぇ~。」
「・・・で、モーナはなんて断ったんだい?」
「ハロルド様とは、すでに付き合っていますので遠慮させていただきますって。」
それを聞いた瞬間、俺は水を盛大に吹いた。
横で聞いていたフレーは口を両手で覆った。
「本当に言ったのか!?そんなこと・・・。」
「私じゃいやですか?ハロルド様・・・。」
モーナが涙目で俺を見上げる。俺、こういうタイプに弱いんだよなー。
「そ、そんなことないぞ!」
「よかった!これから、あなたの妻として精一杯頑張ります!」
「そうかそうか、え?・・・・今、なんて!?」
すると、ソーニャが俺の左腕をがっしりとつかんだ。
「ご主人様!ううん、旦那様!これから、旦那様と呼びたいですっ!」
「そ、ソーニャまで!?」
「ガリーも旦那様はご主人様が・・・イイ。」
「ガリー!?」
「あー、ずーるーいー二人とも!じゃあ私も、ハロルドさんのお嫁さんになるー!」
そう言って、ミネーラはあろうことか、父親の目の前で俺に抱き着きお嫁さん宣言をした。
こ、殺される!いくら、性にあけっぴろげなオーエスでもさすがに・・・。
「ハロルド君!」
「ハイっ!」
「精力剤なら我が家に代々伝わる強力なものがある。必要とあらば持ってこさせるぞ!」
お前は何の心配しているんだエロ親父!?突っ込めよ!このカオスな状況に突っ込めよー!!
そうだ!常識人なフレーに助けを!
そう思った矢先、フレーが近づいてきて俺の空いている右腕をそっとつかんだ。
「ふ、フレー?」
「は、ハロルド様、わ、私の初めて・・・貰っていただけないでしょうか?」
か、壊滅したアアア!あれれ、おっかしいぞー?俺、魅了のスキルまで持ってたっけ?
「ハロルド殿、そこにおられたか!」
そ、そうだよ。まだ、イロハさんがいるじゃないか!
「あ、おお、イロハか。ちょうどいい!お前、俺に話があるんだっけ?何でも聞いてくれ。」
彼女は、桜の花びら柄のピンクを基調とした着物を着ていてとても可愛らしかった。
「そ、そうだ。その・・・わらわと正式にお付き合いください!!」
イロハは、頭を下げて俺に握手を求めた。
「・・・ふぇ?」
「私も、ハーレム要員に入れてくれよ!悪くねえ話だろ?」
ほろ酔いのジャラさんが近づいてきた。
「あ、あなたまで・・・。」
「正直、アーマードベアから救い出してもらった時からドキドキが止まらねえんだ。酒の勢いで言っちまおうと思ってな。私も・・・その、妻として迎え入れてくれねえか?」
ギャップ萌えって奴だろうか、普段から男っぽい衣装を着ている強気な女性であるジャラさんが、きらびやかな宝石を身にまとい、フリルのついたドレスを着ている姿でしおらしくなっているのが、可愛く見えてしまう・・・。
「お、俺は別に構わねえけど・・・。」
「よっしゃ!」
彼女は可愛らしくガッツポーズをした。
「ハロルド公爵よ。主賓がこんなところで何をしている?」
「ほ、法王様。」
色ボケしているとはいえ、女性陣もさすがに法王のために道を開けた。
「聞けば随分とモテているそうじゃないか?」
「こ、これはその・・・。」
「よい、あーそれと、私の娘が言いたいことがあるそうだ。」
娘の顔は真っ赤だ。もう先が読めてしまったゾ。
「あの、その・・・ハロルド様、私を正室に迎え入れてくださいませんでしょうか?」
「てぃ、ティアナ王女様・・・。」
「どうだ?悪い話ではなかろう?」
やっぱりかー!でも、不思議と嫌な気分はしない。なぜなら、長年憧れだった王女様との結婚。それがようやく実現するのだから。もうこうなったら、なるようになれだ!
「は、ハイ。戦闘面以外では頼りない男ですがどうぞよろしくお願い致します。」
王女様は、顔を手で覆って深呼吸をしてから、手をゆっくりと降ろして精一杯の可愛らしい笑顔で答えた。
「ハイ、よろしくお願いいたします。旦那様。」
うーん、残された女性たちの反応が気になるな・・・。
「でしたら、王女様以外全員側室になれば万事解決ですね!」
モーナの発言に、皆は頷いた。どうやら、キャットファイトの心配はなさそうだ。
「では、婚姻の儀は後日執り行うとしよう。」
「は、ハイ!!」
その後、俺は吟遊詩人が数々の武勇伝を広めたことによって、『無魔人』と呼ばれることはなくなり、代わりにこう呼ばれるようになった。
空気で無双する者『エアー・ウォーリアーズ』と・・・。
エアー・ウォーリアーズ:外れスキル『空気操作』を授かった魔法を使えない俺は、前世の記憶が甦ったので魔法第一主義の国で『無双』する。 小林ミメト @mimeto
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