第42話:法王からの招待

俺は、緊張の面持ちで馬車に乗っていた。なぜなら、法王様から正装で来いと言われたからだ。


「モーナ、ネクタイ曲がってないか?」


「大丈夫です。それよりも・・・私の蝶ネクタイ、曲がってませんか?」


モーナの服装は、オーエス伯爵からもらったゴスロリ衣装だった。


「あー、ちょっと曲がってるな。直してやる。」


見ると少し、斜めっていた。これはいかんと思った俺は身を乗り出した。


ガタン!


「おわっ!」


ものすごい音とともに馬車が大きく揺れた。恐らく、小石か何かをふんだんだろう。


その拍子に前のめりに倒れてしまった。


「は、ハロルド・・・様。」


「く、クッションがあって助かっ・・・た?」


つぶっていた目を開けると、黒い何かが視界を覆っていた。


そして、そこから香水の良い香りが鼻をくすぐった。


見上げると俺の頭の中が『ヤバイ』の3文字でいっぱいになる。


その良い香りの持ち主が、涙目で俺を見下ろしながら顔を真っ赤にしていたのだから。


「うわー!ご、ごめん!!」


思わずのけぞった。


「あう・・・だ、大丈夫です。自分で、直します。」


「ご主人様。」


「ど、どうした?ソーニャ。」


ソーニャは、肌の白さも相まって純白のドレスがよく似合っていた。見たところ、どこも可笑しなところはないが・・・。


すると、いきなりソーニャは俺の手を取った。彼女の手は雪のように白く美しかった。


そして、思いっきり自分の胸に押し当てたのだ。大きさはモーナより少し大きくらいか・・・ってそうじゃない!


「ホントにどうした?!」


「あの、その・・・緊張しているのでご主人様の力でドキドキを抑えらないかなーって。」


「・・・え?」


「は、ハロルド様!」


言うが早いか、モーナも俺の空いた手を取り自分の胸に押し付けた。


「私も、ドキドキを収めてほしいです!」


それをじっと見ていたガリーは辛うじて開いていた俺の下半身部分に抱き着いてきた。


「私も、・・・ドキドキ収めてほしいのです!」


「お、お・・・俺にそんな力があるかーっ!!」


・・・・・・


「王城に着きましたよハロルド様、モーナさん、ソーニャさん、ガリーさん。」


御者をやらせていたジェネルに言われて、俺はフラフラの足取りで降りた。


「よ、ようやくついたか。」「疲れたのです。」「わ、私も・・・。」「へとへとー。」


「どうしたんです旦那。緊張しているんすか?」


「それもあるが・・・まあ、そうだな。それにしても、俺を護衛するための騎士団になっただけでよく検問を突破出来たな。」


「その噂を広めたのがジャラ様だからとしか言いようがありません。」


「あの人、よほど信用されているんだな・・・。というか、ジャブってポーパルバニーだったんだな。」


ジャラが噂を広めたとはいえ、ジャブのあの鉄仮面じゃ王城にふさわしくないと判断したので脱いでもらったのだ。


「スノーラビットの所以は、この俺の見た目そのまんまから取ったんでさぁ。」


しかも、こいつ脱いだらやけどだらけというわけではなく、むしろ俺よりもイケメンだった。ちょっとうらやましい。


どうやら、裏社会で大分顔が割れてしまったらしく、5年前からずっとあの鉄仮面をかぶっていたらしい。


ちなみに妻子の方は、万が一に備えて警備が厳重な俺の屋敷に引っ越してもらっている。


「ここにいらしたんですね。」


「あ、ティアナ王女様!」


「皆さん首を長くして待っておられますよ!」


大広間に通されてドアが開かれるとそこは、きらびやかなシャンデリアの下で、いくつもの大きなテーブルを優雅なドレスやタキシードで身を包んだ貴族やそれを守る護衛が囲んでいた。


いくつもの宝石が散りばめられた中央の背もたれの大きな椅子には、法王が座っていてその左横にフレーが立っていた。


「さ、早く早く!」


「そ、そんなにせかさないで下さい!王女様!!」


王女はぴたりと立ち止まって叫んだ。


「皆さん!大変お待たせいたしました!!」


場はしんと静まり返った。


「法国の英雄、ハロルド・レオン・マホウスキー男爵様のご登場です!拍手でお迎えください!!」


その声の後に割れんばかりの拍手が俺を圧倒させた。


「こ、これは一体!?」


法王が立ち上がり、こっちへ来いと言わんばかりに手招きをしている。


俺は、跳ね上がる心臓を抑えながら、モーナとソーニャ、ガリーを引き連れて法王のもとへ向かった。


ソーニャとガリーは亜人なので差別を警戒していた。


「見てあの子、フェンリルよ!」「実物を見るのは初めてじゃ!ありがたや、ありがたや・・・。」「綺麗な髪、うらやましいわー。」


どうやらその心配はいらないようだ。


法王の前まで来た俺は、跪いてあいさつした。


「マホウスキー家当主、ハロルド・レオン・マホウスキー男爵!法王猊下の前にはせ参じました!!」


「よく来てくれた!ハロルド・レオン・マホウスキー。君のことについて皆に教えておきたいことがあってな。さ、こちらに来なさい。」


法王は掌で、自分の右横を指した。


俺は、冷汗をかきながら言われるがままに従った。


法王はフレーと何かを話し、頷くと広間に響く声で貴族たちに向かって話した。


「皆も知っての通り、ハロルド・レオン・マホウスキーは、4つのダンジョンで同時に発生したディザスター級スタンピードをたった一日で壊滅させた!これは、我が国始まって以来の快挙だ!」


周りはしんと静まり返っている。


「しかも、彼は今回のスタンピードで一度も死者を出さぬという奇跡を起こした。」


これには言いたいことがあったが国のしきたりのためぐっとこらえた。


「よって彼にはそれ相応の地位を与えようと思う!ハロルド・レオン・マホウスキーを男爵から公爵に陞爵(しょうしゃく)することを宣言する!」

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