第41話:マホウスキー男爵家の現状②

あの一件から、ちょうど1ヶ月が過ぎた。


俺は、ちょうどジャラさんと今後についての話し合いのために応接室にいた。


「・・・ちょっと休憩してもいいですか?」


「ああ、構わねえよ。」


俺は背伸びをして、窓の外から領地を見た。


領地は、見違えるほど発展した。


小数人の物乞いしかいなかった朽ち果てた大通りは、法国の首都にも引けを取らないほど綺麗に整備されていて、大勢の人でにぎわっていた。


通りに沿って建てられた建物は、どれが廃墟でどれが人の住んでいる建物かわからない程、いつ崩れてもおかしくない建物ばかりだった。


だが今は、修理された既存の建物や新しく建てられた建物がひしめき合っていた。


「大分発展したな。ウチも・・・。」


モーナは、淹れた2人分の紅茶をこぼさないようにそっと置いた。


「そりゃそうさ。法国の英雄、ハロルド様を一目見ようと集まってくる法国の貴族の夫人や娘、それに吟遊詩人たちなどの衣食住を満足させるべく、知り合いの建築家を集めて宿屋や新居、食料品店をこれでもかというほど急ピッチで立てさせたからな。」


「しかも、全額自腹ってそんなことをして大丈夫なのですか?」


「大丈夫!従業員を食わせられるほどのたくわえはまだまだあるぜ!」


「そうか・・・支援が必要だったら言ってくださいね。」


「いいのかい?」


「構いませんよ。・・・しかしそれでも、家が足りないってどういうことだよ。」


俺は、山のように積まれた判が押されていない建築許可証を見て、ジャラやモーナとため息をついた。


「本当に、ジャラさんには感謝してもしきれませんよ。あなたがいなかったら、供給不足で結局暴動が起きてましたからね。俺は只の男爵なのにここまでしてもらってなんだか悪いですよ。」


「なに、気にすんなって。只の商人にとってアーマードベアは、死神みたいなものだ。なのにあんたは、キングすらも倒して私を助けたのだからな。」


「只の商人だなんてご謙遜を・・・。」


「いやいや、ハロルド様こそ。」


その時、応接室のドアを叩く音がした。


「ご主人様、入れてほしいのです。」


「ソーニャか、入れ。」


「失礼しますのです!」


ソーニャは、ドアを開けて整った美しい顔をひょっこりと出した。


前と比べて大分人型を維持するのに慣れてきたのか、最近は寝るとき以外はずっと人型のままだ。


「どうした?」


「これ!こんなすごいのが来てたのです!!」


そう言ってソーニャは封がされた一通の手紙を差し出した。


差出人は、なんと法王猊下だった。


「俺、またなんかやっちゃいました?」


冷汗でとある孫のセリフを似たような世界で言う羽目になるとは思わなかった。


「法国の英雄、そんな肩書が出回っている以上、法王から重要な任務を任されると思うぜ。」


「うう・・・。」


「大丈夫なのです!きっといい知らせだと思うのです!!」


手紙には、『重要なお知らせがあるので、正装で王城に来てくれ。共は、好きにするがよい。』という半ば御触れのようなものが書かれていた。


「だと良いんだけど・・・。」

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