第3話捧げる祈りの黄の槍!

「私には何も出来ない……私に出来ることは患者を病院に運ぶだけ……治療することは勿論、病の原因を究明することも出来ない……私は、私は……」


救急車の助手席に揺られながら、黄島摩耶は自分の無力さを噛み締めていた。


「私は何のためにいるんだろう?」

「黄島! ぼうっとするな!」

「はい、すみません!」


運転席の主任から檄を飛ばされ、摩耶の意識は現実に引き戻される。


「ガラクーダが捨てたゴミとダートスの死体のせいで疫病が蔓延している……俺たちに出来ることは感染者を病院に運ぶ事と、ゴミとダートスの死骸を焼却することだけだ。勿論、人間の死体も焼く……気合い入れていけ、辛いのは分かるが、人が生きるためだ、やり遂げるぞ」

「はい」


主任の言葉は重かった。

人を助ける車に乗って、人の死骸を焼いていく。

矛盾した行動に着かねば、人の未来を築けない。

彼自身、納得のいかない矛盾を抱え、胸を痛めていた。


「今日もたくさん焼いた、本来なら人の命を救うために走る救急車に乗って、支給された火炎放射器でゴミと死体を焼く……こんな毎日が、もうどのくらい続いたんだろう?」


摩耶の精神は、限界に近づいていた。


「黄島さん、おかえり」

「ただいま、一ノ瀬さん」


都内の大型病院。

摩耶たち消防チームの拠点となっているその病院が、ガラクーダがもたらす疫病の最前線治療機関だった。


「シャワー空いてるよ、さっぱりして来なよ」


施設の看護師が摩耶を労い、シャワーを勧める。


「うん、ありがとう」


摩耶はその申し出を素直に受け入れ、地下のシャワールームに向かった。


「ああ、今日は何人の死体を焼いたんだろう? 思い出せないや……こんな仕事をしていて、自分がいつ感染するかも分からない。明日も生きられるのか、私には祈ることしか出来ないよ……」


気持ちの良い温水に身を任せ、頭を整理させる摩耶、それでも答えは出ず、今や薬を使わねば寝られなくなった身体を、湯に流していった。


「黄島さん、黄島さん!」


ふと、シャワールームに自分の名を呼ぶ無線の声が響いた。


「はい?」


状況が飲めず、素っ頓狂な声で返事をする摩耶。


「早く逃げて、ダートスの大群が病院を取り囲んでいる!」

「何ですって!?」


その声を聞いて、摩耶は身支度を調えると、大急ぎで指令ルームに向かった。


「ダートス、ここを餌場だと感づいたのでしょうか」


職員の一ノ瀬が、モニターを睨みながら呟く。


「チーフ!」


「患者を逃がす時間と手段がない……かといって奴らを全部殺すことは不可能だ。全員、腹をくくれ」


指令室に飛び込んできた摩耶のほうに目を送ることはなく、チーフは心臓から絞り出したような言葉を吐いた。


「え、それは、どういう?」


状況が掴めず、問いただす摩耶。

チーフは言った。

「俺たち全員が盾となって、患者を守るんだ。ダートスを一匹でも多く巻き添えにして、人間の底力を見せてやるんだよ!」

「そんな、無茶です!」


一ノ瀬の進言に首を横に振り、チーフはデスクに拳を叩き込む。


「それでもやるんだ、人間の尊厳を見せるためにも、守る命は守り抜く、歴史に結果を残すんだ!」

「それが私たちに出来る、唯一のことなんですね、分かりました、最後に一刻だけ、祈らせて下さい、これ以上病で倒れるものがいなくなるよう……それさえ終われば、黄島摩耶……突貫できます!」


摩耶は真剣な視線をチーフに送る。


その次の瞬間……。


「貴方の祈り、聞き届けましたわ!」


何者かの言葉が、摩耶の頭脳に届く。


「え、誰?」


「私は破軍五聖槍が一つ、黄の槍……貴方のチカラになるモノですわ」

「破軍五聖槍……」

「貴方の祈り、とても清く、力強かった……私、感動いたしました!」

「いえ、私は決してそんな大層なモノじゃ……」


戸惑う摩耶に、心の声はさらに続ける。


「貴方はまだ、自分の価値を理解しておりませんわ、さあ、私を手に取って、機霊を呼びなさい、そして唱えて、セイソウ・オン!」


「これは……槍?」


摩耶の目の前に現れた黄色に輝く神秘的な槍。


「まだ半信半疑ですわね、それでは私をふるい、ダートスを倒してご覧なさい?」

「そんな、私は……」

「自信を持って……貴方は自分が思うよりずっと大きな力を持っている」

「貴方がやらねば、ここにいるすべての人が死んでしまいますわよ?」


脳に響く声が続ける。


「そんな、いやです!」

「ならば私を手に取って、反撃の狼煙を!」

「私が、みんなを救う……私にも、救える命がある……うわああああああああ!」


摩耶は槍を手に取ると、ダートスの一体に向けて突進していった。

そして、ダートスの心臓に槍を突き立て、その命を一撃で奪う。


「嘘……ダートスが一撃で!」

「お分かり頂きまして? それでは改めて、機霊を呼んで変身の呪文を!」


声が摩耶をさらなる高みに導く。


「はい! 召喚:黄の槍! 機霊コネクト:救急車! セイソウ・オン!」

「捧げる祈りの黄の槍……セイソウイエロー!」

「黄島君……君は!」


摩耶の変貌に驚くチーフに向け、仮面越しに微笑む。


「後は私に任せて、バリケードを閉じて下さい」

「しかし、それでは君が!」

「それなら大丈夫、私、神の戦士ですから!」

「信じて良いんだな?」

「はい、喜んで!」


病院の堅固なバリケードが閉まる轟音を背中に聞き、セイソウイエローは槍を構える。


「さあ、ダートスども……ここから一歩も通さない、覚悟しなさい!」


病院を囲んでいたダートスは5体。

うち一体は一撃で倒した。

残る4体のダートスは警戒しながら互いの距離を詰め、一気に襲い掛かろうとしている。


「さて、どうするか……この4体、一気に片づけたいけどなー……」

「それでは、こんな趣向はいかがでしょう?」

「黄色の槍さん?」

「必殺技……雷ですわ」

「わかった、やってみる」


セイソウイエローは、槍を天空に掲げた。


「我は祈る、敵の殲滅……祈りの雷、イエロー・サンダー!」


天空から放射された雷が、ダートスの身体を引き裂く。

セイソウイエローは、すかさず槍を振り、ダートスにとどめを刺す。

「無に帰れ、イエロー・ファイヤー!」


4体のダートスは、一瞬で消し炭になった。


「清掃、完了……」


槍を一振り、ダートスの血を払うと、摩耶は仮面越しにニッコリとほほ笑んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

機霊戦隊セイソウジャー 神楽坂 幻駆郎 @kagraya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ