第2話:滾る正義の青の槍!
副都心新宿……享楽の街は、今や地獄の街と化していた。
警察と反社会勢力、普段なら対立する二つの社会構造が、今や共通の敵:ガラクーダと戦うことで、手を組んでいる。
銃や刀剣を持って立ち上がった人々は、指揮命令系統を警視庁捜査三課ガラクーダ特捜班に預け、異世界からの侵略者と正面から戦っていた。
そして今日も、男達の戦いは続く。
「みんな逃げろ、ガラクーダの人間狩りだ!」
アブダクターと呼ばれるガラクーダの人間捕獲艇がダートスを放ち、逃げ惑う人々を触手でさらっていく。
「皆さん、こちらは警視庁ガラクーダ特捜班です、落ち着いて、我々の誘導に従って下さい!」
碧井清吾は、拡声器で人々に避難を促すと同時に、攻撃部隊に命令を下す。
「全員整列、発砲用意、撃て!」
一斉の銃撃、銃弾を受けたダートス達が呻きをあげながら大地に倒れる。
「よし、いいぞ!」
清吾が握りこぶしに力を込める。
「警部、アブダクターが!」
状況を不利に感じたのか、ガラクーダの人間捕獲艇が反転し、逃げようとする。
清吾が即座に判断を下した。
「RPG用意、敵エンジン部に向けて発射、中の人に当てずに落とせ、撃て!」
放たれた携帯用地対空ミサイルが轟音と共に放たれ、アブダクターのエンジンを破壊する。
バランスを失い、地面に墜落する人間捕獲艇。
「よし、全員突入! 被害者を解放する!」
清吾達は、さらわれた人々を辛うじて救出した。
「何とか片付きましたね、警部」
「ああ、銃で死んでくれるから助かっているが、魔法攻撃をしてこないのが気になる。それにアブダクションだ、奴ら人間を狩って何をするつもりなんだ……」
清吾の心を不安の雲が覆う。
そしてそれは、彼にとって最悪の事態を齎すことになる。
旗艦:デスペラード。
ワームホールに係留されたガラクーダの母艦。
その艦長席に座る大柄な魔物、ガラクーダ地球方面軍総指令:ヨゴス。
「キタネーナ、獣人:アーク・ダートスの生成はどうなっておる……」
ヨゴスの問いに、艦隊No.2の邪神官キタネーナが答える。
「は、ヨゴス様、人間の素材は意外なほど優秀、少々我がきつい面もありますが、キメラ合成の順応に長けています。現在抵抗力の弱い女子供を使った試作獣の投入実験を予定しております、戦場は新宿ではいかがでしょう」
「新宿か……あそこは我らガラクーダに仇なすものが多くいる地域、良い結果を期待しているぞ」
「は!」
キタネーナは膝をつき、ヨゴスの命令に恭順の意を示す。
「行け、ザリガニ・ダートスよ、新宿に巣喰う反抗勢力を根絶やしにせよ!」
「……マッカチーン!」
「ママ、ママ、どこー!」
「夫が、夫が行方不明なんです、ガラクーダにさらわれたのでしょうか?」
「孫がアブダクターにさらわれるのを見たんじゃ、どうにかならないものかのう……」
アブダクターの被害者を救い、新宿署に保護しても、すべての人を救えたとは言えない。
清吾は苛立ちと無力感に体が引き裂かれるような苦痛を感じていた。
彼自身、妹をアブダクションされて、その安否が分かっていない。
どうして自分は、その場にいなかったのか?
どうして自分は、妹を助けられなかったのか?
非番を返上してガラクーダと戦った一方で、最愛の妹を救えなかった無力さは、彼の心に大きな傷を残し、それ故の憎しみをガラクーダに向けるしかない、戦うしかない己の運命を、彼は呪っていた。
「碧井さん、ダートスだ!」
部下の一声に、清吾は現実に引き戻された。
急いで外に出ると、そこには今まで見たことがないほど巨大で、凶悪な姿をしたダートスがいた。
「マッカチーン……碧井清吾……我らガラクーダに楯突く愚か者……お前を殺す、このアーク:ザリガニ・ダートスがなぁ……!」
「な、ダートスがしゃべった!?」
それは、これまでにない経験だった。
今まで彼が相手にしてきたダートスは四足歩行の獣型で、知性など感じたことはなかった。
しかし、碧井の目の前にいるのは二足歩行の獣人型……それも頭部と両腕に真っ赤な鎧を纏った、凶悪な殺戮者だった。
清吾は銃を構え、発砲する。
しかしザリガニ・ダートスは大きなハサミになった両腕でそれを弾き、一瞬のダッシュで間合いを詰め、清吾の首をハサミで捕らえる。
「マッカチーン! 死ね、碧井清吾!」
圧倒的なザリガニ・ダートスの前に、清吾は死を覚悟した。
しかし、その時……。
「だ、ダメ……その人……殺し……ダメ……!」
「その声は……優子、優子なのか?」
ザリガニ・ダートスの動きが止まる。
そしてもだえ苦しみながら後ずさった。
「ごめ……な……さ……お兄……私、こんなに……され……まった……元に戻れ……ない……だから……殺し……て……」
「優子!」
ザリガニ・ダートスの中に、妹の面影を見る清吾。
「素体の意識が戻ってきたか……ちょうど良い、お前が碧井の妹なら、やつはお前を殺せまい……ザリガニ・ダートス……行け!」
「……ダメぇぇぇ!」
「く!」
「マッカチーン!」
「ぐああああ!」
襲い来るザリガニ・ダートス、しかしその中に妹の存在を知ってしまい、反撃が出来なくなる清吾。
絶対的絶望が清吾を支配する中、彼に話しかける声があった。
『君、力が欲しいかい?』
「な、なにぃ?」
『力が欲しければ、くれてやるよ? それともこのまま妹に首チョンパされるかい?』
「それは受け入れられない、だが優子を殺すことも出来ない」
『欲張りだね、そう言う我が儘は嫌いじゃない』
『どうだい? 最善の選択肢を選ぶチャンスを得た気分は、さあ、召喚:青の槍、僕を呼んでごらん、そして機霊をコネクトして叫ぶんだ、セイソウ・オン!』
「助けられるのか、それで優子を」
『それは無理、キメラ合成されたアーク・ダートスから人間だけ抜き取ることは不可能なんだ。妹さんの言うとおり、殺すしかないね、それがせめてもの救いだ』
「そうするしか、ないのか……」
「お……に……ちゃん……」
「分かった、今から兄ちゃんが、お前を天国に送ってやるぞ!」
「召喚:青の槍! 機霊コネクト:パトロールカー! セイソウ・オン!」
清吾の叫び一閃、蒼い炎が彼の全身を包み、バトルスーツを形成していく、そして碧い仮面が、彼の頭部を覆った。
「滾る正義の青い槍:セイソウブルー!」
青の槍を携え、名乗りを上げるセイソウブルー。
「マーッカチーン!」
ザリガニ・ダートスのハサミがセイソウブルーを襲う。
「は!」
それをはじき返し、槍を振るうと、攻撃の間合いを取る。
「ゼイ! ゼイ! スラッシュ!」
槍を振るい、セイソウブルーはザリガニ・ダートスの装甲を激しく突いた。
「マ~ッカチ~ン……」
その隙を突いて、槍を絡め取ろうと、ハサミを突き立てるザリガニ・ダートス。
「く、こいつ槍をハサミで……そうはさせるか! でい、チェスト!」
槍に回転を加え、ハサミをはじき返す。
そして隙を与えず、一気に突いた!
「優子ォォォォォォォ!」
ブルーが叫ぶと、ザリガニ・ダートスの胸部に彼女の顔が浮かぶ。
「お兄ちゃん! 私の顔を潰して! ここが弱点だから!」
「くそ、馬鹿人間め、弱点を晒しおって!」
焦るザリガニ・ダートス、ブルーが槍を構える。
「逃がすかぁぁぁぁぁ! チェストォォォォ!」
「グギャアアアアアアアアア!!!」
弱点に槍をもろに受け、ザリガニ・ダートスの体が四散する。
「お兄……ちゃ……あり……が……」
優子は最後の微笑みで、兄に別れを告げた。
「優子……ごめんな、助けられなかった……」
「畜生、ガラクーダ、ガラクーダ、ガラクーダ……絶対に許さんぞォォォォォォ!!!」
清吾の怒りの叫びが天を突き破り、雲を割った。
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