最終話「また、あたしたちの冒険に付き合ってよね、約束だよ!」
かつては荒れ果てていた大地に、少しずつ緑が戻ってきた。
道無き道を、麦わら帽子をかぶり、白いワンピースを身に纏った少女が歩いている。
しばらく進むと、緑が途切れ、濃い青に変わる。視界が開けて、海が見えたのだ。どこまでも続く青を邪魔するものはなし。空は空で海とは異なる澄んだ青をしていて、ところどころにある白い雲が爽やかに流れていく。
少女は海をしばらく眺めてから空を見上げ、眩しそうに右手をかざした。
「……いつ来ても、ここはきれいだね」
ここはかつて、科学者と呼ばれたアンドロイドが人類復興のシミュレーションを行った島の北端。
そこにひっそりと墓が建てられていた。少しだけ盛り上がった地面に、木を縛って作られた十字架が刺さっている。
木の中央には名前が刻まれているが、だいぶ昔に作られたもののようで、なんと書いてあるかは識別できない。
ただ、作った本人は誰のものなのかは当然知っている。どこまでも広がる海を眺めて眠ることができますように。そんな想いを込めてこの地に彼女が建てたものだった。
「どうか安らかに……眠ってください」
膝をつき、手を合わせて祈りを捧げる。科学者の実験に翻弄されて亡くなってしまった大切な友へ想いを込めて。
そのとき。
一陣の風が吹いた。
海から吹いてきたその風は、少女の麦わら帽子を吹き飛ばす。帽子の下に収まっていた赤い髪が風を受けてたなびく。以前は長い髪をポニーテールにしていたが、あの件をきっかけにバッサリと短くしたのだった。
「もう」
そう言って少女は立ち上がり、飛んでいった帽子を追いかける。すると、それを先に拾った者がいた。
彼女――アンジュの視線の先には、麦わら帽子を掴んで立っているかわいいくまのぬいぐるみが。
「マリカ……」
アンジュはゆっくりとくまのぬいぐるみであるマリカに近づく。そして帽子を受け取ると、
「もう、遅いじゃない! 一体どこで道草を食ってたのよ!」
と若干眉を上げた。
一方マリカはというと、全く悪びれずに、いやむしろ誇らしげに、
「この間植えた野菜の種、もう芽が出てたの! すごくない? この実験がうまく行けば、この島の食糧事情もよい方向へ向かっていくわ!」
と胸を張った。
はぁ、と息をひとつ吐くとアンジュはマリカを抱き上げて、自分の肩に乗せた。マリカはクイクイっとお尻を動かして、ちょうどいい場所を見つけると、片手をアンジュの首に絡めた。
「そろそろお風呂に入って体を綺麗にしたいな! この体になってからだいぶ経つでしょ?」
「はいはい、まずはマリカもお墓参りをすませましょうか。そしてアイスクリームを食べに行きましょう。ヴァルクの奥様が腕によりをかけて作ってくれているわ。そのあとお風呂に入りましょ」
「いやっほーい、アイス、アイス、アイスクリーム! アンジュわかってんじゃん! あ、お風呂の後ぎゅーって絞るのだけはやめてね!」
アンジュは肩に乗っているマリカを優しく撫でると、再びお墓に向かって歩き出した。
<完>
「えっ、どうしてあたしが元気なのかって? そりゃ、あの爆発の前にあたしの記憶のコピーをこのぬいぐるみに転送しておいたからよ! オリジナルのあたしはあの研究所で爆発に巻き込まれたけど、コピーのあたしもあたしなの! むしろ新しい体を手に入れて元気100万倍よ!」
「マリカが、ぬいぐるみが動き出した時はびっくりと嬉しさで私もう……思い出しただけでも泣きそうに……」
「ホント、あのときのアンジュの顔といったら……すごかったもんね! こーんな顔してさ!」
「やめて! 恥ずかしいから顔真似とかしないで!」
「えへへ……これからもアンジュと一緒にいられると思うと嬉しくって」
「マリカったら……ゴホン。そうしてマリカと私は再び島に戻り、今度こそ真っ当な復興を目指して奮闘しているっていうわけ」
「あたしは科学者のコンピューターと接続したことで膨大な知識を手に入れたの! 今は島を緑でいっぱいにするために、二人で島中を巡ってるのよ!」
「アンジュルズのみんなも協力してくれて、復興は順調に進んでいるところよ」
「島の人たちは科学者の事件に巻き込まれた被害者。科学者のコピーであるあたしにも責任があるからね、みんなが幸せに過ごせるように」
「そのあとは世界中を見て回ろうと思ってるの。結局世界のことは分からずじまい。人間が生き残っているのか、私たちの他にアンドロイドがいるのかどうかもわからないから、確かめに行きたいの」
「そのときはまた、あたしたちの冒険に付き合ってよね、約束だよ!」
ロケットパンチガール 第一部 完。
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こんにちは、まめいえです。
これにて、ロケットパンチガール第一部完結です。最後までお読みいただきありがとうございました。
もともと「RPG(ロールプレイングゲーム)」の頭文字を工夫して面白い題名が作れないかな、と考えてたら思い浮かんだ言葉が、「R」ocket 「P」unch 「G」irlでした。
主人公が過ごしている世界がすべて「役割が与えられている」としたら……。最後の最後で主人公がその役割を与えている人物と対峙して戦い、その役目を終えて自由に生きていける物語にしたい、そんな構想を抱いて書き始めました。
結局マッチョばっかり登場するいつものマッスルノベルになってしまった気もしますが……そこはご愛嬌ということで。
少しでも「面白かった!」とか「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひぜひレビューやフォロー、応援コメントをいただけると嬉しいです。
えっと、とりあえず第一部完結としてありますが、第二部の予定はまだありません。某有名バスケットボール漫画と同じです(^^)
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ロケットパンチガール まめいえ @mameie_clock
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