第2話
「宮野君…かっこよすぎない?」
「絶対出世するタイプだよ」
「彼女いるのかな〜」
早くも社内は宮野君で持ち切りだった。
宮野流星。
どことなく、昔仲の良かった男の子と似てる気がする…。
だけど確か彼の名前は宮野じゃなくて、相澤流星だった。
名字も違うし、別人じゃないかな。
そうであってほしいと思う自分と
一目会って、また昔みたいに仲良くできたら…なんて妄想してしまう自分がいた。
だけど、もし本人だとしたら…私のことなんてきっと……。
「清水先輩、どうしたんですか?」
心配そうに聞いてきたのは、3つ下の後輩、浅香れもん(あさかれもん)。
特徴的な名前と可愛らしいキャラクターで、取引先にもすぐ覚えてもらえて、話し上手。
ミルクティ色のショートヘアに色素の薄い瞳。
こんなに可愛いのに、嫌味にならない性格も彼女が好かれる理由なんだよね。
「なんか、急にぼーっとしちゃって。
疲れてるのかな」
「もしかして…またランチ中に仕事してたんですか?」
「あ…バレた??」
「もう〜だめですよちゃんとオンオフ付けなきゃ!」
「気づいたら手が動いてるんだよね〜」
「そんなことより!清水先輩は、宮野さんみたいな男子、どう思います?!」
「どうって…」
「どちらかと言うとプライド高くてクールな感じですよね〜。
でもあの一位発言も実力派のイケメンなら許されるか…」
「足元すくわれないようにしなきゃね」
「先輩なら大丈夫ですよ!」
「どうだか…」
私はなにも気にしてないふりをして、残り時間仕事に打ち込んだ。
…はずだった。
「清水先輩、これ来週の会議の資料です」
「…」
「清水先輩?」
「どうしてなんだろう…」
「先輩?」
「え?」
「ボーっとして、ほんとに今日はどうかしたんですか?」
「あ…ごめんね…ちょっと寝不足みたいで」
「今日は残業無しで上がってくださいね!」
浅香ちゃんがずっと声をかけてくれてたのに、全然耳に入ってこなかった。
こんなこと初めてかも…。
・
・
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定時になり、今日は大人しく切り上げて、いつも通っているバーに立ち寄った。
「あら空ちゃん、今日はなんか…ペース早すぎない?」
「そうですかね…」
心配そうに話しかけてきたのは、ここのマスター、メキシコ人のライルだ。
身体は男、心は女らしい。
「こんな時間からどうしたの?なにかあった?」
「なにかあったというか…」
昼間の一件から、思考停止。
ボーっとしてなにも頭に入らなくなってしまった。
これではいけない、と今日は定時で上がったわけだけど…正直なところ、頭の中は真っ白。
だから、なにがあったかとか話せる次元にまだいけてないんだと思う。
もしかしたら、昔会ったあの子なのかな。そんなはずないか。
そこで止めて、明日また何事もなかったかのように…
記憶なんて無視して、いつもの私に戻ろう。
私にとっての安らぎは、仕事に迷いなく打ち込めることだから…。
カラーン
「あら、いらっしゃい。初めての方ね」
だけどこの男は、私に安らぎをくれる気はないらしい。
「こんばんは。清水さんがここにいるって聞いて…」
「アラ〜あんたに会いに来たんだって!いい男じゃない〜」
嫌でも振り向かなければいけないこの状況。
私の目に映ったのは、爽やかな笑顔を浮かべる宮野君だった。
その目が笑っていないように見えるのは私だけ…??
「清水さん。すみませんいきなり押しかけて…
清水さんがうちのエースって聞いて、会えるの楽しみにしてたんです。
会社ではあまり話せなかったので…浅香さんがここにいるって教えてくれて…ってあれ?清水さん?」
宮野君が目の前に来たところで、私は完全にフリーズした。
「宮野…流星………」
そして、酔いが一気に回って、急激に眠気が襲ってきた。
「空ちゃん?空ちゃーん??
ありゃ。こりゃダメだわ。
・・・アンタ、送って行くわよね?」
「もちろん。こんなところに一人で置いてなんていけませんよ。
でもせっかくなので一杯いただいて帰ります」
「フーン?
じゃあこれ。空ちゃんの知り合いだから、私の奢り」
「いいんですか?ありがとうございます」
「アンタ、空ちゃんとはどんな関係?」
「今日から清水さんの配属先に移動になったんです」
「初対面なのに押しが強いのね…」
「先手必勝ですよ」
「あら生意気」
「清水さんって、普段どんな感じなんですか?」
「普通の女の子よ。
でもね坊や。ちゃーんと自分の目で見て、知らなきゃだめよ」
「自分の目で…?」
「生半可な気持ちで近づいても心を開いてくれないわ」
「・・・・」
「なーんてね!彼女、すごく素直で一生懸命な子よ。曲がったことはできないタイプだから…。
空ちゃん傷つけたら出禁だからね♡」
「ははは。
分かりました。この素敵なお店にはぜひまた来たいので、出禁にならないよう気をつけます」
・
・
・
「清水さん、家着きましたよ」
「ん〜」
「ここで寝ちゃだめですよ。ベットまで運びますね」
意識が朦朧とする中、瞳に映る懐かしい光景。
黒髪で、鷹みたいに鋭い目で、たまに優しい……
「りゅーせいくん?」
「ん?」
「濱島……流星君……?」
大人になった、あの日の彼がいた。
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