第5話


小学3年生の夏休み。


あの日流星は、いつもと様子が違っていた。


流星の家で一緒にゲームをしていたけど、流星の口数が少ない。


『通信ケーブルある?』


『ある』


流星はリュックの中を探した。


『あれ?リュックにつけてたストラップは?』


『・・・』


『流星?』


『捨てた』


『なんで?!お母さんからもらったって、すごく大事にしてたやつじゃないの?』


『別にいい。もういいから、川に捨てた』


投げやりにそう言う流星に、本心じゃないと思ったのか、私は、彼の肩を揺さぶった。


『それっていつも遊んでるあそこの?』


『だったらなに』


私はそれを聞くと、走り出した。



まだ朝の涼しい時間だった。


川の流れは穏やかで、石の隙間までしっかり見える。


私は流星のために見つけなきゃという正義感でいっぱいだった。


けれど何時間も夢中で探していると、徐々に太陽が照りつけて、フラフラとしてきた。


正午の広報が鳴る。夏休みで家族は仕事中だった。


お昼ご飯を呼びに来る大人はいない。


(流星、あのストラップ、お母さんがオーストラリアで買ってきてくれたって嬉しそうにしてた。


いつもはカバンにも筆箱にも飾りなんてつけないのに、それだけは何年もずっとつけてた。


元気もなかったし、絶対に捨てちゃったのを後悔してるんだ)


それから1時間くらいして、大きな石の縁に何かが挟まっているのを見つけた。


雫の形をした、木でできたストラップだ。


華やかなデザインは、所々削られて見辛くなっていたけど、たしかに流星が持っていたものだ。


私は宝物を見つけたように喜んで、流星に会いに行った。



流星はずっと家にいたようで、家には誰もいなかった。


『流星、これ』


『お前…なんでそれ…』


『大事なものでしょ?』


流星はボロボロのストラップを見ると、真っ青な顔で振り払った。


この時の私はまだ子どもで、まさか拒絶されるなんて思っていなくて、頭が真っ白になった。


『こんなものいらないんだよ!!!』


『なんでそんなこと言うんだよ!


お母さんからもらった大切なものでしょ!!


朝からずっと探してやっと見つけたのに!』


『空が勝手にやったんだろ!!』


この時、私の中で、なにかが壊れてしまった。


流星がそんなこと言う奴だとは思わなかった。


『流星なんて大っきらいだ!!』


『そうかよ!!


俺だって…お前と友達にならなきゃ良かった』


その一言はあまりにも鋭利で深く突き刺さった。


あまりにもショックで、私は流星の前で初めて泣いた。


流星も同じくらい傷ついた顔をして泣いていた。


その場にいられなくなった私は、外に飛び出した。


だけど、もしかしたら流星が『ごめん』って言いに来てくれるんじゃないかと思って、いつもの公園で待っていた。


放課後だって


休みの日だって


喧嘩してもここに集合。


それで仲直りをして、元通り。


私たちはいつもそう決まってる。


私は日が暮れても、待っていた。


こんな時間になっても、蝉は鳴くんだなあ。と思ったその時、視界がグラグラして、その場に倒れた。


幸いにもすぐに大人が見つけてくれ、私はすぐ救急車で運ばれた。


熱中症だったようで、それから何日か寝込んでいた。


そして私が寝込んでいる間に、流星はなにも言わずに引っ越してしまった。


これが最後の言葉になるなんて知っていたら


あんなことは言わなかったのに。


一瞬だけ、夢で流星に会えたけど、


夢でもあの時の蝉の声だけがけたたましく響いていた。


誰もいなくなった公園


アスファルトは夏の日差しを吸い込んで


ジリジリとした熱気に包まれる。


それは私の記憶に深く刻まれた。


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