/あの夏の記憶とクリームソーダ/

和泉ハル

第1話

忘れもしないあの夏の正午。


小学3年生だった私には


『流星なんて大っきらいだ!!』


『そうかよ!!


俺だって…お前と友達にならなきゃ良かった』


その一言はあまりにも鋭利で

深く突き刺さった。


これが最後の言葉になるなんて知っていたら

あんなことは言わなかったのに。


誰もいなくなった公園

アスファルトは夏の日差しを吸い込んで

ジリジリとした熱気に包まれる。


蝉の声だけがけたたましく響いて

私の記憶に深く刻まれた。



/あの夏の記憶とクリームソーダ/





Lu Lu Lu Lu…


今日も社内は電話が鳴り止まない。


私は清水空(しみず そら)


真面目だけが取り柄の会社員。


アートやファッション、様々な作品の展覧会の営業・企画を担当している。


入社5年目、彼氏なしの27歳である。


「清水さん!3番にエーセルコーポレーションの稲垣さんからお電話です」


「お電話代わりました、清水です。


稲垣さんお久しぶりです。本日はどのようなご要件で……」


『…エーセルから直で連絡来るってやばくないですか?』


『ホントに顔広いよね…。


清水さんのチームに入ったらハイスペック男子と知り合いになれちゃったりして!』


『いや〜清水さんの隣に並ぶの自信ないよ〜』


『ってかエーセルの稲垣さんって副社長じゃなかった?』


『え…マジで?なんであんな仲良く話せるの?』


『清水さん…美人で仕事もできていいよな〜』


『ちょっと!清水さんはみんなのものだからね!』


電話越しになんとなく聞こえた、周りの声。


申し訳ないんだけど稲垣さんは大学時代からの友達なんだよね。


そんなに人脈もあるわけじゃないし…。


ただ、どんな案件でも、それに携わる人たちがどんな考えで展覧会をしたいのか、仕事の中で知っていくことが好きだから、この仕事は合っているのかもしれない。


毎日真面目に打ち込めば、営業成績も着いてくるし…大変なことも多いけど、好きなんだよね。


「皆さん、お仕事中かと思いますが一旦手を止めてください。


来週から営業部で一緒に働く、宮野君です」


社長の紹介でやって来たのは、長身にスーツがよく似合う男の子だった。


端正な顔立ちで、女の子に人気がありそうだ。


「中部支店から本社の営業部に移動になりました、宮野流星(みやの りゅうせい)です。


今年で入社5年目になりますが、関東でも営業成績1位を取りますので、宜しくお願いいたします」


「オオーッ!」


「だってよ、清水。負けてらんないな!」


その時、彼と目が合った。


深い黒色で、サラサラした綺麗な髪だと思った。


少し長めの前髪は、センター分けで整えられている。


そして、鷹のような鋭い目。


脳内に蝉の鳴き声が響いた。


ジリジリとした暑さに、胸が焼けてしまいそうな、あの夏の・・・。


「清水?」


「あ、はい。宜しくお願いします」


思考が停止した3秒間。


今までで休むことなく動き続けていた脳が、初めて止まったように感じた。

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