第8話
「あ、流星ありがとう。おやすみ」
流星は手を振ると爽やかな笑みを浮かべて帰っていった。
なんだろう。やけに大人しく帰っていったな。
私のことが嫌で仕方ないのに家まで送っていくなんて、どんな気持ちなんだろう。
流星の行動は理解不能だ。
本当は私のこと好きだったりして。
いや、そんなはずがないのは私が一番分かっているのにな…。
あんな大喧嘩しちゃって、子どもとはいえ最悪な別れ方で……。
「空?中入らないの?」
「え?あ、うん」
クスクス
「なに?」
航君が変に笑うから、思わず聞いてしまった。
「いや、宮野君のこと意識しすぎ」
「はあ?!」
「今も彼のこと考えてたんでしょ?」
「ちょっ、やめてよ!そんなことないって!」
「はいはい大きな声出さないの。
そんなに全力で否定しなくてもいいのに必死になっちゃってさ。おもしろいなあ」
「もう…」
航君にからかわれながら、家の鍵を開けた。
「おじゃましまーす。あ、ここでいいよ」
マンションに入り私が先に上がると、航君は玄関先で構わないと言った。
「そう?」
「うん、大丈夫。
それにしても…ははは!さっきの宮野君?おもしろかったなぁ。いやあ、若いっていいねえ」
「はあ??なに考えてるの?」
「空も大人になったんだなあとしみじみ感じてるだけだよ…」
「なんか航君、セリフがオジサンっぽくなったね」
「30も過ぎれはそうなるよ…」
「別に宮野君とはそんな関係じゃないからね?」
「まあまあ落ち着いて。
僕はただ、空に変な男が寄ってこないようにしたいだけ。
空のことを大切に思うような相手じゃないと、兄として認められないからね」
「非公認の兄ですけど…」
「ああそれで、青から預かったものだけど、写真展の資料だって言ってたよ」
そう言って渡されたのは、大量の写真となにやら作品に対して語られた資料だった。
展覧会の開催は常に時間との闘いなんだけど…これだ…青に提出しろ、って言ってた書類…。
やっと届いたと思ったら、まとまっていないのが丸わかりな状態だ。
ここから私が写真を選出するんだろうなあ…。
青のことだからこうなることは分かっていたんだけど、渡された量を見て、私は大きなため息をついた。
「郵送でもなんでもいいのに…なんでいつも人に頼むわけ?ごめんね航君も…」
「はあ…謝るのは俺だよ。
あいつまた『むしゃくしゃしたからナイアガラ行ってくる!』とだけ言って去ってしまったからね」
「はあ?!ってことは日本にいないの?!打ち合わせもできないじゃない!!」
「そうなるね〜」
「航君なんで止めてくれなかったの?」
「僕もまさか弟がかの有名なギャラリーで展覧会をすることになったなんて知ってたら止めてたよ…」
「あのバカそれも言ってなかったの?!」
「これだけ空に渡しておくように言われて、メモを見たらまあテキトーにそんなこと書かれてたよ。ああ、これだね」
『兄ちゃんへ。なんか都内のでかいとこで写真を飾ることになったから空と話しつけといてくれ』
「・・・・・」
思考停止。友達だとこうなるのか??
いや、でも一端の写真家でしょ?
人間でしょ??ここまで無責任なことする?!
「あ…空…そんなに怒らないで……。
俺の勘なんだけどさ、青はおそらくフラレた相手を追いかけて行ったんじゃないかと…」
「ナイアガラ…フラレた…?」
そのワードを浮かべると、一人の人物を思いついた。
「エーセルの社長、今ナイアガラにいるらしいんだよね…」
「今度青が展示やるところの会社だよね?」
「そう。それで副社長から展覧会の許可を代わりにもらったの。
エーセル社長の秘書が私の友達…茉那(マナ)って言うんだけど…
多分その子を追いかけて行ったんじゃないかな…」
「わーお。我が弟ながら情熱的だなあ…」
「前にこんなことがあったんだよね…」
/あの夏の記憶とクリームソーダ/ 和泉ハル @skyofglory0822
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