婚活している全ての女性に贈りたい、自己愛のすすめ

沢田真知子は三十二歳、独身。勤務地:一流大学の食堂。
義妹の棘に満ちた勧めによって、結婚相談所に登録するも失敗続き。大して高望みはしていないのに、会う男会う男に断られ続け、神経をすり減らしていた。とりわけ己の仕事を否定されることが許せなかった。

そんなある日、真知子はふとしたきっかけからイケメン大学院生、白南風恭太に目を付けられる。出会った女が次々に恋に落ちるという魔性の男、白南風を前にしても一切なびかない、むしろ迷惑そうにする真知子。その様子がますます白南風の好奇心を煽り、恋人のふりを頼まれてしまう。
迷惑に感じていた真知子だが、食堂のおばちゃん仲間や白南風のシンパなどと関わるうちに、心境に変化が生じてきて……


見た目は悪くないにもかかわらず、結婚できずにいたマチコさん。彼女が真に結婚できなかった理由は、「ありのままの自分を肯定できなかったから」ではないかと思われます。二十代は「付き合う、即結婚」という考えが受け入れられず、結婚相談所に入ってからは「食堂のおばちゃん」の仕事を否定されることを許せずにいた彼女。しかしそれらに対して、おかしいのは自分のほうだと思い込んでいた節があります。

本当のマチコさんが結婚相手に求める条件は、「ありのままのマチコさんを肯定してくれること」だったのではないでしょうか。しかし、その前提条件としてマチコさん自身が「ありのままの自分を受け入れること」が必要でした。出会ってすぐに横暴な言動を取りつつも、マチコさんの人となりを否定しなかった白南風は、そういう意味で彼女が(無意識下で)求めていた存在だったのだと思われます。

度重なる失敗経験から、自己肯定感が低くなっているマチコさん。そんな彼女を白南風は変えられるのでしょうか。

現代恋愛ものとしては王道のストーリーだという印象ですが、わき役たちがとてもいい味を出しています。特にマチコさんの同僚である食堂のおばちゃん方。作者である宇部松清さんのエッセイを拝読していると、彼女の人間観察能力の高さに驚かされますが、おばちゃん方の個性はその人間観察能力の結果生み出されているように感じます。どのおばちゃんも人間味があって、あたたかくてほっとします。

ハートフルな恋愛ものを読みたい方に、おすすめしたい作品です。

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