深呼吸のススメ。ここちのよい歩幅。
- ★★★ Excellent!!!
まず出だしがすごかった。
倍速動画を片手に朝食をとり、雑誌を読みながら通勤することに慣れた現代人は、どこか釈然としない焦燥感をつねに抱いている。
毎日がひたすらに長く、新たな発見に満ち満ちていた幼少の頃は遠く。今では信号待ちですら歯噛みし苛ついている。
そんな現代社会に辟易していた主人公は、ドのつくマイペースな人で、まわりに『のろま』と揶揄されてしまう。
だが、ゆるやかな時の流れにいる彼女だからこそ、歪な社会構造にただひとり気づいていた。息の吸い方を知っていた。
とても共感性能の高い、素敵な主人公じゃないか。
ひとより半歩分あゆみのゆるやかな彼女は、皆が通り過ぎていく小さな脇道に気づいてしまった。
その道は、世界を根幹から大きく揺るがす未知に続いていた。
少し不思議なSF小説。
ストーリーだけじゃない。
紡がれる文章力の高さ、マイペースな彼女に似合わないハイテンポなシナリオ、魅力あふれるキャラクター達。
そして『時間の速度』というテーマが掲げられた今作は、かなり読み応えのある物語に仕上がっていた。
まだまだ第一章、要注目の傑作である。