深呼吸のススメ。ここちのよい歩幅。

まず出だしがすごかった。

倍速動画を片手に朝食をとり、雑誌を読みながら通勤することに慣れた現代人は、どこか釈然としない焦燥感をつねに抱いている。

毎日がひたすらに長く、新たな発見に満ち満ちていた幼少の頃は遠く。今では信号待ちですら歯噛みし苛ついている。

そんな現代社会に辟易していた主人公は、ドのつくマイペースな人で、まわりに『のろま』と揶揄されてしまう。

だが、ゆるやかな時の流れにいる彼女だからこそ、歪な社会構造にただひとり気づいていた。息の吸い方を知っていた。

とても共感性能の高い、素敵な主人公じゃないか。

ひとより半歩分あゆみのゆるやかな彼女は、皆が通り過ぎていく小さな脇道に気づいてしまった。
その道は、世界を根幹から大きく揺るがす未知に続いていた。

少し不思議なSF小説。

ストーリーだけじゃない。
紡がれる文章力の高さ、マイペースな彼女に似合わないハイテンポなシナリオ、魅力あふれるキャラクター達。

そして『時間の速度』というテーマが掲げられた今作は、かなり読み応えのある物語に仕上がっていた。

まだまだ第一章、要注目の傑作である。

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