常連

尾八原ジュージ

常連

 恋人が事故で亡くなった。でも魂はまだ彷徨っていて、時々私のカフェを訪れる。生前と同じ様子で「コーヒーね」と言いながら、いつもの席につく。

 私はコーヒーを淹れる。彼は黙って、カウンター越しに私の手付きを眺める。

「おまたせ」

「ありがとう」

 コーヒーを恋人の前に置くと、彼はその香りをスーッと吸い込み、ニッと笑って消えてしまう。後には香りのしないコーヒーが残る。

 私はあえてそのコーヒーを飲む。香らないコーヒーは味気なく、寂しい。

 でも死者との再会なんて、これくらい味もそっけもないのが、きっと、ちょうどいいのだ。

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常連 尾八原ジュージ @zi-yon

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