※2026/01/01 一般公開としました
よみごさんシリーズ関連の小噺を思いついたので、書きました。
お楽しみいただけたら何よりです。
また、例によって一か月後に一般公開とします。ご了承のほどよろしくお願いします。
===以下===
『貞明くん、今から縦やってくれんか』
志郎に突然かかってきた電話は、どうやら故郷にいる妹尾というよみごかららしい。
黒木は、「カンベンしてくださいよ」などとぼやきながらテーブルの上に巻物を広げる志朗の様子を眺めていた。よみごは基本的に縦社会だから、どうせこの無茶ぶりもやる羽目になるだろう。折よく来客の切れ目でもあり、たぶん妹尾にはそのタイミングもわかっていてかけてきたのだろう……という気もする。
妹尾は九十歳を超える古株のよみごで、彼らのまとめ役であるらしい。また圧倒的実力者ゆえに、逆らえる人がいないらしい。
「何の縦なんですか」
『危険なことと違うけぇな、知らんでええ。今から電話にお客さん出すから、その人に縦やってくれ。十五年と三か月十五日五時間くらい潜ってな、そこにある手紙読んでほしいんよ』
『よろしくお願いします』
電話口から男性の声がした。聞く限り、緊張しているようだ。
「無茶ぶりじゃなぁ。十五年なら二、三分かな。手紙の長さによって追加料金です」
『うちのポケットマネーで十分』
断る理由がなくなった志朗は、黒木に「十分測って、万が一それで終わらなかったら強制終了させて」と頼んだ。要は殴って終わらせろということであり、黒木としては極力やりたくない。
スマートフォンを取り出し、タイマーを十分でセットする。
「じゃあ、やります」志朗が宣言する。「電話口で何か喋っててもらっていいですか? 五十音でも、九九でもいいので」
電話の向こうから、戸惑いがちに男性の『いんいちがいち……』という声が聞こえ始めた。志朗が巻物の上に手をかざし、よみごが言うところの「縦」が始まる。巻物の上を水平に動いていた手が止まってからが、どうやら本番らしい。
一分、二分――と過ぎたところで、志朗が「おっ」と声をあげた。どうやら強制終了の出番はないらしいとわかって、黒木はこっそり安堵する。
『どうじゃった?』
「妹尾さん、これ読み上げないとダメですか?」
『うん、やってやって。依頼だから』
「うーん……前略 ■■様。おひさしぶり、なーんて、昨日も練習で会ったばっかなのに変だよね。マッキー、なんでわざわざ手紙なんか書いてんの? って思うかもしれないけど、大事なことは文章にしたくてさ……実は俺」
『わああああ!!』
電話の向こうから男の叫び声と、妹尾の『続きは?』という声が前後して聞こえてきた。
「前から■■のことが好きでした……これまだ続きいります?」
『そこから先が肝心じゃろが! 続き!』
「去年の夏合宿で、俺が卓球台の間に挟まっちゃったとき、みんな超笑ってたのに■■だけ心配してくれて、大げさかもしれないけど、マジ天使じゃんと思」
『やめてください! ごめんなさい! ごめんなさい!』
「ボクもごめんなさい。勘弁してください。胸が痛くなってきた。妹尾さん、こういう手紙は他人が読んだらおえん」
『まぁ……あとはこの人に聞くけぇええわ。いや~ありがとね。うちも年じゃけぇ「縦」やると疲れるんよ』
「その人誰ですか? ボクが聞いてええんかな」
『ホラー作家だかいう人で、最初は芙美子ちゃんのとこへ取材に来たんじゃけどなぁ、な~んか話し方がいやらしいんでこっちへ寄こしてもろたんよ』
『誤解です! やましいことは一切してないです!』
「……マジ天使じゃんと思って、それからずっと■■のことが頭から離れなくなった。合宿が終わった後も」
『続きやめてくださいって! 何で出せずに捨てた手紙の中身がわかるんですか!?』
「年代が近いし、さわりを聞いただけでも内容が思い出せちゃうくらいお客さん自身思い入れがあるので……」
『わかりました、よみごさんが本物だってことはわかりましたから許してください』
『ていうか何で卓球台に挟まってしもうたん? うち気になるんじゃけど』
『喋ります! 普通に喋りますから!』
「マッキーさんこの手紙なんで出さなかったんですか? 出したらよかったのに~」
『出そうか迷ってる間に彼女、先輩と付き合い始めたので!』
狂騒のうちに電話は切れた。
「……黒木くん、妹尾さん宛の請求書作ってくれる? あと何で卓球台に挟まったんじゃろね」
「さぁ……まずどう挟まったんですかね」