風俗の果て

森本 晃次

第1話 風俗序章

この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場面、設定等はすべて作者の創作であります。似たような事件や事例もあるかも知れませんが、あくまでフィクションであります。それに対して書かれた意見は作者の個人的な意見であり、一般的な意見と一致しないかも知れないことを記します。今回もかなり湾曲した発想があるかも知れませんので、よろしくです。また専門知識等はネットにて情報を検索いたしております。呼称等は、敢えて昔の呼び方にしているので、それもご了承ください。(看護婦、婦警等)当時の世相や作者の憤りをあからさまに書いていますが、共感してもらえることだと思い、敢えて書きました。ちなみに世界情勢は、令和4年7月時点のものです。風俗界のことは、あくまでも想像に近いですが、客としてであれば、作者だけではなく、誰にでも分かる部分だと思います。フィクションに仕立てたお話としては、面白いのではないでしょうか?


 緒方政宗、今年で40歳を過ぎた。結婚したこともなければ、結婚したいと思ったこともない。そのくせ、女がいないと我慢できないと思っている方なのだが、だからと言って、寂しさから女がいらないのではないと思っているという、ちょっとおかしなところのある男だった。

「女とは、感情で繋がるもので、肉体だけの関係では我慢できない。なぜなら、女を欲する時、肉体だけを感じようとすると、結果、すぐに飽きがくるからだ」

 と思っていた。

 それに、肉体だけで感情がないということは、虚しさしか残らない。そこにあるものは、それこそ、

「賢者モード」

 だけになってしまい、好きになる相手を、

「絶頂を迎えるまでと、迎えた後の瞬間という、あまりにもひどいギャップでしか見ることができなくなり、自分の中にある何が相手を好きになったのかということが、分からなくなってしまうからだ」

 といってもいいだろう。

 自分の知り合いの男に、

「男はしょせん、肉食。抱きたい相手がいればだけばいいし。そこに虚しさを感じなければ、それが一番健全なんだよ」

 といっていた。

「確かに、男は女を求めるし、女だって男を求める。だけど、それを本能と思い。本能だけに身体と頭をゆだねていれば。そのうちに何も考えられなくなるんじゃないかな?」

 というと、

「そうかも知れない。だがな、自分の気持ちに正直になるからこそ、身体が反応するんじゃないか? 気持ちいいと思えば、自分を気持ちよくしてくれた相手を好きになったりするんじゃないかな?」

 という。

「だけど、身体の関係から入ればそうかも知れないけど、普通の恋愛のように、まず相手を好きだと思ってから、相手がほしいと思い、初めてセックスという行為に至るのではないのかな?」

 というと、

「確かに、そういうパターンもあるのだろうが、何もそれがすべてだというわけではない。まずは、身体の相性から入ることだってあるだろう? 好きにならないと、自分を相手に許さないという人もいるが、寂しさを紛らわせてくれる人を求めるのだって、ありなんじゃないか? お前のように、不健全だというのであれば、仕方のないことなんだろうけどね」

 と、少し吐き捨てるように言った。

 それを聞いて、少し反発したい気持ちになったが、却って、そういわれると、急に冷静になったような気がした。

 その友達は、スナックに勤めている彼女がいた。お互いにまだ、20代だった頃、その頃は。

「彼女なんていくらでもできる。しかも、今は結婚適齢期なんかないんだから、適当に遊んで、ある程度の年齢になったら、結婚すればいいだけだ」

 と思っていた。

 だが、実際に20代になってみると、彼女ができなかった。

 彼女がいないからといって。どうしても寂しいというわけでもない。好きでもない相手と結婚してしまい、後悔することになったらと思うと、

「冷静になっているんだよな」

 と考えて、自分が大人だということを感じる。

 しかし、このような態度の男性は自分だけではなく、むしろ、結構多いようだった。そのことに、誰も自覚がないのが、今という時代のようだった。

 そんなマサムネが、風俗に通うようになったのは、今から5年くらい前であろうか? ソープランドが多かった。最初は先輩に連れて行ってもらったのが最初だったが、それも、実に久しぶりのことだった。

 その時の先輩には言っていなかったので、きっと先輩は、マサムネのことを、

「ソープ未経験」

 だと思っただろう。

 さすがに童貞だとは思っていなかっただろうが、35歳になるまで、童貞であれば、

「気持ち悪い」

 と思ったことだろう。

 彼女がいないのも、しょうがないし、風俗が未経験であってもしょうがない。しかし、

「童貞というのは、さすがに気持ち悪い」

 と思うのだろうが、だとしたら、一体いつどこで童貞を卒業したというのか、そのあたりは、どちらかというと、こだわるところではないと思っていたのだろう。

 どちらかというと、そこに突っ込むのは、個人の隠したいと思っているところに踏み込むようなもので、それこそ野暮だったのだろう。

「ソープ童貞を捨てさせてやろう」

 と思うくらいの先輩だからこそ、勝手に相手の詮索をしても、深入りはしないと思ったのだ。

 おせっかいなくせに、変な深入りをしたくないのは、ある意味、

「マウントを取りたい」

 という意思があるのだろう。

 先輩風を吹かせるという意味では、

「大きなお世話」

 なのだろうが、仕事の上では結構助けてもらっているのは事実なあので、先輩に悪気はないだろう。

 それを思うと、

「ここはひとつ、先輩の顔を立ててやるか?」

 というくらいに大きく考えていれば、先輩の顔に泥を塗ることもなく、うまく収まる。

 確かにその頃には、風俗街など、足を踏み入れるつもりもなかった。

 特にソープランドなどは、高いというイメージがあるのと、最初に行った時に、相手の女の子に説教されたという意識が強かったからだ。

 説教といっても、こっちは高い金を出しているのだから、そこまで露骨な説教ではない。それこそ、女の子がマウントを取りたかったのか、

「最初にソープの世界のことを教えておいた方がいい」

 とでも思ったのか、要するに、

「お姉さんぶっていた」

 というだけのことだった。

 たとえば、店に来る前にお風呂に入っておいたり、爪を切って置いたりした方がいいという。ちょっと通えば、

「そんなことは常識だ」

 ということになるだろうことを、ただ、話してくれただけだ。

 だから、初めてだったこともあり、雰囲気に圧倒されたので、半分は、叱られた気分になったが、半分は、思ったよりも冷静で、

「言われたことだけを守っていればいいんだ」

 と感じたのだ。

 実際に、少しはソープのことを勉強していったつもりだった。爪や風呂に入るくらいの常識的なことは、最初から分かっていて、さらに、

「ソープ嬢に対してタブーな言葉や、質問」

 などということも、ちゃんとネットで調べて行ったものだった。

 その頃は、やっとインターネットも普及してきた頃で、風俗店でも、ホームページを作っていたりしたので、事前に、どんな子がいるかを暈しが入っていることがほとんどだが、ある程度は分かったので、店を決めるには、そんなに難しくはなかった。

 昔であれば、店頭でなければ確認ができなかったり、実際に現地に行って、無料案内所なるところで、話をして、自分の予算や雰囲気の合う子を説明し、

「それならば」

 ということで、店の人に後は任せるということが多かった。

 今でも、無料案内所は、しっかりと機能してはいるが、どこまで安心して任せられるかも不透明。下手をすれば、店と提携していて、ロクでもない店に連れていかれて、外れの女の子を押し付けられることもある。そういう意味で、今までマサムネは、無料案内所を利用したことはなかった。

 彼の性格からして、

「フリーは危ない」

 ということは、経験済みだった。

 昔一度、飲み会の帰りに、ムラムラ来たことがあったので、その余勢を買って思わずフリーで飛び込んだが、

「金を捨てたようなものだ」

 としか思えなかった。

 それを思い出すと、嫌な思いしか浮かんでこないのだ。

 あれは、2回目だっただろうか? 最初があまりにもセンセーショナルで、ハッキリと覚えていないほどセンセーショナルだったこともあって、その日、本当はいくつもりもなかったのだが、ふと、風俗街に立ち寄ったのだ。

 もちろん、予約など入れているわけではない。行った店も、最初のお店、さすがに新規で別の店というのも勇気がいった。

 ちょうど、休日が重なり、連休中だったこともあって、客は盛況だった。待合室にも数人人がいて、前に来た時には一人いただけだったことを思うと、

「まあ、分かってはいただ」

 と思いながら、

「すぐに入れなかったら、このまま帰ろう」

 と思って、受付に行ってみた。

 もっとも、そのまま帰ろうと思ったのは、受付にいくまでで、受付に行くと、すでに身体は、興奮状態にあり、

「このまま、抜かずに帰るのは、却って身体に悪い」

 と思ったのだ。

 幸いにも、

「今すぐに行ける子が、ちょうど一人おりまして」

 と言われ、二つ返事で、

「じゃあ、その子で」

 と答えていた。

 二つ返事というのは大げさだが、写真を見る前から、答えは決まっていたといってもいいだろう。

 少しお姉さんという雰囲気のパネル写真だったが、

「まあ、まだ、童貞を卒業しただけなので、お姉さん系の方がいいかな?」

 と感じた。

 しかし、最初の女の子が、結構かわいかったのだが、その割に、完全にマウントを取られたことを思うと、一抹の不安はあった。ただ、最初の女の子が悪かったというわけではないのが、その後証明されることになったのだ。

 まず、お店側の、

「すぐ行けます」

 という言葉の根拠はどこにあるというのか、待合室で待つこと、20分。

「店員の言葉を信じた俺がバカだったのか?」

 と感じるほど、20分という時間は中途半端だったのだ。

「さすがにそろそろ」

 と思った時間がちょうど20分、いきなりの突入で我慢できる待機時間だったといってもいいだろう。

 さすがに、受付のあの雰囲気の中で、回れ右というのは、無理があった、下半身がムズムズする中で、何もせずに帰るのは辛いというものだ。

「せめて、パネル写真でも」

 と思うだろう。

 しかし、そう思ってしまったが最後、すでに、自分がそれだけでは収まらないことを示していたのだった。

 最初、5人はいた待合室内、一人ずつ案内されていっているのを見ると、自分の興奮も高鳴ってくる。

 しかし、逆の思いもあった。

「ここで待っている連中は、自分よりも、ランクの上の女性に相手をしてもらっているのではないか?」

 という思いである。

 いわゆる、

「早い者勝ち」

 というやつで、

 そんな人たちが、どんどん待合室から出ていく。その横顔を見ていると、どこか安心感と、期待に胸溢れているようで、少し紅潮して見えるのは、気のせいだろうか?

「俺の番の時には、次に来た連中が、俺の顔を見ながら、同じことを感じるんだろうな」

 と思ったが、それはそれで、楽しみでもあった。

 ただ、

「待合室から出る時、まだ待機の人間の後ろからの視線を感じるだろうか?」

 とも思った。

 すでに気持ちは先のことに向かっているはず、これから出会う女の子に対しての期待と不安で渦巻いているとの時の心境は、まだ、経験の浅かった自分には、少し分からない感情だと思うのだった。

 約3分間隔くらいで、一人、また一人と抜けていく。計算でいけば、15分くらいは仕方がないと思っていた。

 そして、いよいよ、自分の前の人が抜けていくと、自分一人だけが残った。

「あれ?」

 と感じたのは、そう、自分がここに来てから、誰も部屋に入っていないということだった。

「あれだけ人が待っていたのに」

 と思い、最初は待合室がほぼ満席と感じたほどだったので、一人取り残されると、

「この部屋、結構広かったんだ」

 と感じさせられた。

 しかも、誰もいないと、今度は新鮮な気持ちになってきた。まるで、今来て、待合室には誰もいないというそんな雰囲気だったのだ。

 待合室での最後の5分間、たった一人の5分間は、複雑な気持ちだった。

 前述のように、新鮮な気持ちもあるが、たった一人でいると、さらに口吻が増してきて、今度は限界を感じ始める。

 待たされていることに自分の我慢がどこまでできるかという思いなのだが、それは、下半身の状態や、自分の体調にもよるだろう。

 待っている時間、5分だったが、その間を、長いと感じるか、短いと感じるかということだが、正直、前半と後半で、印象が違った。

 前半は、結構早く過ぎていて、

「このドキドキ感を余韻にすればいい。だから、この時間もまんざらでもないな」

 と思っていた時間があったかと思うと、途中から、今度は身体のムズムズが激しきなり、今度こそ、限界っぽい感覚がこみあげてくるのを感じたのだ。

「あんまり待たされると、今度は部屋に入って肝心な時間が短く感じさせられるのも嫌だよな」

 と思ったのだ。

 ここで、延べにして、約20分の待ち時間。自分の気持ちを最高潮に持っていくために使う時間だが、実際の本番は、お部屋に入ってからのことである。

 その時間は決まっている。待ち時間に左右されることなく、自分で決めた時間だ。

 それだけに。待ち時間が長いと、実際の時間が、

「えっ? あっという間だったじゃないか?」

 と思うに違いない。

 待合室で、5分くらいの待ち時間であれば、そこまでは気にしない。こういうお店で、10分の待ち時間は当たり前というもの、予約を入れていても、店員は、

「受付の時間、女の子の準備等がございますから、10分くらい前にお越しください」

 と言われる。

 実際に10分前に来て、受付を済ませ、待合室に入ると、こちらも、それなりに、準備がいる。

 まずは、トイレを済ませておくことと、爪が伸びていないかという、最終チェック。もちろん、ここに来るまでに済ませてはいるが、待合室に入ると少し気分が変わってくるのだ。

 トイレに行くのも同じようなもので、他で済ませていても気になってしまう。気分が高ぶってきている証拠だろう。

 そして、女の子を待つことになるのだが、あれが、今から20年近く前だったので、待合室でも、平気でタバコを吸っている連中がいた。むしろタバコを吸わない方が珍しいくらいで、

「こんなに、気持ちが高ぶっているのだから、タバコを吸うようなやつらは、気持ちの高ぶりを喫煙で晴らそうとするだろう。煙たくて仕方がない」

 と思ったものだ。

 しかし、こっちも、気持ちが高ぶっている。いつものようなタバコへの嫌悪感は、そこまではなかった。そういう意味でも、待合室での時間、最終的には嫌いではないところまで来ていたのだ。

 残りの5分くらいが、前半と後半に分かれてはいたが、その分かれ目がちょうど半分だったというわけではなかった。実際に時計を見たので、自分でも分かっているのだが、最初が4分、後半が1分、とかなり時間に差があったのだ。

 それでも、半々に感じたのは、最期の5分というのが、最初から分かっていたわけではなかったからだ。

 最初の4分が過ぎた時、これを半分だとすれば、

「ああ、まだあと4分待つことになるのか?」

 と思っていたら、1分だったというわけだ。

 しかし、感覚的には、前半と後半で同じくらいの時間だった。それは、やはり、

「最後の時間が不確定だったということが原因でもあるが、やはり、最初から、前半と後半が同じ時間だということを、自分の中で最初から感じていたのが原因なのではないだろうか?」

 と感じたからだろう。

 そういう意味で、

「最期の時間がさらに続いていれば、どうだったのだろう?」

 とも感じる。

 しかし、それはあくまでも、結果論のようなもので、

「きっと、時間が違ったとしても、同じ感覚だったような気がする」

 と感じる。

 あくまでも、後半の時間の感覚を思い出す時、その基準となるのが、

「前半の4分間」

 だったのだ。

 だから、それを意識しなければ、最初から、1分であろうが、4分であろうが、そんなに変わりはない。要するに、

「実際の時間というよりも、架空の時間の方が、余計に長く感じるものなのではないだろうか?」

 ということになるのだと、マサムネは感じるのだった。

 マサムネが、そろそろムズムズし始めた頃、待合室の扉が開いて、

「お客様、お待たせいたしました」

 といって、店員が呼びにきた。

 他の客がいる時は、その客の前に跪いて、小声で案内していたのに、今度は入り口からあまり入ってこないところから普通の声で呼ぶのだ。

 ちょっと拍子抜けした感覚だったが、それ以上に高ぶった気持ちがちょうどいい時間で解消されたことはうれしかった。

「どうぞ、こちらに」

 といって、また受付に戻ってきた。

 ついこの間、同じようにしたから憶えているはずだったのに、感覚としては、まるで初めてのようだった。

「まずは、こちらに立って、注意事項をご確認ください」

 といって、事務的に、実に簡単に、店員が、禁止事項を軽く流しながら言った。

 ここで、変に強調してしまうと、せっかく客が気持ちを高ぶらせているのに、萎えさせることになっては、元も子もない。そのせいでその客が二度とこなくなったりすれば、これは大きな問題だ。

 しかも、これから女の子と相手をするのだ。男のほうだけではなく、女の子の方としても、いきなり萎えられてしまうと、

「私に魅力がないのか?」

 ということを感じないとも限らない。

 それが、普通に女の子の感覚なのか、それとも、この商売をしていての、いわゆる、

「プロ意識」

 というものによるものなのか、どちらにしても、女の子もあまり気分のいいものではないはずだ。

 それを思うと、店員も、そこまで執拗に注意することはなかった。あくまでも、建前として言っているだけだということは、よく分かったのだ。

 ただ、客としては、気持ちを再興に高ぶらせる瞬間となっているのは分かっている。

 というのも、女の子と対面してしまうと、そこからは、今度は別の時計が作動して、いよいよ別の世界にいざなわれるということが分かっているからだった。

 店員が分かっているかどうかまでは分からないが、客もそれぞれいろいろな人がいるだろうから。感じることは微妙に違うだろうが、女の子を前にすれば、皆一通り、そんなに変わらないのだろうと思うのだった。

 店員の説明が終わり、段取りもいよいよの時間になってきた。

「カーテンの向こうに女の子はいますので」

 ということで、興奮は最高潮、

 まだカーテンも開けていないというのに、

「この瞬間が、一番の楽しみなんだ」

 と、一瞬だけ感じるのだが、それも、カーテンを開けてしまうと、すべてが終わってしまう。

 そこにいる女の子がいくら想像した通り、いや、それ以上でも、見てしまうと、本当の最高潮の山を越えたことを感じるのだ。

 その時、感じた思いは、

「ああ、パネマジだった」

 という思いである、

 清楚風に見えたが、見た感じは、いかにもプロという雰囲気が醸し出された。

「第一印象だけで決めてしまっては、相手に可哀そうだ」

 ということで、さすがに、第一印象で、判断するのはいけないと思い直し、彼女に連れられながら、お部屋に向かった。

 その日は、最初に来た時から、ひと月ほと経ったところだったので、まだ部屋の雰囲気などは頭の中に残っていた。

 確かにあの時と同じ感覚の部屋が目の前に飛び込んできたのだが、しかし、

「前の時に比べて、一回り狭いような気がするな」

 と感じたのだ。

 今まで暗い通路を歩いてきたが、部屋に入ると明かりは普通だった。

 彼女の雰囲気はあくまでも、普通で、大げさに喜んだり、媚びてきたりというようなことはない。

 風俗雑誌などを見ると、

「女の子によっては、必要以上に媚びてきたりして、相手をその気にさせるかのような、素振りを示す人がいる」

 と書いていたが、彼女にはそんなことはなく、普通に接してくれた。

 少し寂しい気がしたが、それは最初だけで、気さくな方がお互いに会話がしやすいというものだった。

 好きな女の子は、

「落ち着きのある女の子」

 であったり、

「べたべたしてくるような女の子」

 と、正反対の子が気になったりした。

 ただ、タイプとしては、ぽっちゃり系の女の子が好きで、それは、

「抱き心地がいい」

 というのが一番の理由だといってもいいだろう。

 最初の時の女性は、結構気が強そうで、落ち着きがあり、こちらが童貞であることを明かすと、

「まあ、それは嬉しい」

 といって、いとおしそうに愛してくれたものだ。

 ただ、その間に、辛辣な言葉もあった。いや、辛辣というと彼女に失礼だ。風俗嬢として、

「お客としての最低限のマナー」

 を教えてくれたのだ。

 爪の手入れだとか、風呂か、シャワーを来る前に使っておく。そして、女の子を乱暴に扱わない。

 ということで、

「相手だって人間なんだから、最高のサービスを受けたいと思えば、ちゃんとルールを守らないとね。なかなか皆自分からいうキャストもいないだろうし、もし、相手がちゃんとわかっていれば、それをいうというのは、失礼なことでしょう? お互いに気分が悪いと、せっかくの貴重な時間とお金がもったいない。風俗は遊びなのよ。そしてプレイなのよ。スポーツのようなプレーだってあるでしょう? ルールだけではない。最低限守らなければいけないマナーやモラルというものがね。風俗にもそれはあるんだと思っていただければ、それでいいの」

 というのだった。

 彼女のことを思い出していると、2回目に遭ったこの女性は、いかにも自分が想像している風俗嬢とは違っていた。最初の感覚として、

「どこか事務的で、なるほどだからフリーだったのか?」

 と感じさせるに十分だったのだ。

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