第3章〜照と輝、過去を見つめて〜
第三章
「また明日。」
「バイバイ。」
いつも通りの日。毎日、ほとんど同じような日を繰り返している。同じようで違う。違うようで同じ。矛盾しているけれど、そんな感じだ。そう、この日も、いつも通りで、明日もいつも通りだと、思っていた。このいつも通りの日常が、今日、崩れてしまった。崩れる運命だったのかもしれない。照が家に帰ってから2時間後。急に照が来た。大きな荷物を持ち、暗い顔をした彼女が玄関の前に立っている。それを見た瞬間に、いつも通りが崩れたのだと確信した。俺達は終始無言だった。何も、かけれる言葉を持っていなかった。幸いなことに、この家には使っていない部屋があった。そこに荷物を置いてもらった。そのやりとりの時ですら、彼女は声を出さなかった。布団を敷き、寝る。その直前に、照は声をあげて泣いた。そのまま彼女は眠りに落ちた。彼女の緊張の糸が切れたためだった。
「おやすみ。照。」
照を布団の上に運び、自分の布団に戻り、寝た。
「照、朝だぞー。」
…まだ寝てるのか。まぁ、無理もない。家からあんなに荷物を持ってきて、泣いて。疲れただろうな。でも、一応、今日も学校だ。
「照…起き……」
「ひか…る。さむい…」
「あー…ちょっと待ってろ」
体温計を取ってから戻る。
「測れ。」
「…………38.6度」
「……マジか。」
仕方ない。
「学校、休むか。」
連絡を入れ、照の看病に。
「行っても、良かったのに」
「無理に決まってるだろ。食欲、あるか?」
照は首を振る。
「そうか。薬飲んで寝とけよ。」
「ここにいてよ…寂しいよぉ…」
…アニメで見るやつだ。残念だがあまり響かない。けど、見とかないとどこかに消えてしまいそうだ。
「分かった。」
手を握る。
「これで良いだろ。」
「うん。」
なんだか、幼い子供みたいだな。
そのまま、照は寝た。俺はお粥を作りに行った。
・・・
夜になると照の熱は完全に下がった。
「大丈夫みたいだな。」
「うん。ありがと。」
少し、沈黙が流れ、照が口を開く。
「聞かないの?」
「何を?」
「私が、ここに来た理由。」
「聞いたって、まだ話したくないだろ。」
「どうして」
「泣いてたんだ。嫌なことがあったんだろ?そんなの、誰でも分かることだ。」
「ありがと…でも、話せるようになったら話すね…。」
「待ってるから。ほら、もう寝ろ。また熱出されても困るからな。」
「うん。おやすみ。」
「おやすみ。」
新鮮だ。と、俺は今更ながら思った。この家は、家族が引っ越すために買ってあった家だ。もともと3人で暮らす予定だった家。そんな家に、俺はずっと1人――一時期は1匹もいたが――で住んでいる。おやすみと寝る直前に言うことも、おはようと言い合うこともなかった。照のおかげで、温かくなっている気がする。
「照…… ありがとな。」
俺も寝るとするか。
・・・・・
「話そうかな。私が、ここに逃げてきた理由。」
「相槌は打たないぞ。」
「ん。」
・・・
私は小さい頃、大人は母と父しかいなかった。だから、親の言うことは間違いないと思っていた。何も知らない脳に、認識を植え付けられた。ほとんどは常識的なもので、信号が赤い時は進まない。とか人の物を壊してはいけない、とか。それだけだったら良かったのに…。問題だったのはここから。子供は、親の言うことに従わなければならない。これが、一番ダメだった。どんなことでも、必ず従わなければならない、つまり、殴らせろと言われたら、黙って従うしかなかった。私は、ストレス発散のための道具でしかなかったんだと思う。そのせいで、逃げたほうが良いってことが分かっているのに、逃げれなかった。高校に入っても、それは続いた。
そんな時だったんだ。私が、交通費の影響で転校して、友達だった、影花と会えたのは。少しだけ、心が楽になった。輝とも、会えた。それでも、家は何も変わらない。影花が死んでしまうってことを知った時は、何も考えられなかった。実はね、私も壊れたんだよ。限界を、超えてしまった。だけどさ……乗り越えれちゃって……。影花のおかげ。でも…でもさ、何も変わらなかったからさ、また、限界がきたんだよね。だけどさ……はじめは逃げれなかった。少しずつ準備して、やっと逃げれたのが、あの日。今も、怖いの…急に親が来て…また私を殴りに来るんじゃないかって…。
これで終わり。そう言って締めくくられた。
「ふーん……良く、頑張ったな。」
頭を、撫でる。
「ずっと、ここにいるか?」
「いいや……ちゃんと…話さないと……でも…」
「だよな。」
「輝、側にいて…」
「どう頑張っても、照は俺の中で2番なんだよ。」
「知ってるよ…」
「でも、幸せにする。俺が、影花の分まで、君を。絶対に。」
・・・
「聞こえなかったかな…影花の分まで、照を幸せにするって言ったんだ。」
「え…えぇぇ!」
絶対今顔赤い……
「…なんで怒ってるんだ?告白の返事をしただけなのに。」
「バカ!今日は寝る!」
「ああ、おやすみ。」
うう……嬉しい…でも鈍感… 輝らしいっちゃらしいけど…あの話の後で言う言葉じゃないって。これじゃまた無意識でドキドキさせられることになるよぉ〜。
はぁ…それでも、私は2番。それだけは、きっと永遠に変わらない。変わらない……分かってるよ。でも……1番になりたい……輝、どうしてまだ、影花を―――っ!そうだ。私は、いいや、私も、影花を1番に考えていた。彼女は、それほど大切で、掛け替えのない存在だったんだ――。だったら……仕方ないかな。私は影花には勝てな―――
『諦めるの?』
そう。諦めるの。
『まだ、時間はあるのに?』
そう。私は、君には勝てない。分かりきっている、事実だから。
『事実、確認したの?本当に。』
事実、いつも言ってるよ。
『照、幸せになってね。』
どうして、今言うの、影花。
『照は、きっと私を越える。だから大丈夫。根拠はないけど。』
そっか…そうだよね。これからも、見守ってて、影花。大丈夫…きっと。
・・・
「おはよ。」
「おはよう。朝食できるぞ。」
「はーい。」
顔を洗う。椅子に座る。
「いただきます。」
「いただきます。」
食べ終わったら聞こう。
「私は本当に、2番なの?」
「そうだな。」
「1番に、なれないの?」
「………そうだよ」
「どうして?」
「影花が好きだから。」
「それ以外にもあるでしょ。」
「……無い…」
「嘘、つかないでよ……」
「そうだな……簡単にまとめて話す。」
「うん。」
輝は淡々と話した。
「俺と親しくなった人は、皆早く死んでいるんだ。実は、俺、火事の後に一度施設に引き取られたんだ。そこでは俺は全ての人に心を開いてしまった。施設にいた人はどんどん死んでいったんだよ。疫病神って呼ばれた。それで、親が残したこの家に来た。――俺が心を閉じれば、早くには死なない。1番は影花だ。そうじゃないと……君も……」
「……それでも…!それでも私は、輝の1番になりたい!」
「良いのか?」
「私は、一生、君の側にいたいからさ。」
「疫病神だ。」
「うん。」
「早くに死ぬんだ。」
「うん。」
「それでも?」
「うん。」
「後悔しても知らないからな。」
「もう、決めたから。」
「「一生、側にいる。絶対に。」」
一番大好きな君の――。
・・・
「照。これからどうする?」
もう、彼女の中での覚悟は決まってるはずだ。
「お母さんと話す。それでもだめだったら…」
「大丈夫だ。俺もついてる。」
「うん!」
なんたって、照は俺の彼女だ。どうしたって2番だけど、それでも、幸せは、この子としか掴めない。そう、確信した。もう、何も失わないって決めた。だから俺は、
「俺が絶対に守る。」
「死ぬ時は一緒だよ?」
「フラグにしか聞こえねーから止めろ。」
「だけど、へし折るんでしょ?」
「当たり前だろ。」
「それじゃあ、行くよ。」
「ん」
ここからが、勝負だ。
・・・
私の家に向かう。ただそれだけ。たった、それだけなのに……どうして、心臓がうるさいの?横を向けば、大好きな人がいる。だけど、その音じゃない。怖い……。怖い――?怖いの?家に、帰るのが?
それに気付いた途端、足が重くなった。そして、凍った。
「っ―!」
どうして…ああ…止まって、輝。
「照?―――っ」
足が、動かない。歩けない。どうして、
「動いて…」
「照、立ち止まっても、良いんだ。」
「今は立ち止まる時じゃないの!覚悟を決めた!だから――」
不意に、輝が抱きしめてきた。
「なん……で?」
「分かった。俺が、氷を溶かしてやる。怖いのは、当たり前だから。」
そっか…怖いのは、当たり前なんだ…普通、なんだ。
「進んだって、光があるとは限らない。だからといって、進まない理由にはならない。だから、進もう。大丈夫だ。俺が側にいる。絶対に、見放すなんてことはしない。だって俺は、」
一呼吸置き、言った。
俺は、照の彼氏だから。と。
知ってる。と、返した。
大丈夫。足は重いけど、進める。
歩調は合っている。輝が合わせてくれている。暗い、暗い沼の中、必死にもがいた事はなかった。もがけなかった、は言い訳だ。もがけなかったんじゃない。もがけるのに、勇気を出さずに仕方ないと諦めてしまったんだ。もう、諦めない。例え外が真っ暗闇だとしても。
ここからが本当の勝負なんだ。
ここか。
「行けるか?」
彼女は頷く。
「よし。」
チャイムを鳴らす。もう、失わない。
「……ただいま……」
俺は、少し離れておく。見つかったら面倒な事になるかもしれないから。
・・・
「やっと帰って来たのね。早くこっちに来なさい。」
「うん…」
「私ね、今すごくイライラしてるのよ。だからね、」
断らないと。いやだって、はっきり言わないと…
「声を出しちゃダメ。」
言わないと…いけないのに…声が、出ない。
『進もう。俺が、氷を溶かしてやる。』
氷…ああ、そうか。まだ、溶けてないんだ。
「さぁ、後ろを向いて。」
母親の言う通りに体が動く。母親の命令は、絶対。怖い。また、殴られる。イヤだ、イヤだ。また、逃げないと…輝……速く、私の氷を…私に光を…もう……ダメだ…。
「ひか…る……いや…だ。」
「声を出さないで!」
「っ!」
怖い、怖い、心臓が、弾け飛びそうだ。氷は何…?
『照、大丈夫。私も、付いてる。』
影花…
『氷は、君の心だよ。誰にも溶かすことはできない。』
じゃぁ、どうしろって言うの…
『簡単だよ。必要なのは勇気だけなんだ。』
勇気…
『輝に、分けてもらったでしょ。大丈夫。1人じゃない―――。』
1人じゃないんだ。もう、とっくに溶かす準備はできていたんだ。影花、輝、ありがとう。
「やめて…もう…イヤ…だから……」
「同じことを言わせないで!」
「もう…私はお母さんの人形じゃないの。」
「……あーあ…じゃあ、次は力尽くでも!」
「イヤ!」
「全く…正当防衛に入るのかな、これ。すみません、ちょっとおとなしくして下さいーねっと。」
お母さんはいつの間にか地面に張り付いていた。
「輝…」
「悪い。警察呼んじまった。」
「大丈夫…お母さんには少し反省してもらいたいから……。」
あれ、少し体が……
「疲れたのか。頑張ったな。」
「ん…」
警察が到着し、照の母は連れ去られようとした時に聞いてきた。
「あなたは…私の子の何なのよ…急に家に入って来て、」
「照の恋人、ただそれだけです。」
「そう…」
守る理由としては充分だ。
「輝…」
「帰ろうか、照。」
「うん。終わったんだね。」
「照が頑張ったからな。」
私はまた、一歩進んだ。
・・・
やはり警察からの呼び出しがあった。照の母親のことを聞きたいと。照に連絡が来たと。ついてきてほしいと言われた。言われなくてもついていくつもりだ。今は、彼女の父親の事が心配だ。母親の事を聞きつけて照を連れ去ってしまうかもしれない。怖いんだ。離れるのが。もう、隣にいるのが当たり前になったから。
警察署に着き、今の母親の状態と今後についての説明を受けた。たったそれだけだった。それだけで、家に帰る。
照の母親は、現在、精神状態が不安定らしい。娘に暴力を振るって言うことを聞かせる。そうやって育てるのが当たり前で、その当たり前が壊された。ごめんなさいと繰り返しているらしい。照はその話を聞いている間、表情が変わらず、話が終わった後に、そうですかと言っただけだった。怒っているのかと思った。
だが…帰り道、照は静かに涙を流していた。気付かないフリをしたが…あの涙はなんだったのだろうか。理由は、分からない。
次の日は学校で、教室は朝から騒がしかった。
照と手を繋いでいただけなのに。
他にも、色々な会話が聞こえた。
「勉強できた?思い出せた?」
「全然。でも、英単語は魔法で使ってたからスムーズだったよ。」
「1年の弊害は恐ろしいね…」
いや、どんな話をしてるんだよ。厨二病を発症したのか?異世界にでも行ったのか?さすがに謎すぎる。
他にも、
「大丈夫?勉強できる?」
「大丈夫だよ。お姉ちゃん。空白の部分の記憶はあるって言ったでしょ。全部わかるよ。」
「そっか。じゃあ安心だね。」
また良く分からない会話だ。空白の部分?なんだそれは。急に現れたのか?でもずっといるだろ。君たち双子は。
……なんで他人の会話を盗み聞きしてツッコんでるんだろう。まぁ、いいか。
そんな時だ。
「そういえばさ、君だよね。1年生の時の英雄っていうのは。」
最初に聞いていた会話をしていた2人が話しかけて来たのは。
「1年生の時の英雄?俺じゃないな。」
「あれ?夜月、ほんとにこの人で合ってるの?」
「この人じゃなくて、隣にいる女の人だよ。さっきも言ったじゃん。」
「ごめんごめん。」
「私も違うなぁ…」
「照でも無いな。」
「どういうこと?」
「いないんだ。ここには。」
「別の教室か…日向、行くよ。」
「違う…ここって言ったのが悪かったな…」
「死んだんだよ。影花は。」
「っ……ごめん……」
「どうして急に私の親友のことを英雄って言ったの?」
「私達も、一度だけいじめを止めさせたことがあってさ、それで…」
「そう。」
「夜月、戻ろう。話せないよ……」
「うん。」
………英雄か……影花は、相当なことをやってのけたみたいだ。
「輝、今の2人って、」
「分からない。変な2人組だな。」
今日は、いつもより騒がしかった。
次の日。
「ねぇ、輝。教えて。英雄はもういないってどういうことか。日向に聞いても教えてくれなかった。」
「そうか。」
「ごめん、夜月。放課後に来て。日向も一緒に。」
「………分かった…。」
夜月が去る。
「…ありがとな。」
「ん。」
放課後。
「日向は、もう察してはいるんだろ。」
「うん。」
「夜月、君が言っている英雄は、もういない。影花は、死んだんだ…。俺の……目の前で。」
「……そっか……。」
「いない…か。」
「過ぎたことなんだ。今さらだ。いないことには変わらないが。」
「私ね、話したかったんだ、その、影花さんと。どうして、救おうとしたのか。」
「……俺は、知らない。」
「…そっか。ごめんね。もう帰るね。行こ。日向。」
「うん。」
…台風のような人だったな。
「帰るか。」
「うん。そうだね。」
何日か経った頃。
いつの間にか噂が立っていた。
「知ってる?同棲してるって噂。」
「聞いた聞いたー。いつからなんだろうね。」
「分かんないけど〜ヤバくない?」
「ヤバいー!」
というように。おそらく、俺達の事を言ってるのだろうが…気づくのが遅すぎないか?確か、3週間は経っているはずだ。二人での生活が当たり前になっている。毎日一緒に帰っている。噂になるのはもう少し早くても良かった気がするな。目立ちたくはないから無視しておこう。
放課後。
「週末、暇か?」
「うん。」
「遊びにいかない?」
「行きたい!」
「そうだな……カフェとかどうだ?ネットで良さそうな店を見つけたんだが。」
「いいね。他にも行きたい場所があるんだけど、そこにも行こうよ。」
「分かった。」
こんな感じで決まった約束。照の行きたい場所を聞き忘れていた。
土曜日。
一緒に家を出て目的のカフェに向かう。
「カフェはカフェでも猫カフェなんだ……。」
「悪いか?」
「影ちゃん。」
あー…考えてなかった。
「そうか。」
もう引きずってないからなぁ。
「ま、いっか。入ろ、輝。」
いいんだ。
「ん。」
店内は猫ばかりだ。どこを見ても猫がいる。白い猫、白黒の水玉模様の猫、縦縞の猫………猫、猫、猫。
「猫にゃんパラダイスだ…。」
「何て?」
「なんでもない。」
思わず呟いてしまった。
猫、可愛い。
席に座る。
「あ……猫に輝の隣奪われた。そこは私の席だよ!」
猫は無反応。
「諦めろ〜。」
結局照は猫を膝の上に乗せて俺の隣に座った。
しばらくして、注文したものが来た。
「こちら、カフェラテとクッキーです。」
カフェラテには猫の絵が描かれている。クッキーは猫型。顔まで描いてある。
「可愛すぎて食べれない……。」
「食べないといけないけどね。」
「でもさ、これは無理。」
「あはは。」
笑われた。
「輝は猫が好きなんだね。」
「誰にも言うなよ。恥ずかしいから。」
「分かってるよ。」
カフェラテとクッキー、美味しかった。可愛すぎる……。猫も。猫と戯れる照も。
猫カフェには2時間くらい居座ってしまった。
猫と戯れた後、照に連れられてショッピングモールに来た。服を買いたいらしい。面倒なやり取りが始まることを知っている俺は適当な理由をつけて逃げようとしたが、無理だった。そりゃそうだよな。バイトが入っていたなんて、ありえないよな。後、彼女を置いていくのはどうかとも思った。ナンパって言うものもあるからな。気をつけないと。
「うーん、どれが良いかなぁ。」
悩んでいる。そうだよな。こういう時は、聞かれる。
「輝の好み…あるわけないか。」
好み、そんなものはない。が、無意識に1つの服を取ってしまった。黒に近いグレーのロングスカート。
「……影花に似合いそうだな。」
「確かに。私は?」
「これ…かな。」
そう言ってから手に取る。白に近いグレーのスカート。ところどころに水色の水玉がついている。
「輝は全体的に白か黒のモノトーンが好みなのかな?」
「そうなのか。」
確かに、自分の服を選ぶ時は黒やグレーが多い。白も、たまに選ぶ。逆に、赤や青などの服は選ばない。
意識したことなかった。逃げなくて正解だったようだ。
「スカートは輝が選んでくれたもので良いとして、服はどうしようかな〜。このスカートに合うのは、これかな?いや―――」
こういう時は、どちらが良いかと聞かれることが多いらしい。
「ねぇ、」
やっぱり、
「これで良いと思う?」
来ないのかよ。
「そうだな……」
青い服、か。合うと言えば合うが……
「少し、青が明るい気がする。」
「うーん、確かに、そうかも。一旦保留で。じゃあさ、これは?」
白い服、青い線が入っている。真ん中と、右と左に1本ずつ。計6本。
「良いと思う。」
実はあまり良し悪しは分かっていない。でも、照に似合いそうだ。
「それじゃあ買ってくる。」
「付いてく。」
「ん。」
無事に買い物も終わり、家に帰ろうとした時。聞いたことのある声がした。
「声かける?」
「かけたいなら。」
「かける。」
「ん。」
声の主は夜月と日向だった。1人、知らない人もいる。
「夜月、日向。」
「照と輝、こんなところで会うなんて。」
「友達か?」
「そうだよ。」
「誰?」
「お兄ちゃん。」
照のお兄さんか。
「氷水だ。」
珍しい名前だな。ひょうすいさん、か。
「よろしくお願いします。」
「敬語は硬いから好きじゃない。」
「そう。」
俺も敬語は好きじゃない。
「2人はどうしてここに?」
「服を買いに。」
「そうなんだ。」
「3人は?」
「おやつを買いに来たんだ!」
「へ〜。」
「それじゃあね。」
「またね〜」
…今の一瞬で何故か疲れた。
「帰ろう。」
「ん。」
この日常が、俺は好きだ。
第三章〜end
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