真実
木々が色づき終わった。
私に全く気付いていない親友に声をかける。
「おはよ。影花。」
「照!?お、おはよ。びっくりしたぁ…」
「ごめんごめん。」
「今日は1人なんだね。」
「うん…。」
答えた彼女は、寂しそうだった。
「輝…」
「輝のこと、好きなの?」
「好き…?」
「影花、もしかして、初恋って…」
「まだ。」
「そっか…」
「輝こと、どう思ってるの?」
「まだ、分からない。でも、一緒に居たい。――――最後まで。」
「そっか。一緒にねぇ。」
最後の方は、良く聞き取れなかったが、聞こえた部分で推測しても、やっぱり、私の親友は、輝が好きみたいだ。本人は、まだ気付いていないけど。
その後、他愛もない会話をして、別れた。
・ ・ ・
木々が葉を散らす頃。
輝と影花は、買い物に出掛けた。何の変哲もない、ただ普通の買い物。それが2人にとっての、最初で最後の買い物デートだった。2人は、幸せそうに笑っていた。
・ ・ ・
クリスマスが近くなってきた。
俺は、影花のために、プレゼントを買いに来た。
俺はプレゼントというものを貰ったことも、渡したこともない。相談相手は…いると言ったらいるが……照だからな。影花に知られそうで怖い。要するに自力なんだが、何を選べば良いのか分からない。途方に暮れている現在。とりあえず残るものが良いと思ってアクセサリーショップに来たが…どうしようか。
「どうしました?」
店員が話しかけてきた。
「クリスマスプレゼントに何を贈ろうか迷っていて、」
「そうですか。彼女さんですか?」
「な…違いますよ。」
彼女ではないが…
「そうですか。お友達、女性ですよね。」
「はい。」
「高校生でしたら…こちらのブレスレットやネックレスなどはいかがでしょうか。」
「ありがとうございます。」
ブレスレットって腕に着けるものだったよな。影花の好きな色ってなんだっけ。黒や紺、青とかが似合いそうだな…。いつも着てる服とも合ってるし。これにするか。
値段は……予算内だ。良かった。
レジで会計を済ませる。
外に出た時、空は紅かった。
・ ・ ・
クリスマスまであと10日という時に、影花は学校に来なくなった。風邪と言って。家に行っても、会えなかった。影花のいない日々は、つまらなく、寂しかった。
・・・
クリスマスになった。いいや、なってしまったというのが適切だろう。影花は、一回も登校して来なかった。輝は、プレゼントをどうやって渡すのか、迷っていた。照は、ただ、影花のことを心配していた。
・ ・ ・
インターホンを今日も鳴らす。クリスマス当日。俺は、不安だった。
『はーい』
影花の母親が出てきた。
「今日も、だめなんですか。」
「ええ。ごめんね。影花が会いたくないって…。」
「会いたくない…?そうか…。」
会いたくない…か。でも…俺は、
「会いたい。影花に。どんなに拒絶されても。会わせて下さい。影花に。」
彼女は、かぶりを振った。
「そっか…。でも…」
電話が鳴る。
「ごめんなさいね。」
影花…俺は、君のことが、
「影花が、会いたいって。」
「じゃあ、今すぐに!」
「影花は、今、ここには居ないの。」
「え?」
・ ・ ・
俺は、家に帰り、すぐに自転車を走らせた。雪が舞う世界を、ただ、影花に会うためだけに。
15分くらい走っただろうか。目的地である、病院が見えた。
プレートを確認し、ノックする。どうぞ。と聞こえた。
「ああ…輝。来ちゃったんだ。」
影花は、ベットに座っていた。
「どうして。」
「ごめん。本当は、知ってほしくなかった。記憶の中では、元気な姿のままでいたかった。」
「…」
「でもさ、やっぱり寂しくなっちゃって。」
「そっか…あ、忘れないうちに、これ。クリスマスだから。」
「ありがとう。でも…」
「好きだよ。」
静寂が流れる。分かっていた。今言われても迷惑だって。
「誕生日は、何がほしい?」
なるべく、明るく言ったつもりだった。影花の誕生日は1月6日だから。
「ごめん…私ね、年越しできるのか、分からない。」
「え?……嘘、だろ?」
「嘘って、言いたいよ。でも……でもさ、どうしようもないんだよ。」
「いつから、わかってたんだ?」
「小学生の時から、ずっと、20歳までは生きれないって。」
「照は、」
「知ってるよ。」
「そ……か……」
「だからさ、輝。こんな私なんか好きになったって、意味ないんだよ。」
「それでも、君が好きなんだ。」
たとえ、明日には消えてしまっても、この気持ちはずっと在り続ける。そう、思ってる。
「ごめん。今日は、帰ってくれない?もう、こんな時間だし。」
「………分かった。また来るから。これから、毎日。」
返事はなかった。俺は扉を開け、病院を出た。
輝が去った後。病院のとある一室では、すすり泣く音が鳴っていた。死にたくない。そんな声も――。
・ ・ ・
輝、影花、残り少ない時間を、幸せに過ごしてね。私はきっと邪魔だから、見守るだけにしておくよ。でも―――――だから。そのときは、許してね。影花。
・・・
大晦日まで後3日。影花は骨が浮き出ていた。日に日に悪くなっていく彼女を見ていると、苦しい。もう、いつ亡くなってもおかしくない。それが、良く分かった。
残りの時間を、大切に。
大晦日になった。俺は、今日も影花の病室にいた。
「影花。」
呼びかけても、返事はない。手を握ると、少しだけ握り返してくれるだけ。彼女は、生きているけれど、もう、話せなくなっていた。俺は、覚悟を決めた。
年越しのカウントダウンが始まる。影花の隣で、聞いている。
5、4、3、2、1、0。
「影花、あ―――」
ピ―――と、電子音が鳴る。年越し直後。影花はいなくなった。
電話が鳴る。
「輝、あけましておめでとう」
「照、あけましておめでとう」
「影花は… 」
「年越し直後に―――」
「そっか…じゃあ、またね。」
「ああ…。」
………帰ろう…
扉を開け…
「輝君?」
「あ……影花の…お母さん。」
「輝君。10時頃に家に来てちょうだい。照ちゃんも一緒に。」
「…分かりました。」
照に連絡をし、家に帰った。なかなか寝付けなかった。
・ ・ ・
そっか…死んじゃったんだ…年越しを、祝えないまま…。それじゃあ、やらなきゃね。影花。任せて。ちゃんとやり遂げてあげる。でも――その前に、泣いて、いいよね……。
・・・
……朝か…。
ベットから降り、準備する。靴を履き、玄関を出る。冬の空気が、肌を撫でる。
「…行こ…」
振り向いても、隣を見ても、誰もいない。
家の前のインターホンを鳴らす。
「輝です。」
ドアが開く。中に入る。
「お邪魔します。」
照もいる。
「2人揃ったから、これを。」
「これは…?」
「影花からの、手紙。」
心臓が跳ねた。
「こっちが照ちゃんの。こっちが輝君の。」
今、ここで読んだら…いや…今は、読みたくない…。
「すみません。帰って読んでも、良いですか」
「ええ。」
「お邪魔しました。」
照がついてくる。
「あそこで、読めば良かったのに。どうして。」
「それは…」
言えない。言いたくない。それを言葉にした途端に、本当のことになってしまいそうで怖い。
「読んでしまったら、影花が本当に――」
「言うな!」
「っ……」
つい、大声を出してしまった。そう。照が言おうとしたこと。図星だった。
「読むも読まないも自由だよ。だけど、書いた人が何を思って書いたのか、考えなよ。」
今度は、俺が黙る番だった。
そう。照の言う通りだ。でも、俺は――
「手紙って言うのは、読まれてから初めて完成して、読まれなかったら、そんなの手紙じゃない。そう思う。だからさ、家に帰ったら、ちゃんと読んであげてね。私も、そばにいるから。」
もしも、俺だったら――。
「ああ。」
家に着いた。鍵を開け、中に入る。
「ただいま。」
・ ・ ・
影花から、話を聞いた時、私はとても驚いた。影花が、輝と一緒にいたい。そう言った時に、多分、無意識だっただろうな。
――最後まで――。
聞こえなかった。そう、思いたかった。でも、聞いてしまったんだ。だから聞いた。信じられなかった。信じたくなかった。まさか、私の親友がこんなにも早く死んでしまうなんて。そして、彼女から1つのお願いをされた。
――私が死んだら、輝のそばにいて、輝を支えてあげて。きっと輝は、壊れてしまうから――
・・・
〜影花からの手紙〜
――輝へ。
あけましておめでとう。輝。この手紙を読んでいるってことは、私はこの世にいないんだね。これ書いてみたかったんだよね。小説にでてくることがあってさ。でも、自分事となると笑えなくなっちゃう。
この手紙は、クリスマスの日、輝が帰った後に書いてます。輝、ブレスレット、ありがとう。プレゼントを貰うことなんてもうないって思ってたから、とても嬉しかった。もっと、もっと生きていたかったな。私は、輝からたくさん貰ったよ。守るって、約束してくれた。私に、勇気をくれた。私を、変えてくれた。あの日、輝が転入してきた時に、嫌いだって言ったね。心の中でも、嫌いだって言った。自分に、嘘をついてたんだ。本当は、輝のことを覚えていた。自分に嘘をついて、本当の気持ちを隠そうとした。それなのに、君は、私を、 気づいていたの?そんなわけないか。あの教室を変えた理由、何か分かる?本当は、変える必要なんてなかった。実はね、君の為なんだ。君は、ずっと苦しそうだったから、笑ってなかったから、私は決めたんだよ。結局、君に助けられたけどね。最後に、ずっと、ずっと胸の奥にしまっていた心が、輝のせいで溢れてきちゃったから書くね。輝、私は君のことが好き。誰よりも、君よりも。大好きだよ。
影花より――
「っ……っ……」
輝は泣いた。大切な人を2度も失ってしまった輝は。けれど、輝を、優しく抱きしめる人がいる。大丈夫…大丈夫と、声をかけ続ける人が。輝は、いつの間にか泣き止んでいた。
・・・
――照へ
照。今までありがとう。輝のことをよろしくね。生まれ変わって、2人のことを見に行きたいなぁ。その時は、照の好きな動物になりたいな。幸せにね。
影花より――
短いなぁ。影花らしいや。きっと、輝の方は長い文章なんだろうなぁ。
あ、輝、泣いてる。大丈夫。私が、側にいるよ。ねぇ、影花。私も、輝のことが好きみたい。ごめんね。
・・・
…影花、どうして、あの時に答えてくれなかったんだよ。こんな返事は、求めていなかった。でも、ありがとう。
「照、もう大丈夫だ。ありがとう。」
「そう。これからも、ずっと側にいてあげるから、いつでも頼ってね。」
「ああ。」
優しいな。照も。影花のことは忘れられそうにない。俺はずっと、影花のことを好きでい続けると思う。
「ねぇ、輝。初詣、一緒に行かない?」
初詣か。
「行く。いつ行くんだ?」
「今すぐに。だよ。」
新しい年での、新しい一歩だ。
・・・
やっぱり人が多いな。はぐれないようにしないと。
「人多いからさ、手」
「はい。」
…照は、大切な親友だ。影花といるときみたいな感情が全くない。これからも、そういう感情を持つことはないだろう。だって、
――影花のことを、世界で1番愛しているから――
並び終えて、賽銭を入れ、お参りを終える。照はすぐに終え、おみくじが売っている場所で待機していた。なぜ俺は時間が掛かったのか。言うまでもないだろう。人間、都合が良いときは、輪廻転生でも信じるものだ。
「輝、おみくじどうだった?」
考え事をしている間におみくじを引いた。結果は、
「吉か。」
「私は大吉だよ。影花は?……あ…」
この傷は、まだ癒えそうにないようだ。
「ねぇ、輝。」
「ん?」
「ちゃんと生きようね。影花の分まで。」
「当たり前だろ。」
第一章〜end
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