最終章〜これからも、いつまでも、隣で〜
最終章
ピンポーン
それは、夕飯時に鳴った。
「はい。」
その人は、人を探していた。
その人は、女の子を探していた。
「知りませんか?」
その人は、玄関の奥にある扉を見つめていた。
「知りません。」
その人は、帰っていった。
その人は、男性だった。
「照?」
その人が帰った後。
照の様子が、いつもと違った。
「輝……さっきの人とは関わらないで……。」
「………そっか。」
声が、聞こえたんだ。照を縛り付ける声が。さっきの人は、多分、照の父親だ。
「大丈夫。ずっと、側にいる。」
これは、緊急事態だ。店長には悪いが、少し、バイトを休むか。いや……そうだ。
「照、俺のバイトについてきてくれないか?」
「……どうして?」
「家のほうが危険かもしれない。」
「分かった。」
さっきの男性は、おかしかった。人を探しているなら、その人の特徴を言うはずだ。だけど、性別を言っただけで、『知りませんか?』と言った。情報が少な過ぎた。そして、俺の方を見ていなかった。ずっと、俺の後ろにある扉を見ていたんだ。そこに自分の探しものがあるかのように。そうだ、
高校生、名字、名前。それだけで居場所がわかってしまう。噂が広まっている。俺と照の同棲疑惑。それを聞いたんだろう。
つまり、あの人、照の父親であろう人は、探している女の子、照がこの家にいることが分かりきっている状態なんだ。
だから、照が
・・・
「照、君は、どうしたい?」
「一緒に、いたい。」
「ああ。」
絶対に。
それから3日間は平和だった。
4日後も、平和だと思っていた。平和であってほしかった。バイトからの帰り道。
俺の目の前で、照が連れ去られた――
「照!!」
誰も助けようとしない。その日に限って、道行く人は多かった。
追いかけた。すぐに、見失ってしまった。
「照、どこに、どこに、いるんだよ!」
探しても、探しても、見つからない。今日は、もう諦めるしかなかった。
次の日。照から連絡があった。
『さよなら』
・・・
彼が、視界から消える。腕は、引っ張られたままだ。強い力で握られていて、逃げることができない。声は出ない。恐怖で、声を発したら、何をされるのか分からない。目を瞑る。いつの間にか足が止まっていて、目隠しをされた。目の前は真っ暗。スマホを取られ、ロックが外れる音がした。顔認証は今後やめようと思った。横にされ、バタンと音がした。エンジンが掛かる音がした。そして、動き出す。どこに行くのか、何も分からない。それからしばらくして、衝撃が来た。そこからの記憶は、ない
・・・
テレビの音がいつもよりも大きく聞こえる。
「照………影花……」
『さよなら』
たったの一言だ。照の身に何かあったのだろうか。
テレビから声が聞こえる。いつの間にかニュースの時間になっていたらしい。
『本日未明………で大規模な交通事故が………車は逃走中のようです。』
……照とは関係ない。今日もまた探さないと。
どこに、いるんだよ……路地裏を探す。廃墟はこの辺にはない。探せ、どこだ、どこに、いるんだよ……照!
………もう……疲れた。
家に帰る。太陽は沈みきっている。
テレビをつける。声が聞こえる。
『本日未明に起こった大規模な交通事故の犯人が捕まったとのことで………。』
照には…関係……
『トランクに人が入っており、警察は誘拐事件として捜査を進めています。』
誘拐…トランク…人……。
家を飛び出した。
・・・
目を開けると、白い天井が見えた。ピッピッピッと連続した音が聞こえる。
病院の中だ。
「……輝……」
早く、来て。怖……い。もう……―――う……ああ…
病室に、泣き声が響く……
不意に、抱きつかれた。
・・・
……っ……見つけた。ここが、車が捕まった場所から一番近い。頼む。ここに居てくれ。
息切れを起こしながら、
「すみません、……っここに
帰って来た返事は、はい。だった。
「どこ…ですか」
「203号室に」
「ありがとうございます。」
ここだ。扉を開けると、照が座っていた。泣いていた。
思わず、抱きしめてしまうほど、安心した。
「照……」
「…ひか…る…」
彼女は、泣き叫んだ。
「ごめん…ごめん…守るって言ったのに……」
「…いいんだよ、そんなこと。輝、来てくれて……ありがとう。」
そのまま、唇が触れ合う。
「大好きだよ。輝。」
「俺も、大好きだ。」
・・・
3日くらいで照は退院。またいつも通りの日々を送る……その前に、照は誘拐犯と会ってみたいと言うのだ。
俺は照の父親だろうと考えている。
ついて行く。と言ったら、一緒に来てよね。と言われた。
・・・
会いに行く。警察の許可は取れた。ということで警察署の前に。
「輝……ちゃんと着いて来てよね。」
「大丈夫。」
さて…行くか。
こちらですと言われて面会室のような場所に。相手はもういた。
「ああ…」
「…」
「お父さん…」
「照!逆らうなと言っただろう!本当に失敗作だ!」
やっぱり、
「早く無実を証明しろぉ!」
両親共に、
「親の言うことを聞くのが当たり前だろ!」
娘のことを、見ていない。
「そうやって、何もかも強制して……どれだけ苦しかったか、どれだけ痛かったか分かる!?私は、この人と一緒にいるときのほうが、何十倍も楽しくて、幸せ。私は、前までの私とは違う。もう、顔も見たくない。さよなら。」
照は立った。少しだけ、涙を流していた。まっすぐ、前を向いて言った。
「帰ろう」
「ああ。」
「ありがとうございました。」
俺達は、振り返らなかった。
帰り道。
「ありがとね、輝。もう、大丈夫。明日からまた、いつも通りの日々を送ろう。」
「…そうだな。事件が起きると生きた心地がしない。」
「でも、助けてくれるんでしょ?」
「そうだな。」
「私も、輝のこと助けるから。」
「安心しろ。何回も助けられてる。」
「……うん!」
照は、とびっきりの笑顔だった。
その笑顔は、とても、綺麗だった。
これからも、隣で支え合いたい。そう思えた。
最終章〜end
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