いつまでも隣で。

夜影空

第一章

プロローグ

また、笑ってる。そういう奴らのことが、分からないし、怖い。私のことについて話していても、無視しないと、次の瞬間には――。

「ギャア!?」

また…また始まった…今日も、殴られてる。そう。反論したら、こうなる。もちろん、助ける人は、誰も居ない。自分が、標的にされたくないから。私も、その中の1人。

そんな中、この中途半端な時期に、転入生が来た。

扉の向こうから、目を向けている。殺意があるような目が、ずっと。怖い。

でも、教室に入った時、一変した。

「どうもー!ひかるって言います!こう見えて仲良くできるか不安でーす。よろしくお願いしまーす。」

教室で笑いが起きる。

「こう見えてって何だよー!」

「面白い。」

「良いね!」

「輝君の席はあそこね。」

「はーい。」

教室を一瞥し、席に座る。

輝。あいつはクズだ。態度を豹変させ、すぐに教室の一部になる。カースト上位。そう呼ばれる奴らと話す。彼等と同類。私はもちろん、カースト下位に位置する、いわゆるぼっちと言われる存在だ。そして、この日から、私の日常は変わっていく。


――今日も、教室で話している。朝は、ある机に、落書きがあった。酷い言葉が、大量に。ずっと、ずっと動かない、この状況。動き始めたのは、輝が転入してきてから2週間経った頃だった。


それは、恋バナと言われる種類の会話だった。

「あんたは好きな人いるの?」

「ううん。居ないよ。」

「輝は?」

「実は、このクラスにタイプがいるんだよね〜。」

「え〜!誰誰!」

「影花さん。」

「え?」

「影花さん。」

影花えいか…聞き覚えがある…と言うか、毎日聞いている名前。最初は、耳を疑った。でも、2回とも、この名前だった。影花。――




この日から、彼の攻撃が始まった。事あるごとに好き好き言ってきて、ウザい。視線が痛い。どうして私が、こんな私が、こんな迷惑なことに巻き込まれているのか。どうして彼が、こんなことをするのか、分からない。今日の英語の時間も、わざわざ私の所まで来て、ペアになった。私が音読で突っかかっても、ミスをしても、彼は何も言わず、馬鹿にせず、私が読み終わるのを待っていた。おかしい。頭がどうにかなったのか。明日には、戻っているはずだ。そう、思っていたのに。次の日も、また次の日も、毎日のように、飽きもせず、私に、突っかかってくる。好きだと言ってくる。何をしたい。私は、嫌いだ。大キライだ。


「影花。」

影花。この名前を呼ぶのは、家族以外に彼しかいない。

「一緒に帰ろーぜ。」

「やだ。」

「そう言われても、話しかけ続けてあげる。」

「こっちに、来ないでよ…本当に嫌なんだから……。」

「そうか…。でも、教室ではいつも通り振る舞うよ。」

「どうして」

「今は言えない。」

その横顔は真剣で、あの日見た表情みたいだった。彼は、輝は、いったい何がしたいのだろう。もしかして――。

――その答えは、彼にしか、分からない。。


それからも、教室では、彼はいつも私に絡んできた。でも、帰宅時は、ただ、何も言わず、隣を歩いて来た。

「なんで…嫌だって、言ったよね!」

「こうしないと、あいつらに、怪しまれるから。」

「なんか今日、暗くない?」

「めっちゃ明るいけど?」

「違う。輝。君のことだよ。」

なんでだろう。嫌いなのに。イヤなのに。こいつは、こいつのことが、気になってしまう。

「そっか。暗い…か。油断したなぁ。おれ、いつの間に。」

「どういうこと?」

「聞かなくても、分かるだろう?君なら。」

ああ。。なんとなく、そんな気はしていた。あの表情は、そういうことだった。

「うん。分かる。輝。もう、私、君のことは嫌いじゃない。」

「そっか。でも、」

「学校ではそのままで。でしょ。」

「ああ。」

ここから、私達の秘密の日常が始まっていく。予想もしていなかった、嫌いだった彼との日常が。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る