第5話 氾濫

 声が出ない…

 思いもよらぬ事態に戸惑い固まる。


 数分前の、泣きっ面に蜂が三匹くらい止まっていた自分に教えてあげたい。


 ワカメが居るという奇跡!


 ワカメが話しかけてくれるという奇跡!!


 世界は奇跡に満ち溢れてるぞーーーーーーーーーーー!!!




「濡れちゃいましたねー雷凄いですねー道路冠水しそうですねー傘持ってなくて困っ…………」


 そしてワカメはめちゃくちゃ喋るぞーーーーーーーー!!!




 淡々と話すワカメと見つめ合っている。

 この奇跡を繋ぎ止める言葉を探す。

 なにか話さなくては…

 なにか返さなくては…

 頭の中がグルグル回り過ぎてバターになって溢れ出る。

 自分の意図しない言葉が口から垂れた。


「よかったら…車で…送ります…けど…」∴


「お願いしまー…」


 ワカメが水の中をパシャパシャ翔ていく…


 へ?


 慌てて追いかけ車に乗り込む。


「ハァー…ハァー…」


 怒涛の展開についていけない…

 ワカメと二人きりで…

 車に乗っている…


「ハァー…ハァー…」


 数分前の、泣きっ面に蜂が三匹くらい止まっていた自分に教えてあげたい。


 蜂なんか何匹でも止まらせてあげなさい。

 ワカメくるからくるまにくるからーーー!!!




 震える手でエンジンをかけた…


「ハァー…ハァー…」


 え…

 かからない。


 パニックになりバックミラーなどを動かしてみるがエンジンはかからない。

 そらそうだ。

 バックミラーはエンジンとは全く関係ない。


 雷鳴と共に稲妻が走って雨が恐ろしいくらいにザバザバと落ちて来る。

 バケツをひっくり返した様な雨とはこのことかと思う。

 車は雨で故障してしまったのだろうか…

 焦りながらもこのまま動かないで欲しいという気持ちもある。

 閉じ込めておきたい。

 ワカメが何処かへ消えてしまうのは耐えられなかった。

 線状降水帯に包まれた二人だけの世界。

 この小さな世界が終わらないで欲しい…

 硝子の窓に水がダラダラと滑り落ちていく…




「ラウさーん…」


「はい…?」


 自分の中の特命係が返事をした。

 振り向くとワカメの顔がすぐ近くにあって仰け反り後頭部を硝子の窓に打つ。

 ジリジリワカメが迫って来る…



 ハァハァハァハァハァハァ…



 へ…



 ハァハァハァハァハァハァ…



 20cm…



 え!?



 ハァハァハァハァハァハァ…



 10cm…



 えっ!?

 えっ!?

 えっ!!!?



 ハァハァハァカハッハァ…

「好きでー…」

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 センシュセンセイノイントネーション!!!

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