第6話 禁断の海藻
ワカメだらけの海に溺れて息が出来ない。
いつまで漂流し続けるのか、終わらない虚しさに気が狂いそうになる。
ワカメが絡み付いてゆっくりと沈んでいく…
誰かに髪を引っ張られている…
このままでは禿げる…
息が出来ない…
苦しい…
息が出来ない…
息が出来ない…
深い底で柔らかいワカメに包まれ目を開いた…
薄闇の中…
目の前に広がる雲海…
の様な…
ビニー…ル…
目の前に広がる無数の白いビニール袋…
床一面のゴミ…
異様な景色にゴミ屋敷とはこの事かと思う。
ハッとして寝返りを打った。
イタッ
いつも寝起きは体の何処かが痛い。
今現在、特に左手首が痛い。
なぜかロープが絡み付いている。
右手で外そうとロープをグイグイ引っ張ると更に手首に食い込んだ。
ロープの先がベッドに結ばれていてそちらをほどく方が早い。
ロープをほどきながら横を見ると肌も髪もサラサラと美しいワカメが眠っている。
本物だろうか…
これは現実なのか…
昨日の信じられない出来事…
ワカメの悲し気な顔を思い出した…
~~~~~~~~~~~~~
ハァハァハァハァハァハァ…
ワカメの息と自分の耳の血管の音だけになる。
ハァハァハァハァハァハァ…
ワカメが服の中に入ってくる…
ハァハァハァハァハァハァ…
忘我に向かうワカメを抑えて言った。
「車じゃ…イヤだ…」
おいおいおいおい!
自分なに言ってる!
イヤじゃないだろ!
イイだろ!
クルマでイイだろ!
雨で外から見えんし…
車の近くを通っていく人と目が合った…
雨は一滴も降っていない。
天気どうしたよ!?
見上げると街灯が眩しかった。
急にワカメの体温がサッと離れて涼しくなる。
切ない…
後悔がジリジリ広がっていく…
「そこ出てすぐ左に曲がってくださー…」
「ん?あ…はい…」
何か急にタクシーみたいになっていると思いながらエンジンをかける。
すんなりかかってクルマはジリジリ動き出した。
クルマどうしたよ!?
ワカメの部屋へ来てしまった∴
ワカメに手を引かれ、逆らえない流れに流されていく∴
暗い部屋の中へ…
何かを踏みながら進む∴
何かに滑ってベッドに倒れ込んだ。
柔らかい香りと共にサラサラとワカメが覆い被さって来る。
窓からの仄明かりを纏ったワカメの顔が今にも泣き出しそうで抱きしめずにいられなかった…∴
~~~~~~~~~~~~~
ああ…
なんて事を…
あんなに恋い焦がれていたワカメが隣で眠っているというのに幸せな気持ちにはなれなかった。
ワカメを起こさないようにベッドからそっと出る。
出た途端にすっ転ぶ。
ツルッ
クローゼット横の鏡に、痛い顔の自分が映っているのが見えた。
左手首のロープを踏んでいることに気づかず立ち上がると、でんぐり返って雑誌で滑ってスーッと鏡の前に到着した。
フーーー…
この部屋は危険だ…
無事に出られるだろうか…
食い込みまくった危険なロープを手首から外してクローゼットに引っかけた。
鏡を見ると奥の方に白く美しいコピー用紙の様な肌のワカメが眠っている。
手前にはアブラギッシュな肌にシーツのシワがコピーされた自分の顔があった。
「ハァー…」
ジリジリと増殖していく後悔を、ため息と共に少し出した。
頭を抱えて下を向くとゴミの間から覗くモサモサアタマ期のワカメを見つけた。
それは履歴書で…
ゴミの中から引っ張り出すと身体中に充満していた後悔が一気に凍った。
ハン…
ザイ…
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