第8話 Wakamecide
「もっとさぁ!はっきりと大きな声出せないの!?」
「すみま…」
「えっ!?なにっ!?」
「すみませー…」
「チッ!」
また怒鳴られてしまった。
学校に馴染めずアルバイト先にも馴染めず辛く当たられていた。
どうして自分だけこんなに嫌われるのか分からなかった。
最初はビクビクして毎日泣いていたけど今は感情を麻痺させる術を身に付けていた。
何も見えない何も聞こえない何も感じない自分一人だけが虚無の世界にいた。
ある日、店のドアが開いて凄くいい匂いが入ってきた。
火照った肌に汗がキラキラ綺麗で見とれてしまった∴
振り向いて欲しくてその人のうなじに向かって言った∴
「いらっしゃいませー」
光を撒き散らしながらこちらを向いた大きな瞳にハッとした。
目の前がクリアになって何もかもが色濃く見えた。
恥ずかしくなって床を見ていると、視界にジリジリと入って来たサンダルの足にドキドキする。
話しかけられるのを待っていたけど何も言わずに離れて行ってしまった。
たったそれだけの事で胸がギュッとなって後ろ姿を目で追いかけた∴
行かないで…行かないで…行かないで…
一期さんが何か言っていたけど耳に入ってこなかった。
また会いたいと祈る日々が過ぎポイント2倍デーにその人は来た。
ポイント2倍デーだけ必ず来た。
棚の陰に隠れて見ていると∴その人はいつもの下痢止めを手に取った。
裏返しになっているシャツの、ボタンのとめ方が変で思わず笑ってしまった∴
笑ったのはいつぶりだろうか…
今日の服装はお揃いだ∴
うれしい。
自分の髪からあの時と同じ匂いがして幸せな気持ちで録画を止めた∴
レジでクレジットカードのアルファベットが見えた。
RAU…
身体中に血が巡って体温が上がった。
RAU…RAU…RAU…
RAUの白い車の側で待っていると∴雨が降って来て、軒下へ走って行くRAUをみつけた。
濡れたRAUから自分と同じシャンプーの匂いがする。
RAUと初めて出会った時の匂いが車を満たした。
RAUは自分を受け入れてくれた。
RAUは自分を好きになってくれた。
RAUは自分を抱きしめてくれた。
RAUは自分のものだ。
眠っているRAUをベッドに繋ぎ止めた∴
RAUの滑らかな白い髪を触っていると怖くなる。
ずっと一緒にいられないことは分かっていた。
RAUは自分を選ばない。
RAUが自分以外の誰かと一緒にいるのは耐えられない。
力を入れると∴RAUがもがきながら腕をつかんでくる。
苦しむ顔は見たくなくてRAUの首から手をひいた。
いつの間にか眠ってしまった。
目を覚ますとRAUはいなかった。
夢だったのだろうか…
鏡までのゴミがかたずけられている。
鏡の前に立つとサラサラ前髪の自分が映っていた。
クローゼットのドアを開ける。
「ありがとー…」
ロープを首にかけた∴
カラレ∴ メメ @mementcomori
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