カラレ∴

メメ

第1話 ジリジリハァハァ

「ハァ…ハァ…」

 ジリジリと太陽に焼かれながら進む。

「ハァ…ハァ…」

 ジリジリと汗の粒が繋がって、こめかみを伝う、首筋を流れる。

「ハァ…ハァ…」

 ジリジリと遠ざかる逃げ水の後を追う。

「ハァ…ハァ…」


「健康のためにウォーキングだ!」


 とか言ってた数分前の自分を恨む。

 暑いの分かってたじゃん…

「ハァー…ハァー…」

 クルマ乗って来いよ~

「ハァー…ハァー…」

 Tシャツが張り付いて気持ち悪いよ~

「ハァー…ハァー…」

 自分、湯気出てますよね?

「ハァー…ハァー…」

 頭から湯気、出てますよね?

「ハァー…ハァー…」

 モヤモヤ~

 カゲロウだ…カゲロウだ…カゲロ…ゲロッ…

「ハァー…ハァー…」


 朦朧と彷徨い目的地に辿り着く。

 虚ろな目の前に入り口が現れた。


 ああ!

 涼をください!

 開けごま~!

 アロホモラ~!


 硝子のドアが…


 今…


 ジリジリと…


 開かれる…


 そして閉じる。

 そして開いて…閉じて…


 入れない…

 ジリジリの毛が生えたワンコがドアの前をウロウロしている。


「ハァー…」

 お前は何処のワンコじゃ?


 ハァハァハァハァハァハァ…

 ジリジリ毛のワンコは、しっぽを激しく振って軽快にグルグル回りだす。

 ハァハァハァハァハァハァ…

 バターになっちゃうぞっ

 ジリ毛のワンコは大興奮で自分のしっぽを追いかけている。

 ハァハァハァカハッハァ…


「ハァー…」

 それにしても暑い。

 今年は特に暑い。

 今現在、特に右足が暑い。

 ジリ毛のワンが右足にしがみついている。


「ハァー…勘弁してくれ~」

 ハァハァハカッハァハァ…


 昔から子供と老人と変態と、ワンコには何故かモテる。


 ハァハァハァハァグハァ…


 はさはさわちゃわちゃと小刻みに騒ぐジリコ。


 くっそ~

 可愛いぞ~

 可愛くて、右足から剥がせないまま熱に耐える。


「ハァー…」


 クゥークゥークゥークゥー…


 あああ~ヤメロ~

 クゥークゥーはダメだ。


 クゥークゥーハァハァハァ…

 クゥークゥーハァハァ…笑顔


 取り憑かれたように、けものに手が伸びる∴


「やーしやーしゃーしゃーし…」


 ジリゴローを一心不乱に触り手繰る∴

 夢中になっていると不意に声がした。


「わんちゃ~ん!」


 ジリ美は右足を蹴り捨てるように押し退け狂喜乱舞、声の方へ翔ていった…

 ジリエは振り向かない。


 小さくなっていくジリ香を見つめながら呆気に取られる。

 右足が涼しくなった。

 せつね~

 泣きそ~

 クゥクゥ言ってたくせに~

 弄ばれた~


 斯くしてジリ丸の名前が判明する事となった。

 その名はジリ太郎でもジリ之助でもなく、ジリザベスでもジリベスタスタローンでもなかった…


 わん…であった。


 漢字で王と書くのかもしれない。

 それともOne…

 或いは…湾…椀…ヴァン…


 さよならを繰り返しジリジリと大人になる。

 わんよさらば。

 叩けよさらば開かれん。


 ドアが開いた。

 急いでヒンヤリ空間に滑り込む∴

 ああああ~

 ありがとう!

 エアコン発明家、エアコンに携わる全ての人達ありがとう!

 全身の水分が冷えてゆく。

 無心に冷気を浴びていると不意に声がした。


「宣誓ー」


 へ…

 選手宣誓…

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