この世のものとは思えぬ


 名前もなく「獣」とだけ呼ばれる、忌むべき存在がいた。
 昔は山神として村に豊穣をもたらしていたが、故あって村人に恐れられ、長いこと座敷牢に幽閉されているらしい。
 日照りにあえぐ村人達は、弱みを持つ村人・二郎に「獣」との交渉を命じる……



 この作品を読んで浮かんできたのが、落語の「死神」でした。
 喋り方こそ人間の、それもひょうきんにすら感じられるものですが、価値観はやはり人とは明らかに違う。
 だからこそ「死神」のサゲ(終わり)が怖いものになる。

 この「獣」というのが、悲哀を持つ二郎に対してはある程度親身にはなってくれるのですが、やはりその本質は人外のもの。
 ブロマンスを感じさせつつも、人では推し量れないし、どことなく無情を感じさせる点が良かったです。