架空のRT会話から起きた架空の事件についての取材記録
赤夜燈
侵食(身喰)
あれはTwitter……いまは、Xでしたか。
「あのへん」の人たちが始めた遊びが、元でした。
私がいたのはコミュニティとも呼べない、会話のキャッチボールならぬドッジボールをするような、コミュニティでした。
なんで所属していたのかと問われれば、私と似たようなひねくれた人間が揃ってたからです。
人は、社会性と多様性の生き物ですから。どれだけ人付き合いが苦手でも、群れなくては暮らせないんですよ。
……話が逸れましたね。「あのへん」の人たちは、奇妙なコミュニケーションのとりかたをしていました。
「RT会話」です。今は、リポスト会話? もう、どうでもいいですけど。
相手のつぶやきをリツイートして、それに自分が独り言のように言及するんですよ。
ええ、そうです。直接やりとりするのが苦手でも、これなら独り言の体でコミュニケーションをとれますからね。
それで、ある日「遊び」が流行りました。
「架空のリツイート会話」、です。
つまり、リツイートしたつぶやきに言及するのではなく。
リツイートしていない、そもそも存在していないつぶやきに言及する形で、好き勝手気ままに本音や暴言を吐くんです。
おかしいですよね。虚像、虚構、虚言。ただでさえ独り言みたいなコミュニケーションが、本当に独り言になってしまった。
私ですか? やりましたよ。赤信号みんなで渡れば怖くない。車に轢かれるはずなのにね。馬鹿でしたし、馬鹿ですよ。
でも、楽しかったんです。虚構相手に日頃の鬱憤を晴らすのは、気持ちいいですから。
状況が変わったのは、次の日でした。
架空の、リツイートしていないつぶやきが、出現していました。
そうです。みんなで嘘を楽しんでいたのに、嘘から真が出てしまった。
あとはどうなったかご存知でしょう。この御時世にSNSで、本当に攻撃的なことを言っていたらどうなるか、嫌と言うほど。
みんないなくなりました。きっと現実でも、消えているのではないでしょうか。
なぜ、取材を受けたのか、ですか?
考えてもみてください。
嘘が本当になるなら、いつ私の存在が嘘になるかわからないでしょう。
そもそも、私もあなたも。
本当に存在するのですか?
嘘ではないと、どうして言えますか?
ねえ。
ねえ。
ねえ
『この取材記録データは、消すことができない』
『集団失踪事件の取材だったらしいが、彼らの繋がりはSNSしかなかった、というメモが残っている』
『しかし、そもそも誰も失踪した記録などない』
『取材した人間も、された人間もわからない』
『閲覧厳禁。何が起きても、たとえ消えても自己責任』
『月刊××、編集長○○』
「なあ、この編集長○○って、誰だ?」
「知らない。こんな人、いなかったはずだよ? それより見てみない? この取材記録――」
架空のRT会話から起きた架空の事件についての取材記録 赤夜燈 @HomuraKokoro
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