後日談
【 注意 】
後日談には、原作【章紋のトバサ】のACT12最終話のネタバレが存在します。
まだ見ていない方は、原作を最後まで読んでからこちらの後日談を読むことをオススメします。
・原作【 章紋のトバサ 】
【https://kakuyomu.jp/works/1177354055311624778】
↓
「この前は……急に仕事押しつけて……ごめんね……」
瓜亜探偵事務所の中、刑事のクライさんが買ってきた微糖の缶コーヒーを受け取った。
このひんやりとした感触……やっぱり気持ちいい……
「ううん、むしろ助かったよ。最近はあまり依頼が来なかったからね」
マウは缶に入ったカフェオレを持ちながら、ぴょんとソファーに飛び乗った。
それを聞いてクライさんは安心したのか、一息つくと手にしていたブラックの缶コーヒーのフタを開ける。
クライさんは、鳥羽差市の警察署に勤める刑事。
数カ月前の事件で知り合ってから、よくお世話になっている。
「友人の父親から自分に頼まれていたけど……ちょうど……デ、んんっ……予定が入ってたからさ……」
1度クライさんが言葉に詰まった様子を見て、ワタシはマウと向き合ってクスクスと笑い合った。
「それにしても……大変じゃなかった……? ベランダから落ちたって……聞いたけど……」
「ボクは落ちてる最中に初めて知ったからなぁ……イザホ、どうだった?」
マウに問いかけられて、ワタシは……
喉に埋め込んだ声の紋章と、口元に意識を集中させた。
「……別に、平気、だったよ。満月、キレイなところも、見れたから」
声の紋章から声を出した後、マウに顔を向けて、たずねよう。
「マウ、どうだった?」
「うーん……やっぱり、ちょっとだけズレがあるね」
……
「やっぱりなかなか合わないや……
「あ、さっき合ってたような気がするよ? 最後まで口が見えなかったけど……」
うなだれるワタシにかけてくれるマウの言葉……
とりあえず、お世辞ではないはずだよね……多分。
ワタシには元々、声を持っていなかった。
この声の紋章は、数カ月前の事件……最後にお母さまと出会った時に埋め込んだものだ。
だけど、ワタシが作られたのは10年前……10年間、声を持たずにいたからか、口の動きと声がうまく連動していない。
埋め込んだばかりのころは声を持ったことでうれしくって、気にせず知人とよくおしゃべりしてたけど……
ふと鏡を見た時、口の動きと声が合っていないことが気になってしまった。
結局、喋らないことになれきっていることもあって、親しい人以外には声を出さなくなってしまった。
もちろん、そのままではいけないから、時々マウに見てもらいながら練習はしているんだけどね。
「そういえば……
その言葉に、ワタシはマウと一緒にクライさんの顔を見る。
クライさんはブラックの缶コーヒーを飲み干すと、その暗い顔で笑みをこぼした。
「あと……コヅキとまた、
クライさんの言葉に、マウはふすふすと鼻を動かした。
「ボクたち、なんだか気に入られちゃったね」
「うん。今度また、コヅキさんに、会いに行こうね」
ワタシはマウに向かって、口と動きが合わない声を出す。
そして、胸に手を当てて……お月見の日を再生する。
コヅキさんと泊まった翌日、ワタシは、コヅキさんに声を聞かせた。
コヅキさんは、ワタシの口の動きがおかしいとは言わず、クスクスと笑った。
声は昨日聞いたよぉ。一緒に笑っていたよねぇ。
餅をついていたあの日、マウとコヅキさんが笑っているときに、ワタシも声に出して笑っていたことにようやく気づいた。
あの日の思い出を再生しながら、ワタシは缶コーヒーのブルに指を当てる。
プシュ
静かな空気にひと声上げる缶コーヒー。
ワタシは体中の紋章が震えるのを感じながら、中身を喉へと案内する。
……ああ、舌に埋め込んだ紋章が、わずかな苦みと甘さを感じ取る。この味、この味が、思い出をやさしく包み込んでくれる。
「……ねえ、マウ」
「どうしたの? イザホ」
ワタシは、ふとした思いつきを声に出してみた。
「コーヒーと一緒に、餅を食べたら、案外、おいしかったり、する?」
マウは「あー、たしかに」と関心した風につぶやいた。
それを見たクライさんは、静かに笑った。
「来年のお月見の時……コヅキという子と一緒に……試してみるのはどうかな……」
窓の外の太陽は、満月に負けんとばかりに、キレイに輝いていた。
紋章のカニは、餅つきの模様を描くか? オロボ46 @orobo46
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