第2話 火の玉
Yさんの部落では遺体は全て土葬だった。
Yさんはお墓が好きだった。格別行くのが好きだった訳では無いが、お墓に永遠に続きそうに供えてあるお花が大好きだった。
ある夜、彼女は近所の子のお守りで背中におぶいながら夜道を歩いていた。彼女が丁度墓地の近くを通った時、一つの墓からうっすらとした、まるでお月様の様な火の玉が浮かんでいた。しかし彼女の部落ではこれはよくある事だった。
「久しぶりや!」
と言うと彼女はお辞儀をした。彼女が頭を上げる頃には火の玉は消えていた。この部落では火の玉は彼らの風習の一部になっており、理屈はわからなかったが皆、お辞儀をする様にしていたらしい。
数年後、彼女は上京した。
大した理由は無かったが、その頃は誰もが都市に憧れていた。
それほど考えず上京した彼女だったがすぐに苦労を強いられた。給料の安いY新聞社に就職したが、女性だと言う理由で社内でも酷い待遇を受けていた。
ある時彼女に、珍しくちゃんとした仕事が回ってきた。
新聞の端にある怪事件や怪談について連載されているとても小さい記事だったが、彼女は喜んで引き受けた。それで彼女は昔の部落の火の玉を思い出し、記事にまとめた後編集長に提出した。
「君はいままで何をしていたんだ!え?」
社内に響くのは厳しい叱り声だけであった。どうやら彼女が火の玉だと思っていた現象は土葬で出てくるリンという科学物質が雨水と反応して光ったり、気温の上昇で発火していただけらしい。彼女の提案はもちろん却下され、彼女には実質的なクビが決定された。
彼女の背中には社員達の冷たい笑い声が刺さり続けた。
五日後、彼女は自殺した。
発見されたのは正確には一週間後。家主さんが彼女の部屋で首吊り死体を発見した。彼女は手厚く故郷の土に埋葬されたが、自殺の動機は不明だった。
いや、もみ消されたと言った方が正しい。
彼女が亡くなり数年後、Y新聞社はぐんぐん成績が伸びていき日本有数の新聞会社へとなった。あの頃の編集長はあの後新聞社の社長となっており、あの頃の社員も何人か幹部へと昇進していた。
Y新聞社は「田舎を助けよう!」と言う企画で〇〇県の山奥を取材する事となった。しかし裏では勉学に疎い田舎の住民達から土地をむしりとる口実だった。
今回は未だに土葬に使われている墓地を火葬に変え、その土地を新たな目的のために使う。と言う物だった。
スタッフと社長、幹部らが一服をしていると一人の幹部が何かに気づいたらしく墓石の一つに近づいた。何秒か首を傾げていると彼は
「この名前何か見覚えがないか?」
と幹部達に声を掛けた。社長を含め他の幹部達が見てみると、そこには「宮部 陽子」
と彫られていた。
すると社長は何かを思い出した様に吹き出し首を傾げる幹部達に向けて口を開いた。
「こりゃあ、数年前自殺した
後日、S新聞社の新聞では
「Y新聞社の社長と古株数人が謎の焼死体で発見」
と見出しに大きく書かれていた。報告ではどうやら企画現場で死体が見つかったらしく、警察は他殺の可能性も探していると言う。
しかしS新聞社で唯一取材に行っていた記者はこう言っている。
「僕が行った時にはまだ警察も慌てていて、遺体が確認できたんですよ。」
彼は少し躊躇った。
「警官の肩からの一瞬覗いただけでしたからはっきりは見れなかったんです。でもあの光景は忘れられません。真っ黒こげになった首がお墓達の前に置かれてたんですよ。いや、どちらかというと供えられてた、って感じですかね?」
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