第8話 霊道

B氏は大阪の証券会社に勤め始めた。


入社してからというもの彼には特に悪い事も良い事も起きず時間が過ぎていった。しかしこの瞬間が彼の人生でおいての幸福の絶頂だった事には誰も、気づいていなかった。

B氏は昔から他の人に見えないものが見えていた。初めて自覚したのはおそらく小学生の頃、B氏が公園で遊んでいた時だ。

日が暮れ始め、殆ど無人になっていた公園でB氏は一人で遊んでいた。この光景を見て、何人かの人物が彼に喋りかけてくれたらしい。しかしB氏の一言で例外なく全員が苦笑いをしてまた歩いていった。


「・・あの子に聞いてよ。」


それがB氏の返事であった。

そう言う彼の指差しているブランコは少し錆びており、静かに風に揺れている。

しかしそこには誰も座っていないのだ。

帰ってこない事を親に心配され最後には警察も呼び出されたにも関わらず、近場の公園で発見された時には誰もが困惑した。


「Bちゃん、何でそんな遅くまで遊んでたの!!」


B氏は何度も警察と親に自分の見た事を説明したが、誰も彼のことを真剣に受け止めてはくれなかった。

所詮、幼子の妄想だと。

それからと言うもの、B氏は自分の異常さを自覚し始めた。

その後高熱にうなされる、後ろから視線を感じる、などと言う事が多くなった為、B氏はなるべく霊を避けるため、必然的に物静かになっていった。

このせいでB氏は常人とは全く違う人生を歩まなければなかった。

小学校、中学校と不登校になっていたが、いつまでも親の元でいるのにも限界があると反省したB氏は


「避けられないなら、無視すべし」


という座右の銘を作った。

そうして自分の勘と判断で少しずつ社会復帰を果たしていったのである。

遂に会社に入れたB氏は居酒屋へ祝杯を上げに行っていた。酒を飲むと判断が鈍ってしまうので飲んだことは無かったが、その日は飲みまくった。

飲んでいるとあっという間に暗くなり、彼が帰路に着く頃には零時近くになっていた。

この地元にはK神社と言う立派な神社が建っているが、手入れが行き届いてないせいで不気味な雰囲気が醸し出されている。そしてその二軒隣にあるのがB氏の実家である。決して悪い家ではないが、周りの家に比べると明らかに古いので、どうしても目立ってしまうのだ。

普通B氏は夜中に目立つような事をするのは避けているが、千鳥足でフラフラのB氏は完璧に”出来上がっていた”。


「ったぐ、死んだならさっさと成仏しやがれってんだ!」


そう叫び、地面を蹴ろうとしたB氏は空振り、背中から転んでいた。


「っでーな!」


転んだ後に上を向くのは殆ど本能的なものだ。B氏も同じように起き上がり、上を向いた。

その夜空には星と、人があった。一人じゃない。永遠に続く列のように人が並んでいる。永遠に。。続くような。しかし、B氏の倒れている場所から少し奥で列は不自然に途切れていた。

そして、B氏の視界は何かを捉えた。”それ”は列からくる人間の首を一人ずつもぎ取っていっているのだ。込み上げてくる吐き気に堪えなくなり、B氏は吐いた。そして視線を感じてまた上を見上げると、B氏は戦慄した。首をもぎ取られるために並んでいる人々、その全ての視線がB氏を凝視しているのだ。背中に冷たいものを感じたB氏はすぐに首を下に向けた。しかし視線の気配は消えない。酔いはとっくの昔に冷めており、あれには関わってはいけないと本能が一斉に危険信号を鳴らしている。なぜか息まで苦しくなってきた。まるで、じわじわと首を絞められているような。。

そこからB氏はあまり覚えてないと言う。ただただ、がむしゃらに家へ走り続けていた事と、死んでもおかしく無かった事だけ覚えていると。真っ青になりながら玄関先で気絶したB氏を発見した時には、彼の親も気が気では無かったらしい。


そうしてB氏は会社初めての一週間は全て休むことになった。あの列はそうやらK神社の真上で止まっていたらしかったのだ。そして会社へ行くにはそこを通らなければならない。

なぜK神社の真上であのような事が起きているのかは分からないが、これ以上首を突っ込まない方がいいだろう。一週間ほど立つと視線も少しは弱まってきていた。あの二日後また通ろうとして気絶した時には本当に死んだかと思ったとB氏は言う。しかし二度目はない。次”あれ”を見たら俺は死ぬだろう。その時はその時だ。けれどもあの経験は一生忘れないものになるだろう。特にあの”人”の霊達が、物凄い形相で睨んできた時にはゾッとした。けれどもB氏が一番気が取られたのは列の奥であったらしい。なぜならそこには彼とそっくりな”人”が並んでいたからだ。けれどもハッキリとは分からないとB氏は言う。


なぜならその顔には目しか無かったからだ。

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実話は小説より怪なり U.N Owen @1921310

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