さよなら マイマイ
園田樹乃
第1話
その日、あなたは一通のメール末尾にカタツムリのアイコンを見つけた。
何気なく合わせたカーソルには、リンク先があるような反応もなく。
メーリングリストから送られてきたダイレクトメールだったことから、『下書き時に消し忘れた悪戯書き』と判断したあなたは、そのままメールごと削除した。
あなたがこのカタツムリと再会するのは、半年ほど後のこと。
子供の通う小学校から届いた、運動会プログラムの片隅。玉入れのイラストの横で片目をつぶっていた。
「運動会にカタツムリって……おかしくない?」
尋ねるあなたに、五年生の息子は
「べつに?」
そっけなく返事をすると、冷蔵庫を漁りだす。
「なんかない? オレ、腹減ったんだけど」
「もうすぐ、お父さん帰ってくるから。晩御飯まで待ちなさい」
あなたの言葉に彼は、冷蔵庫のドアを荒く閉めると、黙って部屋へと戻っていった。
そろそろ思春期に差し掛かる、難しい年ごろ、か。
そっとため息を噛み殺したあなたは、再び、プログラムのカタツムリを眺める。
あなたは、季節の風物詩や旬の食べ物などに深い興味がある
それでも、自身が小学生の頃に見た覚えのない、運動会と雨を象徴するようなイラストの組み合わせに、あなたは魚の小骨が刺さったような不快感を覚えた。
微かな不快感をきっかけにして、その後あなたは街のあちらこちらでカタツムリのイラストを目にするようになる。
ポスティングされている選挙広報、駅の時刻表、メーリングリストで送られてくるスーパーの広告。
どのカタツムリも、こちらをバカにするかのようにウインクをしている。
「ねぇ? 最近、このイラスト。あっちこっちで見ない?」
休日のある朝、あなたが夫に尋ねたのは、ささやかな世間話のつもりだった。
ダイニングテーブルで食事をしながら新聞を読んでいる彼の手元でもまた、カタツムリがウインクしている。
広げていた新聞を一旦、閉じるようにして、あなたが指差した一面の記事に目を落とした彼は、
「ああ、なんか……文字が読めない人が増えているって」
と言って、皿のトーストに手を伸ばす。
「それと、カタツムリに何の関係が?」
「関係はわからないけどさ。そういう人向けに開発された、三次元コードの一種らしいよ。専用のデバイスで情報取得ができるんだってさ」
「ふーん」
「国際化が進むと、そんなことも必要になるんだろう」
「ああ、話せるけど読めない……って?」
翻訳アプリのような物を、あなたは想像する。
「そんな感じかな? まあ、俺たちに直接関係する話じゃないし。ちょっとオマケのイラストが付いたくらいのことさ」
そう言ってトーストを齧った彼に相槌を打ちながら、あなたは違うことを心配していた。
夫が話すように、急速に国際化が進んだ現在。
入学早々、授業についていけない子が増えてきて、小学校でも言葉の壁が問題になっていた。
さらに、個人の特性を尊重する考え方が社会に浸透してきたこともあり、あなたの曽祖父母が子供だった時代には『読み・書き、ソロバン』と言い慣わされていた国語と算数・数学、さらに英語が習熟度別のクラスになっている。
同じ年に入学した子達よりも、ゆっくりとした進度で国語と英語を学んでいるあなたの息子も、数学だけは過去のカリキュラムに換算すれば二年分ほど早く進んでいる。
その息子は既に朝食を終えて、ダイニングテーブルの端で数学の課題をしているが、両親の会話に耳を傾けるでもなく、まるでゲームでも楽しんでいるかのような表情で、タブレットの画面に何やら書き込んでいる。
今はまだなんとかなってはいるものの、読み書きが不得手なままでは近い将来、得意な数学でも壁にぶち当たるかもしれない。高等数学の分野になれば、教科書の文章も難解になってくるだろう。
何よりも、大人になった時。
彼は“文字の読めない人”に分類されてしまうのではないだろうか?
息子の将来を憂えつつあなたは、苦い吐息をコーヒーに混ぜて飲み干した。
あなたの心配も知らず、カタツムリは日々、増えていく。
それはまるで、梅雨の時期に卵から孵るかのような勢いで。
『こちらに一匹』『あっちには二匹』と数えてしまうあなたは、さらにカタツムリたちの存在を意識せずにはいられない。
そんなある日のこと。
あなたは目に異常を感じる。
何かの拍子に、視界に小さなノイズが走るのだ。
「飛蚊症ってやつじゃないか?」
相談した夫は、軽く眉を顰める。
「診てもらった方がいいよ。会社の上司の友達が、それで失明しかけたとかって聞いたよ」
相談こそしたものの、心のどこかで、『そんな大袈裟な……』と彼に言って欲しかったあなたは、日々の忙しさを言い訳に受診を先延ばしにしていたが。
半年ほどかけて、じわり、じわりとノイズが増えてくるように思えてきて、ついに眼科医院を訪れた。
「これはおそらく……字崩症ではないかと」
医師に告げられたのは、あなたが聞いたこともない病名で。
「じ、ほうしょう?」
「確定診断は、大きな病院に行ってください」
と、紹介状を渡される。
予約が取れた受診日まで、ネットで検索を重ねるあなた。
出てくる情報は都市伝説紛いの不確かなものばかりで。
病名にタグ付けされたいくつもの画像が、あなたの不安をさらに掻き立てる。
文字に沿って燃え上がる紙のイラスト。
水で洗われた砂文字のように削れた数字の列。
氷が融けるように、文章の一部がダラリと崩れた物も。
見ない方が良い。
そう思いながらも検索を止められない日々を過ごして、あなたは診察日を迎えた。
紹介先の病院では、通常の視力検査や眼圧などの検査の後、今までに経験のない検査が行われた。
脳のMRIに始まり、心理テストのようなものや、さまざまな映像を見せられたりもした。
そして、最も時間をかけたのは、あなたが見ているノイズを可視化する検査だった。
健康診断のデーターのような数字の羅列、今朝の新聞のコピーや外国語のペーパーバックの一部分らしき文字組。
学生時代の教科書で目にした記憶のある、古文や漢文。
海外製品の取り扱い説明書と思しき、内容不明の文字の数々。
映画のポスターやカレンダーの一部など。
様々な印刷物を一枚ずつ眺めては、現れたノイズを書き込んでいく。
「これは? いったい……?」
イタズラ書きのような記号が並んだ用紙を渡されたあなたが尋ねると、医師は
「ルーン文字ですよ」
事もなげに答える。
「るーん……文字……」
聞いたことのない言葉にあなたが戸惑っていると
「占いをされたり、小説を読まれたりする方には、馴染みのある文字らしいですね。私には読めませんが」
「読める人なんて、居るんですか?」
「それはまあ、文字ですからね。勉強すれば」
『他にも、こんなのが』と、医師があなたに見せたのは、象形文字らしい図が並んでいたり、四方八方を向いた三角が並んでいたり……と、古代に使われた文字だという数枚の印刷物だった。
「あぁ。これも、全くノイズが出てきません」
じっくりと眺めてから答えたあなたに、医師は満足そうに頷く。
「これはヒエログリフ。古代エジプトの文字です」
古代エジプト、つまりピラミッドの文字。ざっくりとした認識であなたは、鳥や波の模様が並んでいる紙をさっきのルーン文字と同様に、“ノイズが現れない”グループへと重ねる。
そして、最後に渡された一枚に、大きく書かれていたのは、あなたの氏名。
苗字の最後の一文字。一番長い横画の端にポツリと黒いシミが浮かぶ。文字の周りに散ったノイズは、今までで最も多い。
不吉な雰囲気のシミに鼓動が早くなるのを感じながら、あなたは鉛筆を手にノイズを書き込む。
最初に受診した眼科医が予測したように、あなたには“字崩症”の診断がくだされた。
「ざっくりと説明するなら、文字が崩れて見える病気、です」
「治るんでしょうか?」
こういった場面では、お決まりのセリフだ。と、あなたは他人事のように頭の隅で考える。
そんな悠長な考えは
「現在のところ、治療法は……」
言葉を濁した医師によって、霧のように蒸発してしまう。
医師の話によると。
二十年前くらいから、ポツリポツリと症例報告は上がり始めていた“らしい”。
と、いうのも、始めのうちは誰も真剣に取り合わなかった、とか。
脳や眼に目立った異常がなく、客観的に症状の進行を測ることも不可能であったため、不定愁訴や幻覚の一種と扱われてしまったことが、この病気の発見を妨げてきたらしい
「患者が何をどう見ているのか。各々が見ている“像”というものは、客観的に観測できないわけです」
「はぁ」
そうは言っても、例えば映画の一場面は、誰が見ても同じだろう? と、あなたは胸の内で反論する。
理解できていない顔をしたあなたに、医師の説明が少しばかり脱線する。
「ここに、赤いチューリップがあるとしましょう」
「はい」
「この、赤という色。どう定義すると思いますか?」
「定義……ですか?」
答えを求めて、あなたの視線は診察室の中を彷徨うが、
「辞書的には血の色、とされています」
時間を惜しんだ医師は、さっさと答えを示す。
なるほど……と、頷くあなたに、医師は
「ですが、あなたと私が見ている血の色は、本当に同じものでしょうか?」
モニター横のファイルから新たに取り出した二枚の印刷物を見せた。
休日の遊園地らしい明るい色味の写真と、それを色反転させた黒っぽい画像。
映っていた赤い風船を右の人差し指でさすと、医師は
「あなたも私も幼いころに、周りの大人から『これが赤だ』と、教えられますね」
と、尋ねる。
幼かった息子に『赤いブーブ、走ってるね』『美味しそうな、トマトの赤色』と語りかけたことを、あなたは思い出す。
絵本に描いてある消防車の赤、クマと相撲を取る少年の赤い腹掛け。
「ですが、もしも互いの見ている映像をスクショのように現像ができたなら。こんな風に違っているものかもしれませんよ?」
そう言って医師は、黒っぽい方の画像の中で青く写っている同じ風船を左手で指した。
光は影に、赤は青に……と、不穏な雰囲気を漂わせる画像をあなたは覗き込む。
「実際には、こちらの反転した画像のように見えていても、その色こそが“赤”だと、学習するわけですから。見ている映像の相違を客観的に判断することは、非常に難しい」
医師は、さっきまであなたが、受けていた検査の結果を集めた紙束を指差す。
「『文字が読めなくなった』『存在しないはずの妙な物が見える』そういった主訴を受けても、患者が実際に見ている像を、我々が見ることはできないわけです。こうやって、書き出してもらうことで、症状のデータベース化ができるまでに、どれほどの時間がかかったことか……」
特異な症状報告が世界中から集まり、ようやく未知の疾患として専門家に認知されてきたのが、十年ほど前のこと。
そこから医師や研究者たちは、工夫に工夫を重ねて、どうにか検査法を編み出した。
「ご自身の名前、もしくは数字に顕著な崩れが見られるとの訴えから始まることが多いようです」
医師は机の上に、あなたが書き込んだノイズの例を並べていく。
確かに数字の書かれた用紙には、より多くの書き込みがされていて。
最後に見た自身の名前に落ちた、黒いシミが全てを物語っているようだった。
「意味のある文字から崩れていく……人によって異なる崩れ方をすることが、この病気の特徴なんです」
一文字で世界共通の“意味”を持つ数字、そして最も馴染みのある名前から崩れるのは、そのせいだと、医師は語る。
「ですから、先ほど訊かれたルーン文字やヒエログリフも、あなたの名前を翻訳したものなんですが」
医師の言葉に、あなたは首を傾げた。
「自分の名前なのに……ノイズが現れないのですか?」
「『この組み合わせが“自分の名前”だ』と認識していないからです。こちらのノイズが出てない文字たちは、全てあなたの名前ですよ」
翻訳アプリを使えば、どんな言語の文字にも一発変換が可能だと、医師は自慢げに話した。
四か月後の再診を予約して、あなたは帰りの電車に揺られる。
平日のお昼過ぎ。がら空きの車内で、あなたは処方された薬の入った手提げ袋を抱きしめる。
治療法も予後も不明な状態でもらった薬は、気休め程度にしか思えない。
そもそも、文字が読めるようになる薬があるのなら、息子に飲ませた方が良いのではないか……などと考えて。
あなたは、現実逃避を図ろうとしている自分に気づく。
初診から数年をかけて、あなたの症状は少しずつ進行していった。
あなた自身も、すぐには気付かないほどゆっくりゆっくりと。
経過を診るため、通院の度にあなたは文字がどう見えているのかを検査する。
一つだけだった名前に落ちた染みは、数を増やし、色を重ねる。
数字の列にも、一つ、二つと染みが増えてきて。
息子が最も苦手としていた英語の義務教育課程をなんとか終えて、卒業式を迎える頃には、自分の氏名と数字は完全に読めなくなっていた。
そして家族の名前も、大部分がシミに覆われている。
卒業証書に書かれているはずの息子の名前。
あなたの目には、かつて夫と相談に相談を重ねて名付けた愛おしい文字たちが、シミに汚されていた。
記念すべき卒業式の日付も、彼の生年月日も。
カラフルで歪な水玉模様の列にしか見えなかった。
哀しみとも悔しさともつかない気持ちを抱えて、あなたは証書を撫でる。
掌が通り過ぎた一瞬。ほんの一瞬だけ、数字が見えた気がするものの。
あっという間に、文字に色が落ちてくる。落ち続ける。
文字が汚れ始めた初期には、一滴、二滴で終わっていたものが、やがて際限なく色が落ちてくるようになった。
実際の絵の具やインクではない証拠のように、一滴ずつが汚す範囲は広がらない。積み重なる汚れが山を作ることもない。
ただ果てしなく、色が落ちてくる。
それが一ヶ所、二ヶ所…‥と増えていき、やがて文字を覆いつくすのだ。
息子がもう少し、英語に力を入れて勉強してくれていたなら……ここまで酷くなる前に、卒業証書を受け取れたかもしれない。
無駄な感傷と知りながら、あなたは過ぎた時間を惜しむ。
惜しんだ時間と共に卒業証書を片付けたあなたは、夕食の買い物に出かけた。
今夜は、息子のリクエストでオムライス。
以前のあなたなら、卒業のお祝いとして、手の込んだ料理を作っただろう。
レシピサイトだけでなく、独身時代から買い溜めた料理本をフル活用して、おそらく半月は前から計画を練ることを楽しんでいたはず。
しかし、病はあなたから新しい料理に挑戦する気力も奪った。
あなたは、既に数字が読めない。
つまり、レシピに書かれた材料をどれだけ用意するのか、加熱時間はどのくらいなのか。どんな割合で調味料を使うのか。
それらの情報から、あなたは遮断されている。
そして……。
数年前の、初診の日。
「表語文字を使う漢字圏の患者は、他の文字圏に比べて、初期から崩れる文字の割合が多いとされてます。漢字は数字と同じく、一文字で意味をもちますから」
医師は、メモパットから毟り取った一枚に、鉛筆を走らせた。
“砂糖”“sugar”“ショ糖”“スクロース”
四個の言葉が、あなたに示される。
「全て同じ物を表していますが、おそらく、この中であなたが最初に失うのは“砂糖”だと思われます」
医師の手が“砂糖”の文字にバツ印を重ねた。
その予言の通り。
現在のあなたの視界では、レシピに書かれた砂糖と塩、醤油といった調味料には、数多くのノイズが発生していて、最初の一滴で汚されるのも時間の問題と思われた。
当時のあなたは、
「意味がわかる文字なら、“sugar”もですけど?」
『それくらい、読み書きの苦手な息子でも読める』と、内心で憤慨していた。
そんなあなたに、医師は小さく肩をすくめて見せると、やや残念そうな声で言った。
「ですから、“おそらく”です。文字情報を脳内で咀嚼する際の手間が少ない……つまり、直感的に読める文字から失われていくと考えられているので、母語に症状が現れやすい。また、アルファベットは組み合わせで単語を表すので、“sugar“なら五文字が必要ですが、漢字なら“砂糖”の二文字です。それが、漢字圏で症状が進みやすい原因ではないかと」
そして、識字率の低い国では発症率も低く、日常的に単純な記号を使用している職業に従事している患者では、それらの記号でも同じような症状が見られる、とも。
スーパーに着いたあなたは、携帯端末を手に買い物をする。
商品のバーコードを専用のアプリで読み込めば、メーカーや商品名、規格から価格までを読み上げてくれる。それをイヤホンで聞いきながら、あなたは買い物を進めていく。
セルフレジの技術が改良されて、無線イヤホンから情報を得ることができるようになったおかげで、あなたは価格が読めなくなってからも、一人で買い物をこなせている。
そして、商品の裏面には。
一匹のカタツムリのイラストが描かれている。
数年前から、あなたの身の回りに姿を見せていたカタツムリたち。
『文字が読めない人が増えているらしい』と夫が話していたあの時。
あなたは、自分がこのカタツムリたちに“助けられる方”になるとは、想像もしていなかった。
字崩症の患者のためのツールとして開発された
かなりの文字数を扱うことができるため、公共機関が扱う文書をはじめとして、新聞やネット広告など幅広く利用されている。
この技術を開発したチームの中にも、字崩症患者が居たという。
専門用語的な略語や記号は、漢字並みに崩れやすく、専門性の高い仕事をしている人ほど症状の進行が早かったらしい。
仕事ができなくなる焦燥感に駆られた本人。
能力を惜しんだ周囲の人々。
持てる技術と知能の限りを尽くすようにして、
このツールによって、文字の大部分が読めなくなった患者も、イヤホンやスピーカーを通じて情報を得ることができるようになった。使用者の感覚としては、眼鏡や補聴器となんら変わりはない。
最近、あなたも読み取り機器を受け取るための助成を申請したところだ。
カタツムリを使いこなせるようになれば、再び、新しい料理に挑戦する意欲も湧くに違いない。
カタツムリと二人三脚で病気と付き合うあなた。その症状は、徐々に進行のスピードをあげてきた。
息子が社会人として独り立ちする頃には、漢字の大部分と、カタカナの一部が読めなくなってきた。
ランダムに並んだカタカナは、問題なく読める。しかし、その一部に偶然の産物で意味のある単語が生じてしまうと、その部分に汚れが落ちてくる。
相変わらず、範囲の広がらないカラフルなシミが一滴、二滴と降り続く。
やがて、あなたは外出を控えるようになった。
街には、文字が溢れている。
店の看板、駅の案内表示。
電車の車内広告、飲食店のメニュー。
世界は、あなたが思う以上に文字情報の洪水だった。
それらが、常にシミに冒されている。
あなたの視界では、色鮮やかな雫が落ち続けている。
あなたは、その光景にうんざりしていた。
そうしてあなたは、テレビやネット動画も観なくなった。過剰な字幕は、あなたの神経をささくれださせる。
ラジオを愛し、オーディオブックで余暇を過ごす。
幸い、必要な情報はカタツムリのおかげで、手に入れることができる。
病気に対する
初回の番組が始まる前日。
予習のつもりで、あなたはテキストを開く。
解説部分を汚すシミを注視しないようにして、カタツムリの定位置であるページ右下に目をやる。
ポトリ、と。
予兆もなく、カタツムリの右目に赤い汚れが落ちる。
今までノイズもなかったのに……と、慌てて、あなたは
手を離し、いつものように片目をつぶっているイラストに息を吐く間をあけて。
ポツリ、と。
また一滴、青い汚れが落ちてくる。
あなたの目は。
あなたの脳は。
カタツムリのイラストを
《情報》を意味する
文字として
認識してしまった。
end.
さよなら マイマイ 園田樹乃 @OrionCage
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