最終章 私にとっての白夜

 

 時おり、うたた寝して時間が経つのを忘れていると、寂しさを覚えていた。なぜなら、シークがどれだけ寄り添ってくれても、彼は恋愛対象になる異性ではなかったからだ。


 私はやむを得ず新たな道を探す気持ちに駆られた。自然界や生き物の心を読み取ることができる「エンパス」の力が、気づいたら自分にはほとんど残っていなかった。   

 目をそっと閉じて、残り火を燃やすように、美しくも儚い「白夜」の世界に想いを馳せていく。


 まだ夜明け前に、思いがけない光景に出くわした。それは、薄暗くて重苦しい場所だった。私はその場所に圧倒された。


 しかし、遠くにほのかな光を見つけた。その光はだんだんと明るくなり、職場で隣に座る男性の姿が光の中に現れた。私は男の顔をはっきりと見た。彼は野崎翔平という名前の先輩だった。このところ片想いで恋心を寄せている相手だった。


 私は翔平さんに駆け寄り、恋い慕う気持ちのすべてを打ち明けた。すると、彼は優しく微笑んで、「こっちにおいで」と言って手を差し伸べてくれた。


 翔平さんの手を取ると、私はシークのことも思い出した。私は懐中時計を開き、シークに幸せそうな笑顔を見せた。「ありがとう」と言ったら、シークもカチカチと笑って返してくれた。

 そして、私は懐中時計を閉じた。翔平さんの手は温かくて、心地よかった。この一連の出来事は、私にとって新たな恋の始まりを告げるかのようだった。


 その時、天使の羽のようなオーロラが、薄緑色に輝きながら舞ってきた。オーロラは、私の心を後押しするかのように、暖かい風を運んできた。それは、幸運を招くというシロフクロウの化身だった。


 目にしたものは、日常から切り離された異世界だった。まるで、私だけの白夜だった。見ているだけで、五感が研ぎ澄まされる感じがした。冷たい空気に触れると、風や木々、花々の音や香りが心地よかった。


 この白夜は、色や香りだけではなく、静寂と神秘に満ちていて魅力的だった。無限に広がる宇宙みたいで、静かに輝く星や月明かりが私を照らしてくれた。異世界へ入っていくような気分になって、新しい可能性や希望に酔いしれた。感動しすぎて何も言えなくて、ぼんやり立っていただけだった。  


 けれど、私は別のことを考えていた。自然の神々や幸運の鳥が、「もっと、恋に真剣になって、頑張れよ!」と囁いてくれているみたいだった。その世界にいると、自分と向き合って、心の中の本当の想いを探せる気がした。シークのそばにいれば、大切な支えになって、寂しさも忘れられた。


「ねえ、翔平さん」と私は彼に声をかけた。「この光景はすごく美しいけど、私はあなたのことが気になって……」


「僕もだよ」と彼は私の手を握って言った。「ひなたが好きだから、この場所に連れてきたんだ。君に見せたかったんだ」


「翔平さん、本当ですか?」と私は目を輝かせて聞いた。「私もあなたが好きです。ずっと言えなくてごめんなさい」


「気にしないで」と彼は私の頬にキスして言った。「今から始まるんだよ! 僕らの物語が……」



 気がつくと、私は現実に戻っていた。


 今日は仕事に行かなければならなかった。現実に戻るのがあまりに突然で、一瞬息が詰まった。なのに、シークは私のオーロラのような切なさに気づかずに、冷たく突き放してきた。


「知らんがな! そんなこと」


 彼はなぜかご機嫌ななめだった。私の恋に嫉妬したのかな。それとも、恥ずかしかったのかな……。シークの声が、朝の静けさを破るように、私の心に響いた。


「わかってます!」


 起きた途端に、シークは口を尖らせた。私もムキになって返事した。私たちはもう何でも言い合える仲だった。彼の言葉で、私は感情が乱れた。でも、好きだという気持ちは変わらなかった。


「早くしないと遅刻するよ。ゲロゲロ……」


「シーク、やめてよ……。大丈夫だって」


「カチンカチン……」


 困るとシークは不快な音だけを出した。その音で、彼の存在が強く伝わって、私の心が揺れた。もうすぐ七時半になる。


「そうだっけ。君は何も感じないんだっけ。まるで木偶でくみたいだね」


「カチンカチン……」


 その音色は怒ったように届いた。でも、耳まで尖らせてはいなかった。大きな目もクリクリとよく動かして、私を見つめていた。


「シーク、また壊れたの? あっ、針が!」


「大丈夫だよ! カチカチ……」


「ああ、また動き出したのね。君って本当に不思議だわ!」


 私は彼の小さな耳を優しく撫でてあげた。


「カチカチ……。ゴロスケホッホー」


 それはご機嫌のあいさつだ。その声は、彼の独特の感性を表していた。


「でも、君がいてくれると少し楽になるよ。好きだよ、シーク!」


 今朝も涙を誘う素晴らしいメロディーではなく、そんな風にたわけたやり取りをしていた気がする。私は少しイライラして彼に当たっていたのかもしれない。



 そして、その日も始まった。


 シークとの会話は、時に厳しく、時に優しく、私を成長させてくれる。彼とのやり取りは、私の心を激しく揺さぶり、新たな視点を提供してくれる。

 それはまるで、「白夜」の里で見つけた新しい世界みたいだ。そして私は知った。自分自身と向き合うことの大切さを。それはシークから学んだ大切な教訓だった。


 この話はまだ終わらない。


 これから新しい一日が始まるし、新しい冒険も始まる。そして私は信じている。シークと一緒にいる時間がこれからも私を成長させてくれるって……。そして、私は職場のあの人にもっと近づけるって。


「シーク、今日も一緒に頑張ろう!」


 私は声を張り上げて言った。


「カチカチ……。彼氏に何て言うんだよ。頑張れよな、ゴロスケホッホー」


 彼はすぐに返事した。それが彼なりの応援だったんだろう。そして、私は現実の世界と「白夜」の狭間で揺れ動く職場に向かって歩き出した。


「ううん、これから考えるよ」


「大丈夫だよ! 元気出してな。カチカチ……」


 これからも私は笑顔で、前を向いて歩き続けるだろう。そうして、新たな一日を作り出す。彼の音色が励ましに聴こえて、新たな希望を持てる。


「でも、君がいてくれると少し楽になるよ。好きだよ、シーク!」


 私は自分自身に向き合い、新たな一歩を踏み出す。それは、自分自身の強さと勇気に気づき、失恋から立ち直る力を得る第一歩だ。


 そして私は決める。元カレがいなくても、私の人生は楽しい。そしてその人生は、自分自身の力で作っていくものだと……



 過去の恋からさよならして

 私は新しい道に進んだ

 私は新しい恋に出会った

 彼の瞳に映る私は

 私は輝いている  幸せだ


 過去の恋から学んだことで

 自分は強くなれた

 自分は優しくなれた

 傷ついた心を癒すように

 私は輝いている  幸せだ


 シークの幸運を招く魔法で

 自分と向き合えた

 夢と希望をもらえた

 シークの言葉が胸に響く

 私は輝いている  幸せだ


 シークに心から感謝したい



――――<完>――――


最後までお読みいただき、ありがとうございました。心から感謝申し上げます。

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白夜の恋人 シロフクロウが紡ぐ奇跡 神崎 小太郎 @yoshi1449

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