《くだらない真実とくだるお腹》

間も無く、バスタ新宿〜。

車内アナウンスの音声で、僕は目覚め、降りる準備をする。

なんだか、とても長い夢でもみていたような気分だったが、足の痛みが現実であることを告げている。

バスから降り、下界の空気を吸った瞬間、生還したことを実感し、大きく伸びをした。

「さ。帰るか。」

「え、俺この後まじで渋谷行くよ。」

「は?」

は?友人の馬鹿げた発言に心より先に口が反応する。

確かに、下山後、朦朧とした意識の僕に対し、彼はそんなことを言っていた気がする。

「え、あれホントに言ってたの?」

「うん。このまま歩いて渋谷まで行くつもり。歩いても50分くらいだし、途中の代々木とか原宿とかも気になるから。」

「あれ?富士山登ったのって夢?」

「そんなわけないじゃん。」

「いや、俺はもう限界やで無理。」

「まじか〜。じゃあ、このバッグだけ持って帰ってくれる?」

彼はリュックとは別の、ボストンバックを僕に託す。

「そんぐらいいいけど。」

「そんなに重くないと思うから。じゃあ、またあとで!」

「夜は居酒屋行くで、ほどほどで帰って来いよ〜。」

「おっけ〜。」

軽っ。僕は驚いた。彼の返事にではない。もちろん、彼のバックに対してでもない。彼のフットワークに対してである。


僕は覚束ない足取りでなんとか家に帰り、シャワーを浴びてベッドに横たわる。


しばらくして彼からLINEが来た。渋谷まで行ったが、ちょうど雨が降ってきたので帰るという。富士山の天候も、彼のおかげだったのだろう。

ふと、カーテンを開けると、こちらでも雨が降り出していた。次第にそれは強まり、彼が帰宅した際には土砂降りになっていた。どうやら豪運らしい。

彼がシャワーを浴びた後、僕らは身支度をして家を出た。雨は上がっており、僅かに虫の声が聞こえた。ディナーの前座には最高だと思った。


目当ての居酒屋は隣り駅にあり、安くて美味い。僕らはまず名物を頼んだ。ドリンクは、僕がサングリアを頼んだのに対し、友人はビールを頼んだ。疲れ切った時に飲んだビールが美味く、それ以来一杯目はビールを飲むのだという。届いたサングリアには子供染みたストローが刺さっていた。乾杯をして口に運ぶ。ゴクッゴクッと豪快に流し込む友人を横目に、僕はちびちびと飲んでみる。なぜか、飲んだ分だけ蟠りが溜まるようだった。

それからある程度つまみや気になるものを注文し、終盤に差し掛かった時、僕のオススメが届いた。アヒージョだ。値段が安い分、こぢんまりとしたサイズではあるがかなり味が染みていて美味い。友人もハマったらしく、すぐにもう一つ追加した。

僕らは二杯ずつ飲んで居酒屋を後にした。二杯目は二人ともサワーを頼んだ。夏が弾け、蟠りはいつしか消えていた。

家までは歩いて15分ほどであったし、雨も降る気配が無かったので喋りながら帰ることにした。途中、スーパーに寄って宅飲み用のつまみを買った。

帰宅した後、彼は牛乳だけを飲み、僕は澪という日本酒を一杯と、カルーアミルクを飲んだ。前者は5%で、後者もかなり薄く割ったため、全く余裕だった。ただ、少し疲れたため、ベッドに横たわる。

気づけばアラームが鳴った。


「あれ?」

僕は意味が分からず、呟く。

「おはよ。」

下の敷き布団で小さな笑みを浮かべながら朝を告げる友人の言葉に、僕は悟った。

「え、朝?てか、ごめん。めっちゃベッド占領しちゃった。てか、記憶ないわ!初めて記憶飛んだわ〜。」

我ながら朝からうるさい。

「いや、たぶん寝落ちしただけやで。」

苦笑しながら友人が真実を告げる。

「え?」

「ちなみに、陽樹はどこまで覚えてる?」

「いや、ベッドに横になったとこまで…」

「その後、俺に明日の予定聞かなかった?」

「あ、聞いたわ。」

「朝はカラオケで確定で、昼から横浜に行った後はどうするんだ?って。」

「聞いた!」

「そう。そんで俺が説明してる間に寝てたの。」

「あ、確かにそっから記憶ないわ。寝落ちしたってだけか。まじごめん。」

僕らは馬鹿らしい真実に小さく笑い合った。

彼は自分のことを理解して牛乳だけにしたのに、僕は全く自分が抑えきれなかった。濁った感情が胃の中で渦巻くのを感じる。いや、感情ではなく、物理的なものかもしれない。少し吐き気がした。

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