ep8:【三題噺 #47】「木箱」「広場」「物音」
主催者:柴田 恭太朗 2024年1月3日
趣旨:「木箱」「広場」「物音」この三つのキーワードを作品内に『文字で』登場させる。メインテーマでもサブテーマでも、一瞬登場するだけでもOKとのこと。
ジャンル:「現代ドラマ」4000字くらい
注意:微ホラー
〈 Oct.21 / 12:25/ 佐世保南東中学校・2-2教室〉
建都:「ねー、知ってる?」
そうどっかで聞いたことのあるキャッチーな決まり文句から始まる僕の噂。それに親友2人――生徒会執行部の
『やぶれかぶれに怪談話』の称号と『伝説の寝坊王』の称号を冠する僕・
信国:「お、建都の怖いお話か? 次の『ノブラジ』のネタにさせてくれよ」
秋戸:「やめとけやめとけ、ただでさえガチ寒いのに何でホラーもの用意するんだよ」
信国:「いや、良いホラー話は春夏秋冬季節を選ばねぇ! それに、秋戸、もしかしてビビってる?」
すると秋戸がカっとなって「び、ビビってねぇし!」というものだから、僕は「んじゃ、一つ目行くよ」と一声かけた。
それに秋戸が「一つじゃないのか!」と驚きながらツッコミをかますと信国がこくりとうなづくのを確認する。僕はにこりと笑ってこう続けた。
建都:「といっても一つ目はそこまで面白くない話だよ。『未来人がこの学校にいる』という噂。発祥は5組男子だったかな」
信国:「未来人。この学校にか?」
秋戸:「まあ、未来人だからって俺たちに危害を加えなければ……」
こういった超常現象を引き起こすものや存在を僕は『怪異』と名付けている。怪異は危険が伴うものと伴わないものに分かれている。その中で未来人は未だ被害者が発見されていないし、ただの噂に終わる事だろう。
その点、2つ目の怪異は危害を加える可能性がある。そういった意味では少し注意が必要だ。
建都:「そうだね……、未来人の方は危険度levelは低いと思う。でも、こっちの方は、少し、危ないんだよね」
そう宣言すると二人は固唾をのんで僕に目を合わせた。
建都:「最近、この学校の広場にさ、木箱がおいてるじゃん」
この確認に生徒の安全を守る生徒会モードの秋戸は首肯した。信国は既に番記者モードに入ってメモ帳とボールペンをもって何やらメモ取している。
秋戸:「ああ、少し前、文化祭の屋外ステージで物置小屋から木箱を運んだけど、その木箱がどうしたんだ?」
この真面目な2人に僕は含みのある笑みを浮かべながら続ける。
建都:「ここ最近、その木箱から物音がするんだってね……」
ここで放送部・信国何か思うことがあったのだろうか、秋戸に質問。
信国:「秋戸、木箱運んでいた時に音はしなかったのか?」
秋戸:「いや、中に飛んでいかないように3㎏ぐらい重りを入れてるんだ。過去にこの学校でステージの木箱が飛んでいって怪我したという報告があったからな。多少音はするはずだが……」
建都:「まあ、秋戸の予想通り、音が違うんだよね……」
この言葉を聞いて二人は眉をひそめた。
建都:「僕に教えてくれた人は、ガタガタという音がして、ゴゴゴゴゴゴゴという謎の音までしたらしい」
すると二人はこう言った。
秋戸:「これは解決しないといけないねぇ奴だろ!」 信国:「こいつは取材のしがいがあるぜ!」
そう二人が宣言しているのをみると少し嬉しくなった。6時過ぎに生徒会室集合の約束を取り繕って、僕たちは分かれた。
〈 Oct.21 / 18:10/ 佐世保南東中学校・生徒会室~昇降口〉
秋戸:「お待たせ、信国の奴はどこ行った?」
建都:「ああ、あいつか。あいつはいいやつだったよ……」
秋戸:「まさか、怪異に……」
建都:「いや、怖くなって逃げだしたよ」
秋戸:「うわ、あいつ……」
建都:「でもまだ良かったよ。一応怪異の一種だからね、何が起こるか分からない、もし何かあったときの生存者は必要だ」
秋戸:「でも、あいつ、俺達がこの怪異を解明したときに、そそくさ出てきそうだよね、あいつ良くも悪くもジャーナリストの鑑だし」
建都:「そうだね……w」
秋戸:「それか、明日から俺たちに『昨日どこで何があった?』って質問攻めしてくるとか?」
建都:「信国っていつもそうですよね! 私たちの事なんだと思ってるんですか?」
秋戸:「良い手下」
建都:「友情の敗北、悲しい……」
秋戸:「これが現実、虚しい……」
〈 Oct.21 / 18:20/ 佐世保南東中学校・広場〉
もうこの時間帯になると行きかう生徒はまるでいない。
広場とはグラウンドの端っこにもうじき行われる文化祭のための特設エリア。そこで学生バンドの花が咲いたり、演劇部や漫才部の持ちネタ披露となるわけだ。無論、図書委員会の僕にそういった仕事は全くない。
スマホのライトを頼りにあたりを見渡すが今のところ異変はなさそうだ。
秋戸:「ここが噂の場所か……」
建都:「でも今の所は……」
そう僕が落ち着いてスマホのライトを当てたその時だ。
――その時だ。
ガタガタ……。
この音に僕と秋戸の笑みは消えた。怪異の出現だ。一度は鳴りやんだこの音。でももう一度『ガタガタ』という音。耳を澄ませば「ゴゴゴゴゴゴゴ……」という音も聞こえるような……。
秋戸:「マジでヤバいやつか、これ……」
建都:「いや、僕の霊感的なものには反応しない……」
凛々とした空気の中、秋戸は恐れながらも武器として持ってきた裁ちバサミを構える。
秋戸:「なら、動物か何かだろ?」
建都:「僕もそう思っている、でもどこから現れて、どんな動物かも分からない」
一番最悪のパターンは蛇。今年は既に寒いが冬眠前の凶暴な時期。九州に熊の目撃例はほとんどないがもしもの事もあるかもしれない。
秋戸:「全く、ゴゴゴゴゴゴゴってのが熊の鳴き声だったら、すぐ逃げるぞ」
「ああ……!」と恐る恐る、箱に近づく。
ただその時、後ろから足音が……。
建都:「動くな!」
その声と同時に僕たちは振り返った。スマホのライトで目の辺りを攻撃するが、サングラスをかけているせいか、ケロッとしている。
???:「あはは、この秘密の場所がバレてしまったらしょうがないなぁ~」
そうフレンドリーな声に聞き覚えはある。スマホのライトに反射する金属。その金属がナイフだとわかったとき、僕は思わず後ずさりしてしまった。
信国:「やっほー、秋戸、建都」
秋戸:「まさか、お前……!」
もう一つ最悪のケース瞬時に考えた。このガタガタという音は、捕まっている人間のもの。だとしたら……、証拠隠滅の為にあのナイフで僕たちを……。
信国:「2人がここ探されると俺困っちゃうわけですわ、ってことで……!」
そう持っていたナイフがどこか冷たく見えた瞬間だ。
信国は瞬く間に膝をついて頭を下げた。俗に言う、土下座をしたのだ。
困惑しか対応の使用がない状況、そんな中、信国は地面に向かって叫んだ。
信国:「頼むから今からのことは内緒にしてくれ!」
――え……?
僕と秋戸は顔を見合わせて互いに豆鉄砲をくらっていた。
〈 Oct.23 / 12:30/ 佐世保南東中学校・2-2教室〉
信国:『皆さん、こんにちは! 今日は10月23日木曜日、ノブのノンノンブランドラジオ――ノブラジのお時間です! 本日はどうもよろしくお願いします!』
通称ノブラジは信国のラジオ番組。いつもはとっておきのネタが面白くて僕も結構好きなのだが、今日は少し後ろめたい。
同じく一緒に昼飯を食べている秋戸も同じように感じているのか、少し頭を抱えているようだ。
結局、あの中には熊も蛇も囚われの人質もなくて、中に入っていたのは子猫なのだ。実は、その子猫は前々から秘密裏に信国が匿っていたようで、たまたまそこに子猫が入ったという。
ちなみにナイフを持ってきたのはチーズを切るためと言って、チェダーチーズを子猫サイズにカットするために持ってきたとかなんとか。
信国:『さて、今回のノブラジでは二つほど面白くて怖い話をしてみようと思います」
するとクラスは歓喜で阿鼻叫喚。もともとノブラジはこの学校で大人気。放送部の2年男子組が作るネタが大好評なのだ。
だがそんな中僕たちはまるでサカバンバスピスのような目をしながらその放送を聞いていた。
信国:『さて、皆さんは未来人の存在を信じていますか? どうやらこの学校には未来人が何人か潜んでいるそうです』
そう信国が宣言しているとクラスは「またまたー」「冗談だろー」「梅干しうめぇ!」という声であふれていた。
信国:『目撃者のKK君によりますと、「いづれ未来人の侵略によってこの学校の人類は滅亡するだろう!」と提言しています!(いっていない)』
するとクラスは大爆笑を引き起こした。「誰だよ、KK」「建都のことかよw(正解)」「白米うめぇ!」とわちゃわちゃしていると秋戸も「お前、そこまで予言してたのかよ!」と小さく笑っていた。
それに僕は秋戸の無防備なおでこにデコピンをかまして黙らせたのはここだけの話である。
信国:「それでは二つ目です。皆さんは、最近、文化祭特設広場で奇妙な噂をご存知でしょうか。それは特設ステージの一番右の木箱から、ガタガタという音がするという……』
そう、そのネタバレをもう僕たちは知ってしまっているのだ。皆が、「なあ、知ってる?」「いやしらね」「沢庵うめぇ!」とざわつくのだが、一番冷めている場所と言ったら僕たちの席だろう。
信国:『一昨日、私は取材に出て行ったのですが、その箱いたのはなんと……』
秋戸・建都:「子猫」 信国:『子猫だったのです!』
そう2人であえて信国のラジオに被せると教室の視線が一気にこちらに向いた。みんな「え?」という顔を浮かべている。
信国:『その後箱の中の子猫は勢いよく外に出ると、そのままどこかへ行ってしまったのでした……』
秋戸・建都:「愛用のボールペンを」信国:『私愛用のボールペンを加えたまま……。どうか皆さん、迷子の子猫を捕まえてください、よろしくお願いします!』
そうまた放送にあえて被せる。すると、クラスメイトが少し震えだした。普段なら信国の強引な話のネタで笑っているだろうけど、この教室は完全に固まっていた。
信国:『それでは今日のノブラジはここまで、また来週!』
ノブラジが終わった後もこのクラスの空気はまるで真冬だった。それは次の授業が始めるまで漂っていたのだった。
aftere pisode 建都の日記
この話がきっかけで僕と秋戸は未来人の一人という謎の噂が出回った。だが無論、僕たちは未来人ではない。
未来人とは信国のラジオのネタを知ったやつが同時に信国と同じセリフを言っただけの事だったのだろう……。そうであって欲しいものだ。
ただ、未来人という候補はまだ一人いるだろう。
一昨日、ガタガタという音の調査に行ったとき、どうして信国はあの丁度調べようとした瞬間に現れたのだろうか。それに、なんでサングラスをつけていたのだろうか。
これはもしかしたら、信国こそが本物の……。
――日記はここで途切れている。また、信国が未来人という誤解を解くには2か月ほどかかったという。
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