ep4:真白の朝日(乙)

鯨伏 来夢(旧:やわらかスライム)氏企画『三題噺「魔境」「月光」「鯨」』11/26より

テーマ:乙-「楽園」「白紙」「蝶」

注意:ど素人文学

タイトル:「真白の朝日」

 



〈day1 / 11:20 / 時雨学園・2-3教室にて〉



 ——ああ、分からない……。


 そう私・東雲朝日しののめあさひは頭を抱えた。


 時は期末試験。このテストで赤点を回避しなければ追試という状況。東雲は一夜漬けという名の猛勉強をして、このテストを望んだのだが、開始3分で寝落ち。不幸中の幸い、終了1分前に目を覚まし、今に至る。


 ここで東雲が解けなかった、否、読むのを諦めた例題を一つ。なお読み飛ばし可。


「佐紀先生は10円のゴールデンアップルパイをX個、卓也先生は20円シルバーフローズンラーメンをY個、パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンディシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ先生は1000円のチョウの図鑑を0冊、クルンテープ・マハーナコーン・アモーンラッタナ コーシン・マヒンタラーユッタヤー・マハーディロッ ク・ポップ・ノッパラット・ラーチャタニーブリーロ ム・ウドムラーチャニウェートマハーサターン・アモー ンピマーン・アワターンサティット・サッカタッティヤ ウィサヌカムプラシットにある店で買いました。3人の合計金額は9000円です。また佐紀先生の買い物は卓也先生の5倍の金額ほど買いました。この時のXとYの値を答えなさい」である。ちなみに解はX=150、Y=375である。


 ——時間がない。でも答案用紙は白紙。どうしよう……。


 あたふたしていると、「そこまで!」というかしわ先生の鋭い言葉。とたん、馬鹿な私でも悟る。


 ——人生オワタ\(^o^)/


 もう逆にすがすがしく感じる。結局、私は学年組名前以外の部分をすべて白紙で回答したのだ。記号はダメもとでいれてみろというそこのあなた。ないよ☆、記号ないよ☆。すべて記述、すべて2点問題、すべて完答。


 ——もう、どうにでもなーれ!


 期末テストは終わった。いろいろな意味で。追試確定。帰ってくる「東雲さん、0点!」のテスト。


 ——はは、もう笑うしかないよ。


白鷺しらさぎ:「朝日あさひ、数学のテストどうだ……。って顔色やば!」


 文字通りの顔面蒼白にクラスメイトの白鷺真保しらさぎまほは思わず苦笑いを作った。


東雲:「真保ちゃん、真保ちゃん、どうしよどうしよ……!」 


 ハムスターが言葉を話し出したみたいな声。そう文字通り、顔から出るものすべてを垂らしながら私の胸に抱き着く朝日。まあ、大体はこれで察した。でもさすがの朝日でもここまでひどく落ち込むことはあるだろうか……。


 というのも東雲は白鷺曰く明るく人懐っこい性格。そして単純で喜怒哀楽の落差が激しいらしい。以前白鷺が誕生日プレゼントを渡すとアメリカ人すら驚く特大のハグを白鷺にかまして地面に押し付けてほっぺたをこすりつけてきたらしい。


 過去のトラウマに近い記憶を苦笑いしながら再生しながら、私は優しく朝日の頭をなでてあげる。モンシロチョウで止めている髪から少し金木犀の香りがする。その香りは朝日が本当は優しいという性格を表現しているようだ。ただ一つ困ることがある。それは人目が気になることではない。


 ——よだれと鼻水で服がベトベト……。


 でも滝のように流れる涙を流す親友の顔を覗き込むと、もういいやと思い、私は苦笑いしながらため息を吐いた。


 

〈day1 / 12:25 / 時雨学園・食堂にて〉



東雲:「ごめん! 真保ちゃん……!」


 そう朝日は手を合わせて私に言う。それはまるで宝くじのあたりを祈るようだったが、まださっきの号泣のせいで目が赤い。私はそれを聞く前からずっと苦笑いをしてるつもりだけど……。


 ——私の馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!


 って朝日に憑りついてる罪悪感がずっとこちらをにらみながら叫んでる。


東雲:「今頃になって少し恥ずかしくなっちゃう……。人前で真保ちゃんにタックルをかまして、ちゃんのそれなりの胸に顔をうずめて、真保ちゃんに頭を撫でてなだめてもらったのだ。もう中学生がこんな赤ちゃんもしない(できない)ことをやってしまったのだ。おまけに、キスまで……(存在しない記憶)」


 まるで魔法詠唱のような朝日の早口。でも声のトーンはまるで呪術を操っているおうだ……。おまけに目に光が宿ってない……。


白鷺:「もう良いって、それよりお昼にしようよ」


東雲:「うん、お昼!」


 途端、目を輝かせながら叫んだ。さっきまでと打って変わっていつものノー天気モードに入ってくれた。


東雲:「今日のお昼はモンシロチョウの火あぶりにしよ?」


 親友に言わせたくないランキング32位の言葉に私は腹と頭を抱えた。


白鷺:「ちょっとそれは、えっと、私は遠慮しとく……、いつものサンドイッチとコーヒーでどう?」


 すると東雲は立ち上がりながら私の口に人差し指を押さえる。左目をウインクしながらこう答えた。


東雲:「セットにマロンクリームシューをつけてね」


白鷺:「まったく、おぬしも悪よのう」


 最近体重が気になってきたというのに、なんでこうも甘いものを提案するのだか……。でもあんな笑顔で言われたら断れるわけがない。まるで、。この自由奔放さは何度見てもにやついてしまう。


 ——私も、朝日みたいになれたらいいのにな……。 


 人を笑顔にできる人。そうなれたなら鹿な私でも朝日のそばに意味があるのだろうか。ふとそう感慨に浸っていると朝日はすでに食堂の高木たかぎさんに注文していた。


 東雲:「おばちゃん! サンドイッチにコーヒー二つ、あとマロンクリームシュー二つくださーい!」


高木:「あいよ、って言いたいところだけど、マロンクリームシューは一個しかないよ」


東雲:「えー!! まじー!?」


 全身で落胆した様子を表現する朝日。でも少しして悩みながら、「それでもください!」と食堂の高木さんに伝えた。


高木:「あいよ、420円ね」


 と二人分のお金を朝日が支払い、私に渡してきた。「いつもありがと」と私が言うといつも「気にしないで」って特大の笑顔で答えてくれるのだ。


 というのも白鷺は極度の人見知り。食堂の高木や担任の鴨沢かもさわに話すときも声が上手く出ないのだ。それを助けたという関係で白鷺と付き合い始めたというのはまた別のお話である。


 私は買ってもらってきたサンドイッチを口にしながらずっと気になっていたことを聞く。


白鷺:「にしてもさっき、私にどうしようって聞いていたけど何かあったの?」


 すると朝日はコーヒーの飲んで「コーヒーにがーい!」って言いながらも少し緊張した顔をした。


東雲:「えっと、数学のテストで一夜漬けで勉強はしたんだけど、途中で寝ちゃって……、白紙で出しちゃったの……、だから追試確定なんだ……」


白鷺:「そりゃあ、落ち込むよね……」


 私は朝日の言葉をのみこんだ。だがここで一つ思い返してみる。


 どうしよ、と連呼しながら私にハグ。私の貧相な胸に顔をうずめて、涙とかを押し付けられた。おまけに、キスまで……(存在しない記憶)。


 ——うん、平常運転だね……


白鷺:「ってことはテスト真っ白ってこと?」


 私が恐る恐るきいてみると朝日は顔を縦に振った。そして顔を振った直後にはまた顔色を悪くしている。


 ——何か励ましの言葉を見つけなくては……。


白鷺:「えっと、逆に言えば朝日はこと私は思うけどねー」


 すると東雲は少し首を傾げた。


東雲:「色?」


 それに白鷺は首肯した。


白鷺:「例えば元気いっぱいの石田君なら黄色、いっつも落ち込んでばかりの鈴木君なら青色、みたいに人には色ってものがあると私は思うの」


東雲:「そうなの? それで真保は私の色が白って言いたいの?」


白鷺:「そう。白っていうのは何の色にも染まれるから感受性が高い人なの。簡単に人と仲良くなれる朝日にぴったりの色じゃないかな?」


 すると朝日はハッとした様子だ。


朝日:「そうか、私は白色なのか。テスト満点の人は赤にしか染まれないから、なんにも書いてない私は純白なのか!」


 そう納得してくれて私は朝日の単純さにほっとした。


 この理論で行くとテストの赤具合は勉強に対する熱意を表し、真っ白な東雲は全くの熱を持たないだらけ者ということに言いだしっぺの白鷺は気づいていたのだ。


朝日:「ってことで今度は勉強頑張るぞー!」


白鷺:「勉強は計画的にね……」


 私がそう釘を刺すと朝日はそのまま動かなくなった。目元を見るといつもは開くパッチリした目が穏やかに閉じていた。さっき号泣していたし、私の詐欺まがいな言葉で安心できた証拠だろうか。


 ——全く、朝日らしい……。


 まるでいつか羽ばたくことを夢に見るオオムラサキのサナギ。サナギからかえったときに里山の王となる蝶。その美しさに私は知らず知らずのうちに引き寄せられていたんだと初めて気づいた。


朝日:「もう食べられないよ……」


 そう朝日の寝言が聞こえた。その声はとてもやさしかった。これが私の親友と誇ってしまいたいほどにだ。大胆不敵な印象の彼女の繊細な一面。これを絵にするなんて、どうしてできるだろうか、いやできない。


朝日:「あぶったモンシロチョウ、もう食べられないって」


白鷺:「いや何があった!?」


 思わず私は声を出して突っ込んでしまった。その日の日差しはまだ早い夏の陽気を感じさせるものだった。



〈day2 / 11:20 / 時雨学園・2-3教室にて〉



鬼ヶ浜おにがはま:「テスト返すぞー」


 通称・雷鬼ライジングデーモンとして私達生徒から恐れられてる数学の鬼ヶ浜先生のテストが返ってきた。無論、私は0点。無事、追試行きとなったのだった。


鬼ヶ浜:「はい、今回の平均点は38.2点、低すぎる、お前らもっとしっかりやれ!」


 ——いやいやいやいや! それはないでしょ!!!


 そうクラスみんなの心の声が聞こえる。設問の文章量が法外だったことを寝起きの私は今でも覚えている。


鬼ヶ浜:「特に赤点だった奴は三日後、追試を行うから備えておくように!」


 その言葉を聞いてやっぱし私はため息をついた。面倒くさいが、身から出た錆だ。そう推しが死んだような感覚をかみしめながら私は真保の方向を見た。すると彼女は大きく一つ伸びをして天井を見上げていた。



〈day3 / 17:00 / 時雨学園・補修教室にて〉



 追試教室には既に人がいっぱいいた。推定、20人。1割の生徒がここにいるわけらしい。


 ——あれ……?


 私は顔なじみのある少女を見つけた。黒髪ロングを私とお揃いモンシロチョウの髪留めを使う陰気な少女。そう、私の一番の親友で一番の天才。


東雲:「なんで、ここにいるの?」


 そう聞いてみるが真保ちゃんは無表情でテストの答案を差し出した。


 ——点数は……、16点⁉


 思わず口にしそうになったその点数。天才の真保がこの点数を取るなんて……、何かの間違いがあるのではと探すが、ある一つのことに気づく。


東雲:「ずれちゃったんですね……」


 そうこくりと真保はうなづいた。


 8問目までは得点したのだが9問目から答えと問いが一つずれてしまい0点。その書いた答えがすべて正答であったことまでを私が察すると真保の目からあふればかりの涙が……。


東雲:「あー、よしよし、いい子だからねー」


 そう0点の東雲が頭をなでると白鷺はすすり泣くことしかできなかった。


 その後、追試で白鷺は100点を取り、東雲の顔が上がらなくなった(物理)のはまた次のお話である。(end)

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