ep3:オーロラの雨

以下、クロノヒョウ氏企画(2023/9/27)にて

題名:「オーロラの雨」



石葉いしば「オーロラ綺麗!」


 真っ暗の夜、華やかなオーロラ。自然に囲まれた私のテントとか言う隠れ家。雨が降ったらここに隠れよう! って石葉が笑いながらつぶやいてる。何年振りに会った私の幼馴染。揺れるランタンの火。まるで雪だるまのようにひざ掛けにくるまって空を見上げる。真っ暗中、緑色のはかなきオーロラの見える夜空。いや、CMの言葉を借りるなら「地球史上最高の夜」だ。


 子供のころからありのままの感想しか言わない石葉が言葉にする。するとその隣の皆川みながわ西にしの両サイドも「そうね」「せやな」って口々に言う。それでも私はなんだかオーロラが秀麗なものとは思えなかった。


西:「優香、自分もそう思うやろ?」


 大阪弁の西が私・柴宮優花しばみやゆうかに聞く。そうね、とだけ私は答えた。オーロラは確かにきれいだ。でも、私にはなんだか悲しく思ってしまう。


あの時、七年前、カナダで見た仲良し5人で見たオーロラはとてもきれいだった。儚くて、でも美しく、水ににじむエメラルドグリーン。


 みんなで笑い合ったあの空。ホンマ寒ぃやっちゃな! と何度も茶化してしていた西、くしゃみが止まらなかった皆川、とてつもなく素直な石葉。何事にも臆病だった私。そして、私に「オーロラを見よう」と誘ってくれた由利ゆり


 でも今日のオーロラは違う。作り物で場所は秋田県のキャンプ場。秋田県観光推進機構あきたけんかんこうすいしんきこうと大手民間企業の合同プロジェクト、『秋田の夜空にオーロラを!』というイベント。なんか、曇の反射を利用してオーロラを投影するとか、なんとか……。


 どうやら今日はそのプロジェクトの施行運転のために私たちは呼ばれたということらしい。


西:「そういやぁ、由利はどないなった?」


柴宮:「由利は仕事だってメールが来てる」


皆川:「確か、このプロジェクトの最高責任者でしょ?」


石葉:「え、マジ、それヤバ!」


 それゆえに由利は別行動。二日前くらいにDMが来ていたのだ。


 ——でも正直、オーロラは由利とも一緒に見たかった。

 

 だって、由利たちとオーロラを見に行った時も由利の方から誘ってくれたから。あの時を思い出すと、自然と由利の笑顔を思い出す。無邪気で、私を誘ってくれた最高の笑顔を……。


 気づいたら目に涙を浮かべていた。誰にも気づかれないような涙の雨。ぽつりぽつりと落ちていく。


 オーロラは綺麗だった。でも私の心の中にはずっと雨が降っているようだった。やっぱし由香ちゃんがいてほしい……。


 ただのわがままというのはわかってる。


 でも、もし、由利と一緒に見れたと思うと……。


石葉:「ねえ、知ってる? このキャンプ場の怖いうわさ」


 唐突に石葉が面白おかしく話題を出す。食いつくのは西。


西:「うわさ? なんやそれ」


石葉:「それは、このキャンプ場で涙した人は……」


 私はぞっとした。涙……隣の皆川さんが私の涙に気づいたのかな、手で口元を覆ってる……。


 ——え、私……!


石葉:「幽霊に首を……」


 さっきから首元に重さを感じる……。え……、嘘……。皆川さんの口元がそう動いた。私はパニックになって声が出せなかった。


石葉:「しめられるぅ!!!」


 その言葉と同時、首元が絞められた。思わず「いやあああああああああ!!!」って誰もいないキャンプ場で叫んでしまった。


 恐怖で目を閉じてじっとしてみる。ブルブルと、震えて、その時を待っていた。でも、絞められていた首が緩んできて、なんだか背中に抱き着かれたような、そんな温もりが背中からした。


???:「もう、そんなにビビらないでよ、優香ちゃん♪」


 耳元でささやかれた声が私の歓喜に触れる。まるでクラリネットのような美しさの声。私は思わず叫んだ。


柴宮:「由利ちゃん!?」


 立ち上がって、せっせと彼女と向かう。ランプの灯に照らされた彼女。微笑みの中、懐かしそうに私をじっと見つめる。


柴宮:「どうしてここに? 仕事があるんじゃ……」


 すると由利はこらえきれなかったのか、無邪気に笑い出した。


由利:「このプロジェクトはね、みんなとまたオーロラを見るために作ったのよ」


 そうカミングアウトしていた由利。でも私は由利を抱きしめていた。さっきヘッドロックをかけてきたお返しだ。じゃないと、そうじゃないと、この嬉しさはどうやっても返しきれない。


 心の雨がまた強くなった。きれいなオーロラを見ても降り続いた雨。それはまだしんしんと続いている。由利のお腹の中で、今度は大雨のように涙がこぼれ落ちていく。その雨粒を見て、由利は永遠と頭をなでてくれていた……。


 でも今までと違うのは、オーロラがにじむような私の雨が暖かくなったこと。あまりの嬉しさからかな、ずっと涙の雨が止まらなかった。


 ずっと、続けばいいのにな……


 そう思えたのは七年前のオーロラを見た日以来だった……。(ED)

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