それぞれの物語

桜桃

想妖匣-ソウヨウハコ-

筐鍵明人-キョウガイアキト-

1-1

 家に一人、藍色の髪が乱雑に切られている少年がゴミ箱を漁っていた。

 体は細くガリガリ、髪はボサボサで栄養が行き届いていないのが一目でわかる。


 ゴミ箱の中には食べかけのパンや、お惣菜のカスがある。それを残さず拾い上げ、少年は必死に食べていた。


 ごそごそ漁っていると、汚部屋と呼ばれるほど汚い部屋に、一人の綺麗な女性が帰ってきた。


 綺麗な髪、露出度が高いワンピース。化粧が濃く、香水の匂いもきつい。

 そんな女性がゴミ箱を漁っている少年を見て顔を赤くし、甲高い声で怒りを散らした。


「何やってんのよあんた!」

「ひっ、ご、ごめんなさい…………」


 女性の声に肩を大きく跳ね揚げ、少年は手に持っていた食べかけのパンを落とす。

 怯えている少年の前に立つと、女性は何を思ったのか。突如手を振り上げ、乾いた音を部屋内に響き渡らせた。


「意地汚い子、ご飯ならしっかりと準備してあげたでしょ? あと、なんで部屋の片づけが出来ていないの。三日間、貴方は何をしていたのよ愚図」

「ごめんなさい、ごめんなさい。でも、三日前にあった食パン、昨日でなくなって…………」


 叩かれた頭を支えながら顔を上げ、涙を浮かべながら言うと、女性は怒りの形相を浮かべまたしても手を振り上げた。



 バチン バチン!!



「この、役立たず!! ゴミが私に言い訳してんじゃないわよ!!」



 バチン バチン!!



 少年は小さく謝罪をしながら頭を支え、その場に蹲る。そんな時でも、女性は手を振り上げ続け、乾いた音が鳴り響く。


「はぁ、はぁ……」


 女性が息を切らし動きを止めた時には、少年は気を失っており、目を閉じ動かなくなっていた。だが、息はしていたため、気絶しただけだとわかる。


 そんな少年を見た女性は、親指の爪を噛み、憎しみが込められている表情を浮かべ鞄の中に入っていたスマホを取り出した。


「もう限界、こんな気味の悪い糞餓鬼、産まなきゃよかった。――――――もしもし、お母さん、私だよ。ちょっとお願いしたい事があるんだけど―――うっさいなぁ、怒らないでよ。今まで私も忙しくて連絡取れなかったの。そんなことより、もう私限界だから、私の子供引き取ってよ。はぁ? 私の子供!! 想相そうし!! あんたが名前つけたんでしょうが!」


 その後も苛立ちに任せるように言葉をまくしたて、電話口の相手がまだ何か言っているのを無視し強制的に切った。

 寝ている少年、想相を睨みつけ、舌打ちを零す。


 テーブルの上に置かれている紙とボールペンを手に取り、乱雑に文字を書くと、また少年を置いて部屋を出て行った。


 目を閉じていた想相の目からは一粒の涙が流れ、口が微かに動く。


「い、かないで。お母さん――……」

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