1-3

 ファミレスに入ると、想相はより一層震え老人に抱き着いた。

 そんな彼を安心させるように背中を撫でてあげ、席に座る。

 離れようとしない想相を膝の上に乗せ、メニュー表を開き一緒に見た。


「どれも美味しそうね想相君。どれがいいかしらぁ」


 明るい声色で聞いて来る老人を見上げ、想相は戸惑う。

 それでも老人は料理の写真を指しながら「これも美味しそうねぇ」や「これはどうかしら」と色々おすすめしている。


 戸惑いながらも想相は老人の目を追い見ていると、一つの写真で目を止めた。


 老人は戸惑っていた彼が動かなくなり、想相の顔を覗き込む。視線を追うとそこには、お子様ランチプレートの写真。オムライスやポテトといった、子供が好きそうなメニューが載せられており、老人は問いかけた。


「これがいいの?」

「…………」


 遠慮がちに頷いたことを確認すると、老人は微笑み店員さんに頼む。

 それから数分後に頼んだメニューが到着。想相は目を輝かせ、食べてもいいのかと老人を見上げた。


「いいわよ、たくさん食べてね」


 フォークを渡しながら言うと、想相は受け取り食べ始めようとする。だが、フォークの使い方すらわからないのか、再度見上げた。


 正しい持ち方を教えると、ゆっくりと食べ始めた。


 楽しそうに食べている想相を優しそうな瞳で見ている老人。でも、その瞳は微かに揺れ、悲しげにも思えた。


 食べ始めてから数十分後、食べ終わった想相は満足そうにお腹を叩く。

 その様子を見て、老人は頭を撫でた。


「よく食べました。それじゃ、行こうか」


 膝に乗せていた想相を抱っこして、お会計に行く老人に唖然。また置いて行かれると思っていたため、驚き戸惑う。

 焦っている彼を気にせず、老人は会計をした。


「あら、可愛いお孫さんですね。これは好きかなぁ?」

「あらら、ありがとうございます。想相君、ほら。おねぇさんから飴ちゃん貰ったわよ」


 渡すと、想相は受け取り、目を輝かせた。

 嬉しそうにしている想相を見て、二人は微笑みそのまま店を出た。


 飴を大事そうにくるくると回し楽しんでいる彼を見て、老人は決意を固めた。


「想相君」


 名前を呼ぶと、想相は飴を回すのをやめて老人を見た。


「もし、想相君が良ければだけれど、私と一緒に暮らさない?」


 ※


 月日が流れ、想相は今おばあちゃんと共に暮らしていた。

 おじいちゃんはもう他界しており、二人暮らし。幸せな暮らしをしていたが、おばあちゃんも歳には勝てず、想相が五歳の時に病気で死んでしまった。


 そこからはまたしても転落人生。親戚の家を転々としていた。


 また一人の生活。親戚も嫌々預かっており無関心。

 子供ながらに大人達の心情を察していた想相は、何も言わず、関わろうとせず。一人で暮していた。


 心を完全に閉ざし、誰とも関ろうとしない子供になってしまった。

 そんなある日、幼稚園に転入した想相に、男女二人が声をかけた。


「ねぇ!! 一緒に遊ぼ!!」


 茶髪の女の子と、男の子。

 女の子が男の子の手を引いて、想相を遊びに誘う。


「あ、私の名前はね、しんむおとね! こっちがね、おじんまひるって名前なの!」


 満面な笑みを浮かべ自己紹介をする音禰おとねに、 真陽留まひるは苦笑い。

 手を離し、想相の前で腕を組み言い切った。


「しょうがねぇから、これから一緒に遊んでやるよ!」

「もう!! まーくん! そんな言い方はだめだって言っているでしょ!」


 二人はそのあとお互いに文句を言っていたが、想相はそんな二人に気づかれないようにゆっくりとその場から姿を消した。

 居なくなってしまった想相を不思議に思い、二人は顔を見合せる。


 そこで、音禰は勘違いしてしまった。


「かくれんぼだぁぁぁあ!!!」

「あ、待てよおとちゃん! 今回のは違うって絶対に!!」


 真陽留の止める声を聞かず、音禰は想相を探した。

 当の本人は後ろから聞こえる自身を呼ぶ声に困惑、廊下で立ち止まっていると、後ろから走ってきているさっきの二人を見て目を開き驚いた。


「あ!! 見つけたよ!!」

「ひっ」


 追いかけて来る二人に驚き、想相は反対側に逃げる。

 音禰は目を輝かせ、「今度は鬼ごっこ!!」と逃げる想相を追いかけ続ける。


 廊下では必死に逃げる想相と、音禰の笑い声。保育士に見つかるまで鬼ごっこは続いていた。

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