1-2
物音と誰かの声に少年、想相は目を覚ました。
外は青空で、カーテンのない部屋を明るく照らしている。
目を擦りながら体を起こすと、テーブルの上に置かれているメモが目に入る。
近付き覗いてみると、そこには想相宛ての文字が乱雑に書かれていた。
『あんたみたいな障害のある子、もう無理。これからはおばあちゃんに見てもらいな』
これだけが書かれている紙を見て、想相は黒い瞳をかすかに開くと同時に、涙が零れ落ちた。
まるで宝物を抱きしめるようにメモ紙をぎゅっとすると、その場に蹲る。
嗚咽を漏らし、泣き声を堪えていると、玄関の方から自身の名前を呼ぶ声が聞こえハッとなった。
『想相君!! いるかい!? おばあちゃんだよ!! 想相君!!』
外から聞こえたのは、母親の声に似ている女性の声。
紙を抱きしめながら立ち上がり、後ろ髪引かれる想いで玄関へと向かった。
頭の上にあるドアノブを回し開けると、そこには息を切らし立っている老人の姿。
雰囲気が昨日までいた女性に似ており、眉は下がり今にも泣き出しそうな顔で想相を見下ろしていた。
「想相君……」
今の想相はお世辞にも健康的とは言えない。
頬はこけ、髪はボサボサ。体は細く、服から覗き見える肌には殴られた跡が複数もついている。
今にも消えてしまいそうな彼を見た瞬間、我慢していた涙が溢れ、老人はたまらず想相に抱き着いた。
「ごめんね、ごめんね。おばあちゃんがもっと早く貴方を引き取っていれば、こんなことになっていなかったのに……。私の娘が、本当にごめんなさい」
嗚咽と涙でうまく言葉を聞き取れなかった想相だったが、久しぶりに感じた人の温もりに体が温まるのを感じ、涙がまたしても零れ落ちる。
老人の肩に顔を埋め、子供とは思えない程小さな声で泣き始めた。
一般的な身長、体重に到底届いていない体を小刻みに震わせ、泣き声を頑張って抑えている想相に、老人はまたしても涙。
何度も何度謝り、何度もお互いの温もりを確認し。ずっと、抱きしめ続けていた。
二人が落ち着いたのは出会ってから一時間後。今は、部屋の中を片付けていた。
「あら、想相君は休んでいてもいいのよ? おばあちゃんがやっておくからね」
老人が言うが、想相は首を横に振ってゴミ袋にビールの空き缶やお惣菜の空を入れている。
そんな彼を見て、老人は目を細めた。
その時、ぐぅぅぅぅううううと、お腹の音が部屋に聞こえた。
老人が想相を見ると、顔を赤くしお腹を押さえている姿があった。
慌てて弁明しようと口をパクパクしている彼に、老人は微笑み、手に持っていたゴミ袋を床に置いた。
「お腹空いたわよねぇ、私もお腹が空いたわ。一緒にご飯でも食べましょうか」
頭を撫で言うと、想相はポカンと口を開け唖然。老人はすぐに立ち上がり想相の手を握り、外へと歩き出した。
二人が向かったのは近くのファミレス。想相は建物が見えてくると、顔を青くし老人の手を引っ張った。
「ど、どうしたの? ファミレス嫌いだったかしら」
いきなり手を引っ張られ、驚き想相の前に座る。顔を覗き込み、安心させるように頭をなでながら問いかけた。
顔が真っ青になっている想相を見て、老人はどうしようと眉を下げる。
顔が青く、体はプルプル震え怖がっている。どうして怖がっているのか聞くも、答えてくれない。
どうすればいいのか悩んでいると、お店の中から一組の親子ずれが出てきた。
「あの、どうしたのですか?」
「あ、すいません、こんな所で。いえね、私の孫にご飯を食べてもらいたいのだけれど、ここから動いてくれなくなってしまって」
聞くと女性は子供と共に想相を見る。
「…………あら、この子……」
口に手を当て驚きの声を上げた女性に、老人は目を丸くした。
「知っているの?」
「い、いえ。話したことはないのですが、確か……。たしか、この子一度このファミレスに来たことがあるはずですよ。私も偶然その場に居たのですが…………」
「…………ですが?」
言いにくそうに言葉を切ってしまった女性に、老人は催促するように問いかけた。
「いえ、母親らしき人しかお食事をとっておらず。この子は水だけを飲んでいたんですよ。変だなぁ、と思って気になっていたんです。ご飯を食べ終わると、なぜか母親は店員と少し話すと、止める声を聞かずにこの子だけを残して店を出て行ってしまったんですよ。その後は私も店を出てしまったので、この後どうなったかわからないです…………」
その説明を聞き、老人は想相を改めて見た。
体は小刻みに震え、微かに動く口元からは声が漏れていた。
耳を澄ませ聞いてみると――………
「ごめんなさい、一人にしないで……。なんでもするから…………」
聞こえた瞬間、すべてを悟った老人は立ち上がり、想相を抱きかかえた。
「わっ!」
驚き老人を見た彼に笑いかけ、教えてくれた親子ずれに一礼をした。そのまま店の中に入ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます