アマリア・フェアズ

2-1

 晴天の中、小さな村ではお祭りが行われていた。


 村の人達がそれぞれ果物やお米、お酒などを持ちより、村の中心でシートを敷き、宴を楽しんでいる。

 大人達は持ち寄ったお酒を楽しみ、子供達は走り回り遊んでいた。


 今日は、代々受け継がれてきた村の生誕を祝うお祭り。

 そんな明るく楽しい日に、一人だけ。賑やかな輪に加わろうとしない少年が木の影で膝を抱え、座り込んでいた。


 太陽の日差しから逃げるように穴が開いているローブを身に纏い、頭はフードで隠している。隙間から見える水色の髪は、風にそよがれていた。


 片手は地面に垂れており、その手には本が置かれている。


 一人の時間を過ごしていた少年に、一人の少女が近付いて行く。

 背中くらいまで長い髪を揺らし、笑顔を浮かべ少年に声をかけた。


「ねぇ! そこで何してるの? 遊ばないの?」


 少女の声に顔を上げた少年の瞳は、左右非対称。赤と黒の瞳が目の前にいる茶髪の少女を捉えた。


「わぁ、あなたの目、すごくきれいね! あ、私の名前はフェアズっていうの! あなたは?」

「…………アマリア」

「アマリアだね! ねぇ、アマリア、私と一緒に遊ばない? お父さんとお母さんはお酒飲んでいるから臭いの。だから、近づきたくなーい」


 腕を組み頬を膨らませ怒るフェアズを見て、アマリアはお酒を楽しんでいる大人達を見る。

 その中に、アマリアの親はいない。


 アマリアの両親は、彼が物心ついた時に他界。村長に預けられたのだが、左右非対称の瞳を気味悪く思っており、一人にされることが多かった。


 ご飯や服などはしっかりと与えているが、それだけ。

 最低限なお世話しかされていないアマリアは、人の温もりなどを知らなかった。


 今、なぜフェアズが自分に話しかけてきたのかも、なぜ自身と遊びたいのかも。

 何一つわからないアマリアは何も言わず、何事もなかったかのようにまた顔を俯かせた。


「あ、あれ。ねぇ!! 私、暇なの! 遊ぼうよぉ!!!」


 アマリアのローブを引っ張り、フェアズはお願いする。

 彼女の行動にアマリアは困惑し、顔を上げ手を離させた。


「えっと、なに? 僕の他にもたくさん、君と遊んでくれそうな人いるじゃん。何で僕なの? 一人だから可哀想だとか思ってる? それなら心配不要だよ。僕は一人の方が好きなの。だから、関わらないで」


 アマリアが言うと、フェアズは最初こそきょとんとしていたが、すぐに言葉の意味を理解し、顔を真っ赤にして怒り出した。


「そんなこと言わなくてもいいじゃん! 私はアマリアと遊びたいと思ったから話しかけただけなのに!」

「そう思った理由がわからないの。今でわかったでしょ? 僕と話していたところで面白くもなんともないよ。だから、僕に無理に話しかけなくてもいい」


 アマリアは本を片手にその場から去ろうと立ち上がる。その時、フェアズはアマリアが持っていた本が目に写った。


「それ、何の本?」

「っ、え? これ?」


 アマリアは、フェアズに持っている本を見せ、そのまま渡した。

 素直に受け取りページを捲ると、中には輝かしい海や、透き通るような青空が描かれていた。


 ページを進めると、緑が広がる森の中や青色に輝く洞窟の中などもある。


 本の中には幻想的な世界が広がっており、フェアズは歓喜の声を上げ目を開き、興奮したようにアマリアを見た。


「これ、これ!! これって、何!?」

「それは、冒険者だった時の父の記録だよ。父は冒険者だったから、いろんなところに行って絵を描いていたの」

「え? 冒険者なのに、絵を描いていたの?」

「うん。そもそも、父は僕にいろんな世界を見て欲しいという気持ちで冒険者になったみたい。写真もきれいだけど、絵の方が伝えたいもを書き加える事が出来るから頑張って絵を描いていたんだって。それを集めて、本を作ってくれたの」

「そうなんだ。なら、これはアマリアの大事な宝物なんだね!」

「え、ま、まぁ……。そうだね。大事なものだよ」


 まさかそんなことを言われると思っておらず、アマリアは気後れし、戸惑ったように返事。

 汚さないようにフェアズは本を返し、隣に座った。


「え、なに?」

「一緒にその本を読みたいの。ね、いいでしょ?」


 笑顔で聞いて来たフェアズを邪険にする事も出来ず、アマリアは困惑しながらも本を開き、一緒に本を読み始めた。

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