シンデレラ物語

「これでシンデレラの話は終わりです」

「ええ~、もうおわりい」

「もっとお話して」


 拍手をする子どもたちの目は輝いている。

 ルナはこの瞬間が好きだ。


「今日のお話はおしまいだけど、このあと美味しい物が待っているよ。みんな手を洗って来て」

「うわーい」

「駆けないで、転んじゃうよ」

「転ぶのは先生のほうでしょ」

「じゃあ先生はゆっくりと行くね」

「先生、お先にどうぞ」


 以前は早い者勝ちと我先に先頭に立っていた子たちが譲るということまで覚えた。

 順番に並ぶということさえ知らなかったのだ。


「ルナさんがいらしてくださり、あの子たちは変わりました」


 神父が子どもたちを見て言った。


「変わったというより、もともと持っている潜在能力を引き出すきっかけを作っただけです」

「おお」

「子どもはみんな無垢で生まれて来る」

「ルナさんにこの修道服スカプラリオを譲らないといけない」

「すみません、偉そうなこと言って」


 子どもたちから歓声があがった。


「やっぱり子どもはお菓子が好きですね」

「今回のチョコレート菓子もルナさんがお声をかけてくださったのですね」

「結婚式のドタキャンがあって廃棄処分される寸前のお菓子たちだったんです」


 ルナの挙式のときの試食で知り合ったパティシエNとは今でも連絡を取り合って、新メニューの相談から、行き場所のなくなったお菓子の相談まで受けている。


「ルナ、神父様、このたびはありがとうございます」

「いや、こちらこそありがとう。おやおや」


 泣き声がした子どもたちに駆け寄って行った神父。


「子どもって肩書やネームバリューに関係ない。まずいものはまずいと評価を下される。最初はドキドキものだったよ」

「でも、違ったでしょ」

「ああ、目をキラキラ輝かせて、ああいう笑顔で食べる子に久々に出くわしたよ。何だか初心に戻った気がした。今まで自分が勝手に高みに上がっていたけど、ふっと力が抜けた。世界のパティシエなんておだてられて押しつぶされそうになっていたんだ。ありがとう、ルナ」

「いえ、ここにいらしたのはNさんですし、スタッフに預けても良かったんですもの」

「ルナ、そろそろ帰ろうか」

「カズさん」


 長男のハヤトを抱いたカズがもう片方の手でルナの肩を抱き寄せた。


「カズさん、出産祝いに大きなチョコレートケーキ送ります」

「ありがとう。次は女の子がいいかな」

「元気だったら、それだけでいいわよ」


 ルナは大きなお腹をさすりながら、ゆっくりと歩を進めた。




       【了】






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

 🏠大谷家はいつもミステリアス(🏠あの不動産屋は何処に消えた!シリーズの総集編でおます) オカン🐷 @magarikado

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る