バージンロード
「バージンロードか。カズくんは約束守ってくれたみたいだな」
「パパ」
赤いカーペットの上を一平の腕に、ルナは自分の腕を絡ませて歩いている。
こんなことしたことなかった。
長いようで短い距離だった。
待ち受けているカズにルナの手を委ねると、一平が言った。
「よろしくお願いします」
このときルナは初めてお嫁に行くんだなと実感した。
衣裳選びのとき何も発言しなかったカズが一つだけ条件を出した。
ウエディングベールは顔を隠すやつと。
そのベールを持ち上げてキスをした。
回りから、そのキスの時間が長い、長いと冷やかされた。
乾杯が終わり、食事が落ち付いた頃、一之介が近くのテーブルでビールをお酌したり、ワインをついだりと忙しい。
名刺を配って挨拶している。
「このほど司法書士の事務所を立ち上げまして」
と、言って回っている。
相手はカズの義弟だと知り受けがいい。
さっそく仕事がまいこんだようだ。
カズの両親の日本での生活が長かったから訪米客も多い。
「一之介って、あんな子だったか? 随分と積極的だな」
「二人養わなきゃならないから必死なんだよ」
いつも遼平の陰に隠れているような一之介だった。
あきこと結婚し、あきこのお腹にはベビーがいる。
今日はさすがに呼び出しのかからない一平と遼平はワインを楽しんだ。
遼平は一平のあとを継いで警察官になった。
ユイとは仲良くやっているが、ユイにイタリア留学の話などもあって結婚への道のりはまだまだ遠そうである。
「おお、お疲れさん」
戻って来た一之介に一平がワインを注いだ。
「あの俳優知ってる。サインもらっちゃおうかな」
「やめとき」
和服のナオが一之介をたしなめた。
「帰りもファーストクラスのチケット取ってくれたんでしょ」
「ああ」
「向こうに帰って疲れがでないようにって、ルナのハズバンドは優しいな」
「ルナちゃん、お肉か何か切ってあげようか?」
「ううん、いらない。デコルテがきつくて」
「そういえばルナちゃん、今日胸大きいね」
「パット入れてるから。カズさんのエッチ」
「ぼくたち夫婦なんだよ」
ルナがぶつ真似をしたら、その手をつかんで離さなかった。
「デコルテ緩めてもらう? それとも着替える?」
あれだけ大変な思いをして作ってもらったドレスを脱いでしまうのは惜しいような気がした。
「もうちょっと頑張る」
「ルナちゃん嫌かもしれないけど、僕たち今広告塔になっているんだよ。五十嵐家のカズがどんな女性と結婚したか、披露宴に列席した客の顔ぶれ、料理にどれだけの金を使っているか、すべてがチェックされている。五十風財閥ここにありって」
「いやだ、急に緊張してきた」
ルナは姿勢を正した。
「僕のママ見てごらんよ。変なオーラ放ってギラギラしている。州知事選に立候補する話も出ている」
カズママはにこやかにテーブルを回って挨拶をしている。
地模様にバラの花をあしらった光沢のある薄墨色のドレスを着ている。
いつものような華やかさはないが、確かにそこから出ているオーラはハンパない。
「ルナ」
ナオの声がした。
両親たちは今日の飛行機で帰る手はずになっていた。
「しっかりとね。ルナが選んだ道なんやから。カズさんどうかよろしくお願いします」
ルナが立ち上がろうとすると、
「そのまま、そのまま、主役が消えたらあかん。見送りはええよ」
カズの両親に挨拶すると足早に出て行った。
ルナは涙を堪え、旅立ちの日を実感するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます