第6話 あの日(霧島 礼子視点)


 その日は私にとってなんの変わり映えのない1日...なはずだった。


 *


 その日の私は少し体調が悪くそれも私自身自覚していた。しかし、学校を休むほどでもないと感じた私は少しダルい体を引きずるようにと、学校へと向かった。今にして思えば私の歯車はそこから少し狂い始めていたのだと思う。


 学校へと着いた私は一応は幼馴染である十六夜 綺羅の席の隣につくと、グッタリしてしまい机へと倒れこんだ。すると綺羅はなにを思ったのか「大丈夫か?」と私に声をかけてきた。

 最近の綺羅の様子がおかしいことには私も気づいていた。昔は、顔を合わせれば私か綺羅のどちらかが喧嘩をふっかけ言い争いになっていたのだが、夏休みを入る前くらいからそういったことはメッキリと減った。

 それどころかこの日は私の体調を心配する始末。誰がどう見たって変だろう。

 当然、私のプライドが綺羅に手を借りるなんてことを許すはずもなく拒否。結局、この日は気合いだけでなんとか乗りきることに成功した。


 しかし、授業を乗りきったのはいいものの無理をしすぎたせいか体が限界を迎えたのか、少し足元もおぼつかなくなっていた。そして帰り道、事件は起きた。

 この日は最近やたらと私と接触し話しかけてくる綺羅がいつも以上に声をかけて、私の心配をしていた。そして「体調が悪そうだから家まで送ってやる」とまで言われた。

 でも、意地っ張りな私は綺羅に貸しを作ることが許せず綺羅の制止も振り払って逃げるようにして家へと走り出した。


 その直後に私はまずったな、と思った。急いで周りも一切見ず走り出した為か、はたまた体調の悪さ故に気がつかなかったのかは分からないが、私の目の前には大きなトラックが迫っていた。避けようにも間に合わない、私の脳内を「死」の一文字を駆け巡った。


 しかし、実際は予想していた衝撃が私に来ることはなかった。...そう、私に来ることはなかったのだ。私が不思議に思って目を開けるとそこには幼馴染である綺羅の目を覆いたくなるような見るも無残な姿で転がっていた。

 即死であることは誰の目から見ても明らかだった。


「えっ、綺羅?」


 しばらく状況が理解出来ず呆然とその場に座りつくしていた私がようやく立ち上がれたのは、しばらくして救急車と数台のパトカーが到着した後のことだった。



 あの時、十六夜 綺羅は私を庇って死んだ。ただの嫌いな幼馴染なはずだった。向こうだってそう思っていたはずだ。


「なんで、なんで私なんか助けたのよ、あのバカっ...」


 しかし、綺羅は自分の命を捨ててまで私を助けてくれた。自分の身一つすら守れず、手を差し伸べてくれた綺羅にさえプライドが邪魔して素直に手を借りることすら出来ない性格の悪い私を...。

 もうその時の私には後悔しか残っていなかった。


 あの時、そもそも学校を休んでいれば..。

 あの時、素直に保健室に行っていたら...。

 あの時、綺羅の言葉に素直に従っていれば...。


 あの時っ、ちゃんと私が死んでいれば....。


 綺羅が馬鹿な私のせいで死ぬことなんてなかったのに。


 そして、誰がどう見ても私のせいで綺羅が死んだ、というのに綺羅のお母さんは私を全く責めなかった。正直、どんな酷い言葉を受けたとしてもそれが正当なものであると考えていた。

 しかし、それどころか「礼子ちゃんが生きていてくれて良かった」と言い出す始末。

 そして、目は赤く腫れあがっており、顔色だってもう倒れそうなほど悪いのにも関わらずだ。


 しかし、それが逆に私を蝕んだ。何故、綺羅が死んで私なんかがのうのうと生きているのだろう?

 そんなことばかり考えるようになった。何度後悔して、涙を流しても綺羅が返ってくることはもう二度とない。そんな事実を受け入れられず部屋に引きこもっていた私はある時、突然意識を失った。


 ご飯もまともに食べていなかったからだろうか? それとも精神的な問題だろうか、目を覚ました私がそんなことを思いながら体を起こすと7月1日に戻っていた。

 何故、こんなことが起こっているのかが分からなかった。現実では絶対に起こりえない現象だし、論理的にもおかしすぎる。

 でも、私にとってはそれらは全てどうでもいいことだった。


 時間が戻ったということは綺羅はまだ生きているのだ。


 その瞬間に私のやるべきことが決まった。たとえ何が起ころうと綺羅を死なせない。


 ただそれだけである。




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 次回「噂の後輩の襲来」


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犬猿の仲であった幼馴染の死の未来を変えるべく俺が動いていると何故か彼女の方も俺に近寄って来るようになった タカ 536号機 @KATAIESUOKUOK

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