第5話 なにかがおかしい
まぁ、なんやかんやあって礼子と俺は一緒に帰ることになったわけだが...。
「アンタが歩道側を歩きなさいよ」
「嫌だ。俺は車道側が好きなんだよ。車が好きだからな」
「そんな話初耳よ」
「そりゃお前に言ったことないからな」
「とーにかく、私が車道側よ」
「俺だ」
早速喧嘩になってたりなかったりしていた。
*
「大体、アンタなんでそんなに車道側にこだわるのよ。歩道側からでも車くらい見えるでしょ」
「それは...」
少しでも礼子のリスクを減らす為、というのが本音だが当然そんなことを言えるはずのない俺は言葉に詰まってしまう。
「...お前こそなんで車道側にこだわるんだよ」
しかし、このままなにも言い返せなければ主導権を握られると判断した俺は逆に礼子に問いかけてみる。そもそも礼子が車道側の方にこだわっていたイメージは一切ない。なんで今回に限ってそんなにこだわってるんだ。
「そ、それは...アンタにいちいち言うことでもないでしょ」
「だったら俺が車道側でいいだろ」
「いいえ、私よ」
「「ぐっ」」
お互いが折れることがないことを理解した俺たちは思わずそんな声を漏らす。本当になんでこんなことにこだわってるんだよ、こいつ。いや、俺もなんだけどさ。
でも、俺の場合はちゃんと理由があるからな。...礼子がここまでこだわる理由が正直マジで分かんないんだよな。こいつ効率厨だから「そっ、好きにすれば」くらいだとばかり思ってたのに。
もしかしたら、俺のことが嫌いすぎて俺の意向が少しでも通るのが嫌なのかもしれない。
「くっ、これじゃあ埒があかなそうね」
「そうだな。となれば」
「えぇ、分かってるわ」
俺と礼子はおもむろにお互い手を出して構えをとる。勿論、勝負方法となればこれしかいないだろう。
「「じゃんけん」」
「「ポイっ」」
*
「屈辱。とても屈辱的だわ」
「....そんなにか?」
結果は俺の勝ち。ということで俺が無事車道側になれたのだが礼子が恨めしそうな目でずっと俺を見ながら、そんな言葉を吐いていた。..本当にどうしたんだ? こいつ。もしかして今日も体調が悪かったりするのか? ずっと変だし。
「じゃんけんとは言えアンタに負けるとは...」
「じゃんけんだけじゃないと思うけどな、負けてるのは」
「....普通にぶん殴るわよ?」
「じ、冗談だ」
少しからかっただけだったのだがマジのトーンでそんなことを言われてしまい、慌てて取り消す。こいつ本当に普通にぶん殴って来そうだからな、怖いんだよ。
「っと!?」
そんなこと話しながら歩いているとついつい足元を疎かにしてしまっていた俺は、転がっていた缶かんに気がつかずそれを踏んでしまいバランスを崩して背中から倒れてしまう。
「...?」
だが、来るはずの衝撃がいつまで経っても来ないことに気がついた俺は閉じていた目を開けた。
「はぁ、ボーとしてるんじゃないわよ」
「えっ?」
するとそこには俺の体が地面につく寸前で引っ張り上げ少し汗をかいている様子の礼子の姿があった。
「全く、心配をかけるのもいい加減にしなさいよ」
「ご、ごめん。ありがとう..?」
俺が状況を理解出来ず困惑していると礼子は更に有り得ないセリフをつぶやくので、俺は最早軽いパニック状態に陥ってしまう。
こいつが俺のことを心配..? 本当に今日の礼子はなにかがおかしい。なにがあったと言うんだ。
結局、俺が冷静さを取り戻せたのは家に帰ってしばらく経った後だった。
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次回「あの日(霧島 礼子視点)」
短くてすいません。次回が長くなりそうだったので..。良かったら星や応援お願いします。
あと、更新日をこれから日曜日、火曜日、木曜日にしようと思うのでよろしくお願いします。(もしかしたら、しばらくは毎日投稿でいくかもですがあまり期待はしないでください)
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