第4話 一緒に帰りましょう


「おい、十六夜いざよいの奴と霧島さんが一緒に食べてやがるぞ」

「はぁ!? 今日ってノストラダムスの大予言の日かなにかか? 世界終わるのか?」


 さて、礼子と食堂へとやって来たのはいいものの周囲からの視線を集めすぎて少し居心地が悪いな。礼子が気分悪く感じて途中で帰られても嫌だし、ここはちょっと離れてもらうことにするか。


「コホン、で、俺たち何の為にここに来たんだっけか?」

「あら、さっき言ったはずよね。後輩の子がアンタにたぶらかされてるって言うのを聞いたから忠告の為よ」


 俺が大きく咳払いをして礼子にワザとそう尋ねると礼子も意図を汲み取ってくれたようで、ワザと大きな声でゆっくりとそう答えた。

 すると周囲も納得したのか途端に俺たちに興味をなくしたようで聞き耳をやめ始めた。

 ...いや、分かりやすいな。まぁ、確かに普段の俺たちの様子見てる奴らの気持ちを考えれば分からなくはないだが。


「お前が言ってるのは神宮じんぐうのことだろ?」

「えぇ、その子よ。というかちゃんと心当たりはあったのね。てっきりアンタのことだからないと言うのだとばかり...」

「そりぁ、後輩の女子で俺が関わってるの神宮くらいだからな」

「あ、あぁ、なるほど。納得したわ。まっ、そりゃそうようね。考えてみれば簡単だったわ。アンタがそんな女子とポンポンと仲良くなれるわけないものね」


 礼子は俺の返事にやや驚いた顔を見せたが続く俺の言葉を聞いて落ち着きを取り戻したようで、何故かドヤ顔でそんなことを言う。

 ただ、そんなことを言われれば十六夜 綺羅である俺はこう答えるしかない。


「...もう帰っていいか?」


 実際には帰る気は一ミリもないがあくまで不信感を抱かれない為だ。


「ご、ごめんなさい。今のは謝るわ。だから...ちゃんと話を聞かせて頂戴?」

「えっ?」


 てっきり「なんでアンタに主導権があると思ってるのよ」って言われて、無理やり首元を捕まえられて逃げられなくされるのを想定した俺は礼子のまさかの行動に唖然としてしまう。


「な、なによ?」

「い、いや..なにも」


 いや、全然「なにも」ではないのだがむしろ聞きたいことだらけなのだが、このチャンスを逃すわけにはいかないのでグッとこらえることにする。...実は俺そこまで嫌われてなかったのか? それとも礼子が俺が思っている以上にこの件に強い関心を持っているのだろうか? 前者であればかなり有難いのだが。


「それで...どうなの?」

「だからたぶらかしてなんかないって。大体俺ごときがたぶらかせる立場だと思ってんのか?」

「...それもそうね。たぶらかされる立場だものね」

「普通に手が出そう」


 俺の言葉を聞いて大きく頷いた礼子に少しイラッとした俺はついいつものようにそう答えてしまう。さっきまでの俺に言ってやりたいわ。礼子はちゃんと礼子だって。変な勘違いすんなって。


「大体そもそもどこで聞いたんだよ、その誤情報」


 礼子が噂話を信じるような奴ではないことを知っている俺はここで純粋な疑問としてそんなことを聞いてみる。まぁ、黙りこくったままだと空気が悪くなりそうだったというのが主な理由だったのだが。


「朝、珍しいことに美久にあったのよ。それでそこでアンタが後輩の子にひっつかれてたのを見たって話を始めて、後輩の子がアンタにたぶらかされてるんじゃないかって噂も流れてるって...」

「美久がか? それは確かに珍しい」


 美久と言えば朝は遅刻癖からかほとんどあうことがないイメージだが今日礼子と会っていたとは..しかも、その内容が俺の話とは。

 それに普段、美久って礼子と話すとき俺の事を話すと礼子がイラつくの知ってるからあんまり話題にあげないはずなんだが...まぁ、そういう日もあるか。


「でしょ。だから美久がそういうの話すの珍しかったから気になっただけ」

「な、なるほどな」


 行動だけで考えれば礼子らしくないとは思ったが話を聞いて納得がいった。確かに美久が言うと少し気になるかもしれん。


「さっ、分かったならき、今日は..その、一緒に帰りましょう?」

「は?」


 えっ、なにどうゆうこと!? さっきまで納得しかけていた俺の脳内は礼子の言葉に軽いパニックを起こしてしまう。どういう意図があっての発言なんだ、これ?


「い、いや、そういうんじゃなくてね? その後輩の子をたぶらかしてないなんて言うけどアンタの言葉じゃやっぱり信じられないから見張っておこうかなぁ、って。ね?」


 すると礼子も俺が動揺している理由に気がついたのか慌ててそんな弁明を始めた。いや、もしそうだとしても礼子にしてはかなり変な行動をとっているんだが...それでも。


「まぁ、いいけどさ。変な疑い持たれるの嫌だし今日くらいなら」


 こんなチャンス逃すわけにはいかないからな。


「ほ、本当?」

「ちょっ」


 すると礼子はパァと顔を明るくして俺の手を握ると心底ホッとしたように息をついた。

 こ、こいつ本当にどうしたんだ? 礼子ってこんな奴だったけ?

 しかし一方の俺はといえばあまりの出来事に理解が追いつかず完全停止してしまうのだった。




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 次回「なにかおかしい」


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