第3話 どうやって近付こうか——ってアレ?


 さて、先程「礼子を救う」という決意をし、勢いよく家を飛び出してきた俺であったが...。


「あぁもう...どうやって近づけばいいか分からない!」


 早速、難題に直面していた。いや、自分でも分かってる。あれだけ決意表明しといてこんな感じなの誰がどう見たってクソダサいって。...でも、どうしようもないものはどうしようもないのだ。

 礼子の死やら時間が戻ったやらの衝撃的すぎる出来事がありすぎたせいで忘れていたのだが、俺は普通に礼子と仲が悪かったのだ。

 いや、本当に自分でも今更って感じだけどこの件に関してこれによる障害は大きい。

 10月1日の交通事故による死に限ったとしても俺が礼子が一緒に帰ることは絶対条件だ。


 だがしかし、今の俺が積極的になんとか関係を持とうと行動したとしても礼子からすれば不気味にしか映らないだろう。

 そりゃそうだ。昨日まで険悪だったはずの奴が突然一緒に帰ろうとか言い出したら怖いし。

 むしろ、俺から逃げようとした礼子が車に跳ねられて死ぬなんて最悪の展開まで起こり得るかもしれない。

 それにこれに関しては俺の予想でしかないのだが10月1日を乗り切ったとしても礼子が安全とは言いがたい。

 本来なら礼子は10月1日に交通事故で死ぬのだ。それを捻じ曲げるのだから次の日に死んだとしてもなにも不思議じゃない。常に最悪を想定して動くべきだ。

 それも考慮するとこれから礼子とはかなり仲を深めるか、なんらかの理由で側にいる理由を作ってなるべく近くにいれるようにしないといけない。——が、現実はそう簡単じゃない。


 そもそも迂闊に近づくことすら出来やしない。これに関しては最初の接触が勝負だからな。俺の変わった行動に対して不信感を抱かれてしまえばその時点で詰み。ほぼ無理ゲーと化する。

 物理的な話で言えば隣の席なのでいつでも話しかけることは可能なのだが精神的ハードルが高すぎるんだよな。

 そしてあれこれ考えている内にもう昼食の時間となってしまい今に至るわけだ。


「はぁ、一体どうすれば...」

「とりあえず学食でも食べに行かないかしら? アンタどうせ弁当忘れてきてるんでしょうし」

「そうするか。とりあえず飯食わないと——、な!?」


 隣からそんな声がかかり流れで返事していた俺だがその異常性に気がつき動きを止めた。

 アレ? なんか色々おかしくないか?


「なによ、アンタ。まるで新種の生物でも見たかのような反応して」

「い、いや、だっておかしいだろ! お前俺のこと嫌いなはずなのになんで突然...」


 平然と答える礼子に流石に我慢できなくなった俺はついそんな返しをしてしまう。アホなのか? 俺。

 今のは礼子に近づくまたとないチャンスだったのに...。


「...な、なんか後輩の子がアンタにたぶらかされてるって話を聞いたから、アンタにその話を詳しく聞いて場合によってはってね。それでどう? ついて来るの?」

「な、なるほど。そういうことか」


 いや、俺別に後輩誰一人としてたぶらかした覚えないけどね!? まぁでも、礼子がそういう話を耳にして俺から根掘り葉掘り聞こうとしてのこの行動ならまだ納得が出来る。

 っていうか時間が戻ってるなら礼子は7月2日に同じ行動をしてたはずなんだが...全く記憶にないな。

 まぁ、3ヶ月も前のことだし覚えてなくて当たり前っちゃ当たり前なんだけど。


 だがこれは考えてもみなかったチャンスだ。ここでの会話で少しでも仲を良くするなり一緒にいる理由を作れれば一気に目標達成に近づける! そうとなればここでの答えは了承の1択だ。


「分かった。俺だって痛くもない腹探られるのは面倒くさい。付き合ってやる」


 まぁ、とはいえ不信感を抱かれない為にこうやって今までの俺の感じを出しつつなんだがな。


「それじゃとろとろしてないで行くわよ。私、ノロノロとしてるの嫌いなのよ」

「分かってるよ」


 かなり珍しい行動をしているが礼子のそんなセリフを聞き、「やっぱり礼子は礼子だな」とのんびり派の俺は思いながら礼子の後を追うのだった。


 *


「....あのー礼子?」

「な、なによ? 私になんか文句でもあるのかしら?」

「...いや、文句はないんだけど」

「な、ならいいいじゃない」


 場所は教室から少しいった所の二階から一階へと向かう為の階段。礼子はそれまで俺に「ついて来なさい」と言わんばかりにいつものようにスタスタ歩いていったのだが階段を前にして突然スピードダウン。

 何故か俺を前に行かせようとはせず、なおかつ俺にぴったりと後ろを歩くように指示してゆっくりと階段を下っていた。...おかしい。


 いや、流石にこれは明らかにおかしすぎる。まるで俺が階段からこけて死ぬとでも思っているかのような慎重さと過保護さである。最早、これは新手のバカにする方法なのではないかとすら思えてくるくらいだ。

 でも、こいつの場合ゆっくり歩くこと自体ストレスかかってそうだし、俺をバカにするとしても違う方法選ぶと思うんだけどなぁ。


 俺はそんな疑問を浮かべながらも礼子と共に食堂へとたどり着くのだった。



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 次回「一緒に帰りましょう」




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