第2話 後悔と決意


「礼子が死んだ...?」


 普段は決して起きることのない午前6時に母にたたき起こされた俺は聞かされた突拍子もない話を呑み込むことが出来ず、その場で制止していた。


「えぇ、お願いだから落ち着いて聞いて頂戴。昨日の夜に交通事故に遭ったそうで今さっき病院で...」



 しかし、段々と目覚める意識と母の説明によって状況をやがて理解した俺であったが...理解はしても納得することを拒みが脳内が色んな感情でぐちゃぐちゃになる。


「昨日の夜...」

「そう。昨日の夜」


 しかし、そんな中でもやがて1つの感情が俺の中で次第に大きくなっていく。

 ...俺のせいだ。

 思い出すのは昨日の礼子の具合の悪さを必死に隠していた見栄っ張りな表情。美久からの頼み。...いつものように口喧嘩になり別れて帰った道。


「それで今日の夜にお通夜があるから今日は学校を休んでもいいから必ずそれには出席して...」


 母はその後も話を続けていたが何を話していたかは覚えていない。



 *



「礼子が死んだ...」


 結局、今日の学校は休むことになった俺は母が部屋を出ていってしばらくした後も事実を事実として受け止めきれず、気づけば何度もそんなことを呟いていた。

 どうか夢であってくれと願いながらも頰を流れる塩水のしょっぱさが現実を突きつけてくる。

 そしてその度に生まれる後悔。何故、あの時ついていかなかったのだろうか。ついていってれば..礼子は交通事故に遭わなかったのではないか?

 そんなことばかり考えてしまい体はドンドンと重くなっていく。このままではいけないと考えた俺は考え方を変えようと試みた。


 分からない。俺は礼子のことが嫌いだったはずだ。なんでこんな気分になってるんだ?

 それに交通事故に遭ったのは礼子自身の問題であって俺が責任を感じることじゃないはずだ。

 ただ嫌いな奴がたまたま交通事故に遭い死んだ。ただそれだけ。

 なのに、なんでこんなにも...。


 いくら嫌いな奴とはいえ16年間の付き合いであった礼子の死は俺の胸にぽっかりと穴を開けてしまったようだった。



 そして、その後結局なにもする気がおきずご飯にも手をつけることができなかった俺は気がつけば意識を失っていた。


 *


「はっ!?」


 目を覚ました俺は自分がいつのまにかベッドの上にいることに気がつきやや違和感を覚えつつ体を起こした。


「明るっ。今、何時だ?」


 てっきり夕方ぐらいにはなってるいるものと思っていたので、窓から差し込んでくる明るい光にやや戸惑いながらスマホを取って時間を確認する。


「....6時?」


 そして次の瞬間に目に飛び込んできた時間に俺は固まった。




 *


「母さん、母さん!」

「あら? こんな早い時間に珍しい。なにかあったの? 宿題?」

「いや、そうじゃなくて...」


 部屋から飛び出してリビングまで全力で駆けていった俺であったが、そこには呑気な顔をした母がいた。そう、俺が目覚めた時間は朝6時。つまりこれがなにを意味するかと言えば日をまたいでしまっているということだ。

 通夜は母の言葉によれば昨日の19時なはずだからもう終わってしまっている。


「なんで昨日起こしてくれなかったんだよ」

「? 昨日...ってなにかあったけ?」


 しかし、俺の言葉を聞いても尚「訳がわからない」といった母の様子に俺は痛烈な違和感を覚えた。


「あったもなにも通夜だよ! 通夜っ」

「通夜って誰の通夜よ。...全く夏休みが近いからって浮かれすぎて変な夢でも見たの?」

「誰って礼子の——」


 そこまで言ったところで母から妙なセリフが飛び出したことに気がついた俺は口を止めた。


「んっ? 夏休みが近い?」


 いや、今はもう10月なはずなんだが...母は大丈夫なのだろうか?


「いや、そんな「この人大丈夫か?」みたいな顔してるけどおかしいのアンタだからね?

 今日から7月よ。どう考えても夏休み近いでしょ」

「...」

「はぁ全く...寝ぼけるのも大概にしなさい」


 母は呆れたように頭を手で抱えていたがそれどころではない俺は...。


「ちょっ、なんで部屋戻るの!? どうせなら家事を手伝ってよ〜」


 状況を整理すべく全力ダッシュで自分の部屋へと向かうのだった。なんか、後ろから聞こえた気がしたが無視である。うん、本当にごめん。いつもなら...いや、手伝ってはないけど今は特に無理だ。


 *


「よし、落ち着け。落ち着いて状況を把握しよう」


 10月2日におそらく眠って起きたら7月1日になってたよ〆


 うん、ごめん。整理出来ないわ。本当にこれどういう状況なの? 全然「〆」じゃないから、このままじゃ終われないから。


「いや、やっぱ普通に夢だったんじゃないか? ...なんか違うんだよな」


 色々と考えた末に現実的な答えを出し自分に言い聞かせようとしたが、納得出来ないことが多く自分で首を横に振る。

 夢であってくれとは何度も思ったけどあれは間違いなく現実で...礼子は死んだはず。

 でも、今は7月1日だ。


「となると..」


おかしいな考えだとは分かってる。現実的じゃないことも。それでも、やっぱりこれは...。


「時間が戻った?」


 全くおかしいな考えだ。夢で片付ける方がよっぽど現実的で常識的なはず。それでも俺はどこか確信に近いなにかを感じとっていた。

 そしてこれが意味することは..。


「礼子を助けられる?」


 もし、時間が戻ったとするならば礼子は再び10月2日に死ぬことになる。しかし、今回は違う。俺はその未来を知っている。

 なんでこんなことになっているのかは分からない。でも、俺がとるべき行動は1つだ。


 礼子を救う。今度は死なせない。


 俺はそう心の中で決意すると再びベッドに入り眠ることにした。




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 次回「どうやって近付こうか——アレ?」










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