第10話 10月29日 その1
「――それで、急にどうしたの。御笠くんから呼び出すなんて珍しいけど、何かあった?」
「そうだぞ。どうせ試食なんてただの口実なんだろ」
「試作ケーキ食べれるのは嬉しいけど、ほんとどうしたの?」
ハチポチのカフェスペース。
クリスマスケーキの試食会と称し、アキと桑原さんに集まってもらったが試食会はあくまで建前。そもそも試食会などウチでした事ない。
「最近さ、琴音が――」
「帰ろうか」
「そうね。御笠くん、ケーキ美味しかったわ。店長さんによろしくね」
「帰るなよっ」
席を立とうとする二人につい声を荒げてしまった。
「せめて最後まで聞いて帰れよ」
「はいはい。で、琴音ちゃんがどうしたって?」
「なんて言うか、スキンシップが激しいというか――」
「やっぱ帰ろうか」
「そだねー」
「だから帰るなよっ」
「冗談よ。普段はどんな感じなの?」
「そうだなぁ。一緒に駅まで来るようになったし、この間は一緒に学食行ってたなよな」
「なんでおまえが答えるんだよ。まぁ、そうだけどさ」
アキの言う通り、ここ最近は一緒に登校して昼休みも一緒に過ごす事が多い。少し前から比べると割と“普通の関係”になった気はする。
けれど問題はそこではない。自分で言うのもアレだがとにかく俺にベッタリなのだ。さすがに学校ではそれなりに距離を保っている。しかし休日は人目を気にせず手を繋ごうとするし――
「家じゃ俺の部屋に入り浸るし、隙さえあれば抱き着いてくるし。こんな風に後ろからな」
「へぇー、琴音ちゃんにそんな事までされてるのか。地獄に落ちろ」
「ま、まぁ。付き合ってるならそのくらい普通なんじゃない? よくわからないけど」
「付き合ってるなら、な」
「なんだ。まだ“保留”してんのか」
「え、何それ。御笠くん、まだ返事してないの」
「俺じゃなくて、琴音の方。親父たちの事があるからまだ返事が言えないって」
「ああ、だから困ってるのね」
ようやく俺の悩みを察しってくれた桑原さんだが、その表情は明らかに面倒臭いと言っていた。
「琴音って気を許した相手には甘えるとこがあるのよ。御笠くん相手なら尚更なんじゃない?」
「なんで」
「そりゃ好きな相手だからだろ。鈍いな」
「おまえには言われたくねぇよ」
「けど、アキくんの言う通りだと思うよ。御笠くんもそこは分かってるんでしょ」
「そ、そりゃ分かってるけどさ――」
「御笠くんの言いたい事は分かるよ。でも、わたしたちがどうこう指図できる事じゃないよ」
カフェオレの入ったカップに口を付ける桑原さんは一息つくと俺をじっと見つめた。
「御笠くん、一つ聞いても良い?」
「なんだよ」
「琴音の事、好き?」
「――好きだな」
「そっか。ならその気持ちに素直になりなよ。御笠くん、まだ琴音の“弟”でいようとしてるんじゃない?」
「そう……かもな」
「二人が難しい関係なのは知ってる。私たちじゃ分からない壁があると思う。それを壊せるのは御笠くんしかいない」
「そうだな。いまさら怖気づいても琴音ちゃんを困らせるだけだろ」
「アキくんの言う通りだよ。私も背中押してあげるからさ、ちょっと頑張ってみなよ」
「ありがとな。って、なんか俺がダメな感じになってないか?」
「違ったか?」
「ちげぇよ!」
「まぁまぁ、あとで琴音に連絡入れてみるから」
「何か考えでもあるのか」
「ちょっとお灸をすえてあげるだけよ」
「またかよ。頼むから程々にしてくれよ。強すぎるとあいつが暴走するからな」
「どういうこと?」
「あ、いや何でもない」
いかん。下手な事言ってるとボロが出てしまう。そうなれば桑原さんはともかく、アキから何されるか分かったもんじゃない。
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