第11話 10月29日 その2

 「あ、おかえり。ケーキは?」

 「いきなりそれかよ。はいコレ。クリスマスケーキの試作品」

 「やった。ハルくん大好きっ。おじさん、さっき仕事行ったよ」

 「おばさんは?」

 「遅くなるって。なんか人手が足りないんだって」

 「へぇ、公務員も大変だよな」

 「と言うことで――」

 「うわっ。ちょっ、いきなりなんだよ」

 いきなり抱き着いてくる琴音にバランスを崩し、危うくケーキの入った箱を落としそうになる俺。そういうとこだよ。琴音さん。

 「? どうしたの?」

 「あのさ、琴音?」

 「なに?」

 「とりあえず、離れてくれないか?」

 「あ、ごめん」

 「その、急に抱き着くのは出来れば止めてくれないか」

 「ご。ごめん」

 ちょっと冷たくし過ぎたか? 表情を曇らす琴音を見ると少しばかり罪悪感を覚えてしまう。

 「ハルくん、こういうの苦手?」

 「苦手って言うか、もう少し線引きしてほしいって言うか――」

 「そ、そうだよね」

 「別に嫌じゃないけどさ、返事聞けるまではセーブしてくるとありがたいかな」

 「う、うん。わたしたち“姉弟”だもんね。努力する」

 「ケーキ、チョコとクリーム好きな方選んで良いぞ」

 「ホント? やった。じゃあ、チョコ! あとクリームも食べたいっ」

 「いやどっちかにしろよ」

 「どうせ莉子たちと一緒にお店で食べてるんでしょ。だったら両方食べても良いじゃん。あ、冷蔵庫入れとくね」

 「はいはい。先にシャワー浴びてくるから」

 ケーキの入った紙箱を琴音に託して脱衣所に入った瞬間、俺は大きく息を吐いた。やっぱり琴音と二人きりになると調子が狂う。


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