第6話
目が覚めた。ひどい夢だ。ピアノの鍵盤蓋を見ると、私の涙で濡れていた。窓の外を見ると、白い月が輝いていた。電気をつけていない薄暗い部屋で、ぼんやりとその月光を眺めていた。
スポットライトが私を照らした。1週間前、彼と参加した最後のコンクールを思い出す。あのとき既に、彼は彼自身の音を失っていたのだろう。
鍵盤蓋を押し上げて、白と黒の羅列を眺める。そしてそっと、指を沿わせる。
──荘厳でいて美しく、もの悲しい音色は、不思議と夜の月の歪な光を思い起こさせる。
あ、染まった。
私の音、彼のピアノに。染まってしまった。
私にもう、未来への道筋を明るく照らす月光は弾けない。彼の音に溺れ、一緒に沈む。光が闇に染まるのは一瞬だった。自分の音が崩れ去っていくのをみるのは、何だか気分が良かった。
そう広くはない室内に、ピアノの号哭が鳴り響いてやまなかった。
月光〜SONATA quasi una FANTASIA per il Clavicembalo o Piano - Forte 夜海ルネ @yoru_hoshizaki
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