Bomber who gets in the way of LOVE

大隅 スミヲ

Bomber who gets in the way of LOVE

 その連絡が来たのは、3回目のデートを楽しんでいる時だった。

 映画館で映画を見て、ちょっと遅めの昼食をファストフードで済ませて、映画の感想などを言い合っていたところで、スマートフォンがテーブルの上で震えるのが見えた。


 思わず舌打ちが出そうになった。でも、彼の前でそんな仕草を見せるわけにはいかない。まだ付き合って一か月。ようやく3回目のデートまで辿りつけたのだ。


「ごめん、ちょっと電話」


 わたしは彼に断って席を立ちあがると、店の外に出てから電話に出た。


『――――お休みのところ、申し訳ありません』


 電話を掛けていたのは、部下の大塚だった。


「どうかしたの?」

『ちょっと我々だけでは手に負えない案件が出てきてしまいまして、大変申し訳ないのですが主任に来ていただきたいと……』

「そう……。わかったわ、すぐに行くから現場の住所を送ってちょうだい」

『ありがとうございます』


 大塚はそう言って電話を切ると、すぐに現場の住所をメッセージアプリで送信してきた。

 驚いたことに、現場はすぐ目と鼻の先であり、歩いて行ける距離だった。


「仕事?」


 席に戻ってきたわたしを出迎えた彼は少し不安そうな顔をしながら言った。


「ごめんなさい……」


 わたしは表情を曇らせて彼に謝る。

 せっかくのデートだったのに。まだ3回目だぞ、3回目。わたしは心の中で毒づく。


「ううん。しょうがないよ。永遠とわの仕事はそういう仕事だってわかっているから」


 彼は笑顔を作るとわたしにそう言ってくれる。ああ、なんて良い男なんだ。こんな彼を絶対に手放してはダメだぞ。わたしは、そう自分に言い聞かせる。


「本当にごめんね」

「謝るなって。映画、楽しかったし。ほら、急がなくちゃいけないんだろ」


 わたしは彼の言葉に申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらも、その場で彼とは別れて、スマートフォンに送られてきた現場へと向かった。


 すでに現場では規制線が張られており、制服警官が野次馬の整理に当たっていた。


「お疲れ様です」


 現場の隅に止まっていた紺色のワゴン車のスライドドアを開けて中に入ると、運転席に座っていた部下の大塚がギョッとした顔をして見せた。


「お、お疲れ様です。加藤主任」


 まさかこんなに早くわたしが到着するとは思っていなかったのだろう。わたしもデートしていた場所の目と鼻の先で事件が発生しているなんて思いも寄らぬことだった。


「ブツは?」

「C4が使われているようです」


 そう言って、大塚がスマートフォンで画像を見せてくる。それは現場の状況を収めた写真だった。現場は、複合商業施設の二階で爆弾と思われるものは、消火栓の前に置かれた荷物の中に入っていたようだ。


「C4か……。厄介ね」


 わたしはスマートフォンの画像を見ながら、頭の中でどのように処理をするかをシミュレーションした。


 警視庁警備部第十機動隊爆発物処理班。この部隊は爆弾処理を専門とする6名の隊員で構成されていた。その中で解体処理担当を務めるのがわたしの仕事だった。



 現場から野次馬は排除され、爆発物の前にいるのは対爆スーツに身を包んだわたしだけとなっていた。先ほどまで大勢の人がいて騒がしかった場所が、静寂に包まれている。

 対爆スーツは、アメリカの爆弾処理班が使用しているものと同じものであり、多少動きづらさはあったが爆発物で吹き飛ばされてしまうことを考えれば、このくらいは我慢できた。

 液体窒素の入った容器を用意し、バックアップ担当の加藤と無線通信で連絡を取り合う。


「それじゃあ、爆発物を取り出すよ」


 わたしはそう言って、爆発物が入っている黒いナイロン製のリュックサックをゆっくりと持ち上げた。開いたチャックの隙間からは中に入っている粘土の塊のようなものが見える。それは訓練で何度も見て来たC4に間違いなかった。


 慎重な手つきで液体窒素の容器にリュックサックを入れて、容器の蓋を閉じる。爆弾は液体窒素で凍らせてしまえば起爆することは無い。

 その作業に掛った時間は三分にも満たない時間であったが、わたしには1時間以上に感じられた。


 そして、爆弾処理は無事終了した。



 対爆スーツを脱いで車に戻ると、そこには彼の姿があった。

 彼も警察官だった。ただ、所属部署は違う。誰かから聞いて、この場所へとやってきたのだろう。


「おつかれさま」


 彼は笑顔で言う。

 その彼の顔を見た瞬間、わたしの中の無敵の魔法が切れてしまったかのように目から涙が溢れ出て来た。無事に生きて帰ってこれた。また、彼に会うことが出来た。わたしは彼に抱きついた。


「おいおい」


 彼はそう言いながらも、わたしのことを優しく抱きしめ、そして唇を……。



 シチュエーション小説「恋人同士の二人が初めてキスをする瞬間まで」の物語、了

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