虐げられた公爵令嬢の壮絶すぎる幸せへの道

 ドアマットヒロイン。それはドアマットのように周囲から虐げられ踏みつけられてもじっと黙っているヒロインのことで、もともとは女性向け恋愛小説を扱うハーレクイン・ロマンスが発祥とのこと。

 本作のヒロイン、テッテリアもそんなドアマットヒロインの一人。公爵であるホーリーバリア家に生まれながら、家族からは過酷な仕事を押し付けられ、食事も粗末な物しか与えられず、風呂にも入れてもらえない。さらに学校への初登校の日にスラムの住人に襲われ死にかけるはめに。

 そんな彼女の状況を大きく変えるのが泡沫貴族の嫡男アギト・カラサワ。路地裏で倒れていたヒロインを助けるという、物語的にいかにも王子様ポジションな彼だが、その性格は非常に軽薄で、犯罪行為にもためらいがないというなかなかの問題児。しかし、このアギトとの出会いが、テッテリアに眠っていた恐ろしい才能と性格を目覚めさせる……。

「頑張って幸せになる話」というタイトルに偽りはないのだが、その頑張る内容は読者の想像を斜め上に超える過激なもの。これは虐げられたヒロインが素敵な王子様と出会って幸せになるシンデレラストーリー……という甘いお話ではなく、生まれ育った環境によって倫理観が壊れた少女が、世界そのものに反旗を翻す壮大な復讐劇にして歪な救済の物語なのだ。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)